第二十撃
いいかげんこのような習慣はなくなっても良いように思う。
なんといっても面倒極まりない。
友麻=オメガスクリームⅡ世はサンドラの後を追って次の対戦相手が所属するウィルソンジムに向かっている。
なにより嫌なのはこういうときいつもサンドラがはりきってみせるところだった。きびきびとした足取りで先を行くものだから、こちらもついてゆくのにそれなりの速さで歩かなければならない。
正確にいえばそういう体力面での不満は表面的なことだった。
そうではなく、指導者面したがる、大人を無理に演じたがるところが見えて嫌だったのである。
ウィルソンジムはオメガジムからそれほど遠くなく、公共交通機関を使うまでもなく歩いていける距離にある。ウィルソンジムの者がオメガジムの近くを走っているのを見たこともある。見ただけでそうだとわかったのはそれぞれの選手の所属に精通しているわけではなく、恥ずかしいことに着ているシャツの胸元に「ウィルソンジム」という文字がでかでかとプリントされているからである。オメガジムはその点についてはそのようなシャツを強制されないので助かっている。
ため息をひそやかにつく。
ファンが一人減ってしまった。
そう思ってみせるのは強がりであるという自覚はあるものの、
「それじゃあまるで子供じゃないか」
というサンドラの言葉が思い出されてしまうので、敢えてそうとらえなければ気がめいってしかたない。
(いまは仕事中だ)
気持ちを切り替える。
サミュエラのコロニー内の道は狭い。自家用車というものが存在せず、乗り物と言えば公共交通機関である電車ぐらいしかないから、道を広くする必要がなかったからであり、もっと言えば、数多くの人間を狭いコロニーの中に閉じ込めておくには道幅というものは犠牲にならざるを得なかった。
ウィルソンジムには次の対戦相手であるサンダークラップに対するあいさつのために向かっている。
ランキングが下位の者が上位の者に対して相手先のジムを訪れてあいさつをするという習慣が存在するのである。
ついでながらその場でスポーツ系のマスコミからの取材を受けることもある。たしか今回もそうだった。
マスコミ対応など想像しただけでうんざりする気質だから、
「あーあ、面倒くせえなあ」
つい口に出してしまった。そのようなことを言えばサンドラが激怒するのはわかっているが、言ってしまったから後悔する。
「禅の精神ってやつさ」
サンドラは激怒するどころか穏やかな表情を振り返って見せた。
「日本の礼の精神がこの習慣の期限なんだよ」
日本の格闘技にそのような習慣があるのかどうか知らなかったのでサンドラの言うことが正しいのかどうかわからない。もともと格闘技に興味のある人間ではないのでそのあたりの知識はさっぱりだった。
それにしても、禅の精神についてはサミュエラ人は相当に曲解をしているように思われる。なにかといえばその言葉を持ち出して不可解な習慣を正当化していると感じられた。
とはいえ禅の精神の正確な知識を述べよと言われてもそれに関する持ち合わせがないので、それについての指摘は避けておいた。
ややあってたどり着いたウィルソンジムは所属人数に比してそれほど多くはなかった。オメガジムよりはよほど大きくはあったが。支部があるのかもしれないが、知らないし知る気もない。
「入るぞ」
サンドラに促され、開かれたドアの向こうに行く。
「うっす……」




