第5章・後編『ギャル、天ぷらで世界が変わるき(後編)』
ナスをなんとか油に入れたアリスは、その場でへたり込みそうになっていた。
「……はぁ……はぁ……うち……油に勝った……?なんか……寿命縮んだ気がする……」
壮真は苦笑しながら、油の中で揚がっていくナスをひっくり返した。
「勝ってない。まだ“仲良うなっただけ”や。」
「仲良うなっただけでこんな疲れるが……?」
「お前がビビりすぎなんや。」
「ひどっ!」
壮真はカボチャを差し出した。
「次、カボチャや。」
アリスは震えた。
「……カボチャって……なんか……油に入れたら爆発しそう……」
「爆発せん。薄く切っちゅうき大丈夫や。」
「でも……怖い……」
壮真はアリスの手をそっと包んだ。
「大丈夫や。俺が横におる」
アリスは息を止め、カボチャをそっと油に入れた。
じゅわぁぁぁぁ……
アリスは叫ばなかった。
「……あれ……なんか……さっきより怖くない……?」
「慣れや。油は慣れたら味方になる」
アリスは小さく笑った。
「……うち……油と友達になれるかもしれん……」
壮真はエビを差し出した。
「最後はエビや。天ぷらの主役やき、丁寧にいけ」
アリスはエビを見て震えた。
「……なんか……うちのこと睨んじゅう……」
「睨んでない!目があるもん全部睨みゆういうな!」
「むーーー!!!」
壮真はため息をつきながらも、エビの筋を切って伸ばす方法を丁寧に教えた。
「背わた取って、腹側に浅く切り込み入れて、指で軽く押して伸ばす、そしてシッポの先を少し切り中の水分を出す。」
アリスは真剣に作業した。
「……できた……!エビが……まっすぐになった……!」
「よし。衣つけて、そっと入れろ」
アリスは震える手でエビを油に近づけた。
「……いくで……!」
じゅわぁぁぁぁぁぁ!!!
アリスは叫ばなかった。
むしろ、目を輝かせた。
「……すご……エビが……踊りゆう……!」
「踊ってはない」
「例えやき!!!」
壮真は揚がった天ぷらを網に上げた。
ナスは艶やかに、カボチャはほっこり、ピーマンは鮮やかに、エビはぷりっと美しく。
アリスは思わず息を呑んだ。
「……これ……うちが揚げたが……?」
「そうや。お前がやったんや。」
アリスは胸が熱くなった。
「よし、食べるか!!」
「うん!」
壮真は天つゆに大根おろし、抹茶塩などいろいろアリスの前に用意した。
「よし、食べや!」
「いただきまーーーす!!」
アリスはエビ天をそっとかじった。
サクッ。
「………………っ」
衣は軽く、エビはぷりぷりで甘い。
「……おいしい……なんか……うち……うちが天ぷらが揚げれた……やばい、感動しちゅう。」
壮真は照れくさそうに
「まあ……悪くない出来や。」
「褒めてや!!!」
「褒めゆうやろ!」
アリスは笑った。
「……うち、だいぶ上達したろ?。もうこはる継いでもいいかな?。」
「あほか!まだまだや!まだステージにも立ってないで!」
「まじかー。へこむー。」
さっきまで満面の笑みだったアリスの顔が落ち込んで暗くなる。
「俺でもまだステージには立ってない。お客様はお金を払って食べに来てくれてるんや。今の俺の料理にはその価値はない。」
「壮真でもそんなんながや……じゃあ、うち何年かかるろう?」
「今は基礎を頑張るしかない。包丁の切り方一つでも沢山あるし。俺も頑張って教えるからな。」
「ありがとう、壮真!!!うち頑張るき!!」
◆こはる流・天ぷらレシピ(テキスト形式)
■材料(2人分)
エビ……4尾
ナス……1本
カボチャ……4〜6枚(薄切り)
ピーマン……2個
小麦粉……適量
冷水……100ml
卵……1個
揚げ油……適量
■衣の作り方
ボウルに冷水を入れ、卵を軽く溶く。
小麦粉をふるい入れ、混ぜすぎずにざっくりと合わせる。
※粉が少し残るくらいでOK。混ぜるほど重くなる。
■揚げ方
具材に軽く小麦粉をまぶす(衣がつきやすくなる)。
衣にくぐらせ、余分を落とす。
180℃の油に“そっと”入れる。
色づいたら裏返し、カラッと揚げる。
網に上げて油を切る。
■ポイント
衣は“冷たく”、油は“熱く”が基本。
混ぜすぎると重くなるので注意。
具材は薄く切ると火が通りやすい。
エビは背わたを取り、筋を切って伸ばすとまっすぐ揚がる。




