第三話 後悔
恐怖という活力すら枯れ果て、生田はついに動けなくなった。体を支える二本の棒きれが折れるように崩れ落ち、うなだれた。目を閉じると、身体は音も光もない本当の闇に包まれた。
――本当に、出られない。
絶望の底で、笑いすらこみ上げてくる。生田は闇に無防備な身体を守るように膝を抱えて座り込み、額を押しつけた。動くのをやめた身体に冷気がたちまち染み始める。だが、生田にとってはこれでよかった。その冷たさは、愚かな自分への罰のようだった。額の傷と膝がぶつかって痛んだが、それもどうでもよかった。
あの時、会社に戻っていれば。あの時、志島の言うことを聞いていれば。ぜんぶ、俺のせいだ。今日を、せめて数時間前をやり直したいと何度も念じて、自分を強く抱きしめる。呼気と体臭が、抱え込んだ膝との隙間に生暖かく滞留している。それが、生田のかすかな拠りどころだった。
じゃりじゃりと志島の足音が近づいてきて、すぐそばで止まった。なにをされるのか。なにを言われるのか。
「……黙っていろと言われましたが、しゃべりますね。生田さん、喉が渇いているでしょう? 水分を摂ってください。」
音で、水筒を差し出されているのが分かった。喉は相変わらず、ねじれるように張り付いたままで、潤したくてたまらなかった。でもまだ、罰が足りない気がした。生田は水筒を受け取らない代わりにもじもじと身じろいだ。そばで志島が座り込んだらしい音がした。
「生田さんが眠っている間、私も同じことをしました。土砂を掘り出そうとしたり、外と連絡をとろうとしたり。大声で助けを呼んだりもしました。でも、どれもダメでした……このことは、もっと早くお伝えした方がよかったでしょうか」
志島が柔らかい声色でそう言った。自分は無駄だと分かりきったことをあんなにも一生懸命やっていた。生田は頬に熱さを感じた。
「待つしかありませんが、幸運にも私たちの行先は把握されています。ここはそう辺ぴな場所でもないですし……救助は来ます」
どこかで水滴の落ちる音が、二人の沈黙に差し込んだ。
「……十分とは言えませんが、水もあります。そこはお尻が冷たいでしょう。もう少し、休めそうな場所を用意してありますよ――」
放っておけば、志島はこのまま喋り続ける気がした。生田は何ものにも侵せないほどに固くした身体を緩め、ゆっくりと顔を上げた。その顔はさんざん叱られたあとの子どものような顔だった。




