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石の箱  作者: スズシロ
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第一話 覚める

 ……変だ。目を開けているはずなのに、何も見えない。まだ、夢の中なのか。それとも、見えなくなってしまったのか――血が、心臓がうるさい。頭がずきずきする。


「よかった、目が覚めたんですね」

「……なにが……どうなって……」


 意識をかすめる呼びかけに、生田は夢の出口から応えた。暗闇の中へ手を伸ばす勇気が出ず、気配を探ろうと瞳を転がす。


「……ああ、そうでした。今、明かりをつけますね」


 突然、閃光に目を刺された。まぶたを閉じても光が弾ける。何をしやがる――怒りがフッと横切ったが、どうやら目は見えているようだ。


「すみません! 眩しかったですね…………これでどうでしょうか」


 光がようやくしぼんでいく。こわごわ、まぶたを開くと、自分に話しかける影がにじんだ景色に浮かんでいた。まだ、ハッキリとは見えない。身じろぐと、湿った砂がじゃりと音を立て、腕に食い込んだ。次第に、景色に浮かぶ影がその輪郭を取り戻していく。


「……お前か」


 志島が眉をひそめながらも、安堵の笑みを浮かべて、生田の顔をのぞき込んでいた。志島の背後に広がる岩壁。腕に食い込んだ湿った砂。記憶がおぼつかない。額がずきずきと痛み、思考がまとまらない。額には薄く柔らかい布が巻かれていた。とくに痛む左の眉上をそろそろと指の腹でなでると、そこだけ不自然に厚みがあった。


「崩落のときに切ったようです。止血と手当ては済ませましたが、あくまで応急処置です。安静にしていてくださいね」


 崩落――その言葉に、自分がこんな場所で転がっている理由がほどけていく。……寝ている場合じゃない! 身体を起こした瞬間、頭がぐらりと揺れた。血がのろのろと巡り、先ほどとは違う光がまぶた裏に明滅して気持ちが悪い。生田の上体が傾くのを志島が受け止めた。


「生田さん、急に起き上がっては――」

「出口は……俺のスマホは……」


 志島は「安静に」と言いかけたが、生田の焦点の定まらない瞳を見ると、口をつぐみ、スマートフォンを差し出した。生田はそれをひったくるように受け取り、よろめきながら一人で立ち上がる。たったこれだけの動作に胸が苦しくなる。


「出口はあちらですが――」


 志島が指し示すよりも早く、壁伝いに歩きだす。足元をライトで照らしても、その足取りはあまりに危うかった。


「……今は塞がれています」


 志島の言葉とともに、生田の背中は、冷たい闇へ沈んでいった。

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