第3章・後編『ギャル、卵焼きで覚醒する(後編)』
アリスは気合を入れて卵液を流した。
「……よし、今度はうち一人で巻くき!」
壮真は腕を組んで見守る。
「みよっちゃる!」
アリスは菜箸を構え、端を持ち上げた。
……ビリッ。
「えっ……破れた……!」
「力入りすぎやき。」
「う、うるさいちや! もう一回!」
アリスは破れた卵をなんとか巻こうとするが、ぐしゃぐしゃになって丸まらない。
「なんでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!卵ってこんな反抗的なが!?」
「反抗してるんやなくて、お前が下手なだけや。」
「ひどっ!」
アリスは気を取り直して卵液を流す。
じゅわっ。
「……あっ、なんか黒くなってきた!?」
「火強いきや!」
「ひええええええええええええええ!!!なんで急に焦げるが!?うち、火力の調整むずすぎるちや!!!」
「落ち着け。火弱めろ!」
「弱めたら固まらんし!!!」
「だから調整しいや!」
「むずすぎるき!!!」
焦げた卵は巻く前にボロボロになった。
アリスは卵液を流し、今度こそ……と端を持ち上げる。
……ビチャッ。
卵が破れて、ぐちゃっと折れた。
「なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!うち、卵に嫌われちゅう!?」
「嫌われてるんやなくて、技術がないだけやき!」
「それもっとひどいき!!!」
壮真はため息をつきながらも、アリスの手元をじっと見ていた。
アリスは最後の卵液を流した。
「これで最後やき……!絶対巻くき……!」
壮真は静かに言う。
「焦らんでえい。卵は逃げん。」
「逃げゆう気がする……!」
アリスは端を持ち上げる。
……ビリッ。
「……あっ!」
破れた。
アリスは固まった。
壮真も固まった。
沈黙。
そしてアリスは叫んだ。
「卵液なくなったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!うちの卵焼き人生終わったぁぁぁぁぁぁ!!!」
壮真は額を押さえた。
「終わってない。卵はまだ冷蔵庫にある」
「あるが!?」
「あるわ。」
アリスは涙目で壮真の腕を掴んだ。
「壮真……もう一回作ってもえい……?」
壮真は小さく笑った。
「当たり前や。お前が諦めん限り、何回でもやるき。」
アリスの胸がじんと熱くなる。
アリスは卵を割る。
コンッ……パカッ。
「……できた……!うち、卵割るのだけは上手になったちや……!」
「そこだけな。」
「うるさいちや!」
砂糖、醤油、出汁を入れ、アリスは真剣な顔で卵液を混ぜた。
「今度こそ……絶対巻くき……!」
壮真は静かに頷いた。
アリスは卵液を流し、火加減を調整し、端をそっと持ち上げた。
破れない。
「……いける……!」
アリスは震える手で、少しずつ、少しずつ巻いていく。
くる……くる……。
壮真が小さくつぶやいた。
「……できちゅうやん。」
アリスは涙目で笑った。
「壮真……見ゆって……!うち……巻けゆう……!」
最後まで巻き切った瞬間、アリスはその場にへたり込んだ。
「……できた……うち……卵焼き巻けた……!」
壮真は照れくさそうに目をそらす。
「当たり前や。何回もやったきな。」
「うるさいちや……でも……ありがとう……!」
アリスは自分で巻いた卵焼きを一口食べた。
「………………っ」
甘さと出汁の旨味がふわっと広がり、噛むたびに優しい味が染み出す。
「……おいしい……これがうちが作った味なんかな……なんか……胸があったかい……」
壮真は静かに言った。
「それが“成功体験”や。」
アリスはゆっくりと笑った。
「うち……もっと作りたい。もっと上手になりたい。壮真に……もっと教えてほしい」
壮真は少しだけ目をそらし、小さくつぶやいた。
「……ただし、俺は厳しいき、覚悟しいや。」
「うん!!!」
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◆こはる流・甘め卵焼きレシピ
■材料(2〜3人分)
卵……3個
砂糖……大さじ1〜1.5(甘めが“こはる”流)
醤油……小さじ1/2
出汁……大さじ1
油……適量(卵焼き器に薄くひく)
■作り方
卵をボウルに割り入れ、砂糖・醤油・出汁を加えてよく混ぜる。
卵焼き器を中火で温め、油を薄くひく。
卵液を薄く流し入れ、表面が半熟になったら端から巻く。
巻いた卵を奥に寄せ、再び油を薄くひき、卵液を流す。
卵の下に卵液を流し込みながら、同じように巻いていく。
卵液がなくなるまで繰り返し、全体を軽く形を整える。
火を止め、少し冷ましてから切ると崩れにくい。
■ポイント
火が強いと焦げやすいので“中火〜弱火”を行き来して調整する。
卵液は一度に入れすぎない。薄く広げるのがコツ。
巻くときは“持ち上げる”のではなく“押し出すように”巻くと破れにくい。
甘さは砂糖の量で調整できる。こはる流はやや甘め。




