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⑫従者はEvil Darkness☆


「ふ……ふふふ……」


 呻くように笑いながら――パメラは、ゆらりと立ち上がった。俯いた姿勢で両腕をぶらりとさせている姿はまるで死霊のようだったが、能力を”それほどでもない”と評されたフィオナはお出迎えの台詞を口にせず――代わりに肩を怒らせた。




「これを喰らっても同じことが言える!? このオバン!」


「……」


 そして両腕をパメラの方へ突き出すと、両手のひらに全力で魔力を展開する――




「超ポコポコビーム!」




 ぼっ!




 少女特有の瑞々しい感性が紡ぎ出した”ポコポコ”という言葉の詳細は不明だが、彼女が放った黒い光球がどのようなものなのかは、魔力に疎い者でも容易に想像できただろう。闇に閉ざされた結界内部を照らすほどに暗く・・、空くうすら震わせる圧力プレッシャー――そんな破壊的な魔力塊、魔人フィオナ渾身の一撃が迫ってもパメラはぴくりとも動かない。




「……」


 そして、目前に迫ってからやっと動いた。


 魔力塊が触れる寸前、彼女の方から軽く手を触れた。




 ぺしんっ!




「え?」


 つまりは虫でも追い払うように手のひらを軽く振っただけで、フィオナ渾身の一撃は弾き飛ばされ――捻じれた軌跡を描いた後、パメラの後方に着弾した。




「……ふふふ」


 大爆発の余波がパメラの法衣を激しくはためかせたが――彼女自身は気にした様子もなく微動だにしない。パメラを隔てて余波に晒された魔人フィオナが、顔をしかめるほどの熱量なのにも関わらず。




「あれ? なんか、あの、あれ? ちょっと……オバサン? あの? えっと……」


 必殺の上をゆくものをあっさりと弾き飛ばされてしまったフィオナは怯えた表情になると、握った右拳を胸元にあてて数歩後ずさった。


 しかし――




「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」


 この邪悪な笑い声から逃れることは出来なかった。そして当事者であるフィオナとしては認めたくないところだろうが、パメラのドス黒い魔力に鑑みるに――背中の羽を全力ではばたかせたところで逃げ切れる確率も極めて低い。




「下の毛も生え揃ってないお子様が……!」




 ぼっ!




「女性をオバサン呼ばわりするんじゃありません!」


「きゃああああああ!?」


 そしてたった今、その確率はゼロになったと断言できる。パメラが展開した、闇すら呑み込む暗黒の魔力によって、成すすべなく吹き飛ばされてはフィオナも否定のしようがなかったろう。




「お尻ぺんぺんじゃ済まさないわよ!」


「変わってく!?」


 黒色の野暮ったい法衣が漆黒に染まる。そして形状どころか材質まで変わっていく――闇そのものとさえ言える艶やかなバトル・ドレスへと。更に、まとっている本人は別の存在ものへと変貌かわっていく。砂地を転がりながらもフィオナはその様子を視界に収め続けた。




「うそ!? オバサンが――けほっ!」


 口に入った砂を、ぷっと吹き出したフィオナが立ち上がった時、 


挿絵(By みてみん)


「オバサンって……私を指して言った訳じゃないわよね?」


挿絵(By みてみん)


「地獄門ヘルズ・ゲートまで殴り飛ばされたいみたいねぇ!」


「え……あ……」


 すぐ目の前にはパメラが立っていた。その身には邪悪な魔力をまとい、それに負けないほどに邪悪な笑みを浮かべた女性――




「魔人……!?」


 額に怒りのマークを張り付かせた、魔人パメラが両手を腰に置いて立っていた。




(ちょっと洒落にならない魔力の量なんですけど!?)


 胸中で絶叫した後、フィオナの思考は停止した。激怒しているのが理由なのかは不明だが――とにかく、うら若きの女性パメラがまとっている魔力はそれだけ常軌を逸した量だった。立っているだけでこれであるのだから、戦闘時の魔力は想像もつかない。分かっているのはただひとつ。




(戦ったら殺されちゃう!)


 追い詰められた鼠が猫を噛むことはあっても、竜に噛みつくことはないだろう。両者の戦闘能力の差はそれほどまでに大きい。フィオナは再起動した思考でこの窮地を脱する方法を模索した。その結果を現実で実行する。




「敢えて言わせて頂きますと……生え揃ってます!」


「あんたの性徴度合なんて聞いてないわよ!?」


「きゃあっ!?」


 しかし逆効果だったらしく――パメラ怒りの拳骨がフィオナの頭頂部に振り下ろされた。




「痛い! なにすんのよ!?」


 鈍い音が響いた直後、フィオナは大きく飛び退き、両目を吊り上げた。余程に強烈な痛みだったのか、相手がどれほどの強者なのかも忘れて声を荒らげる。




「はずれなら『はずれ♪』とでも言えばいいでしょ!? 子供をぶつなんて大人のくせに大人げないっていうか、恥ずかしくないの!?」


「ビームで吹っ飛ばしてくれたくせに拳骨くらいで騒ぐんじゃないわよ!? ていうか都合の良い時だけ年齢を盾にしてるとろくな大人にならないわよ!」


「お店を壊したろくでもない大人のくせに『ろくな』なんて言わないでよ!」


 そして指差した先の地面に召喚円サモン・サークルを出現させた。




「お客さん相談員カスタマー・サービス、来なさい!」


「ググググググ!」


 砂地を突き破るように召喚されたのは、重鎧をまとった身の丈二メートルを超える骸骨剣士だった。一体だけであるが、重鎧と携えている剣、そのどちらもが魔力の輝きを帯びている。そして武装しただけの動く骸骨死体スケルトンなどではないのだと佇たたずまいひとつで分かる――かなりの使い手である。




「あんたのお馬鹿っぷりに今さら驚くこともないけど、どこの大地せかいに魔剣を背負ったお客さん相談員カスタマー・サービスがいるっての?」


「反語表現で馬鹿にしてもらったところ悪いけど! こいつは困った・・・お客さんに対応するための完全武装のお客さん相談員カスタマー・サービスなの! さあレッグス! あの困った・・・お客さんをポコポコのモッコモコにしてあげて!」


「ソノ擬音二該当スル状態ガ思イ付キマセンガ……排除命令ニ従イマス」


「困った雇い主で大変だとは思うけど、魔剣で斬りかかってくるなら反撃するわよ?」


「遠慮ハ不要! 参リマス!」


 妙に丁寧な口調の骸骨剣士レッグスは背中の魔剣を抜き放つと、重力を失念したかのような速度で斬りかかって来た。




「シャアアア!」


 不死の怪物アンデッドだからか――レッグスの斬撃は常識外れの水準レベルだった。重く、速く、鋭い――そんな一撃に対して魔人パメラが用いた手段は”めちゃくちゃ迅はやい”というものだった。




「あんたも大変ね」


「馬鹿ナ!?」


 パメラは転移に近い速度で距離を詰めると、レッグスが剣を振り下ろすに前に右の拳を叩き込んだ。




 ばぎょっ!




「ゴアアアア!?」


 大魔力が込められた一撃は分厚い鎧を容易に打ち抜き、内部のレッグスを骨粉同然にまで破壊した。




「ヤリマスナ!」


 しかし、レッグスと彼の武具はパメラが拳を構え直した時、既に復元を完了していた。




「一瞬で復元? とんでもない速度だけど……これも酒場の力ってことかしら」


「ソウデス。コノ酒場ノ呪ワレタ力ちからデス」


「ああ、そういうこと」


 嘆息した骸骨剣士の表情――皮膚はないのであくまで雰囲気である――から、パメラはなんとなくこの遺跡の役割を察した。



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