32 嫉妬
馬車はカラカラと軽快に港までの街道を進んでいく。
私は緊張していて気づかなかったが、窓の外を眺めているロイ様を見た。
「ロイ様? どうかしたの?」
「……いや、なんでもないよ」
「浮かない顔をして。気になるわ」
「……」
私は不思議そうにロイ様を見つめていると、ロイ様は何かを考えた後、ふうとため息を吐いて私に話すことを決めたようだ。
「僕は、エリオット陛下に嫉妬していた」
「エリオット陛下に、ですか?」
「ああ。フラン嬢と話すエリオット陛下はとても優しい目をしていた。きっとエリオット陛下とシャリア嬢の二人にしかない絆があったんだろう。それこそ愛し合う二人を見ているようで僕は彼に嫉妬していた」
私はロイ様の言葉に心が温かくなる。
嬉しい。
「ロイ様、嬉しいわ。私とロイ様はこうして婚約し、結婚する。シャリアとエリオット陛下は交わることのない運命だった。それだけよ。『もしもあの時』と考えてもきっと変わらなかったと思うわ」
「……そうだね」
ロイ様の表情はまだ曇っている。
「先ほど、エリオット陛下はアマデリア王妃に聞いたと言っていたでしょう? 彼女は『知らなかった』なんて言っていたけれど、嘘ね。
当時、エリオット様を婿に迎えたい家は沢山あったし、令嬢たちからの人気は物凄かったのよ? それを潰して回ったのがアマデリア様だったの。
アマデリア様は私が不幸になればいいと思っていたに違いないわ。
だって私に宛がわれた婚約者は利用しやすい馬鹿な男だったし。エリオット様もエリオット様で恋愛感情には鈍感だった。
もし、彼が私のことを想っていたのなら婚約者になっていたはずだわ。
容姿端麗で秀才だと言われていたのにアマデリア様にコロっと騙された人よ? ないわ。
だからあの時も私が矢面に立たなければいけなかったし、私が彼を庇って殺されたんだからっ。あー思い出しただけでも苛々してきたわ」
私の言葉にロイ様はぷっと息を吐き、笑顔になった。
「そうだったね。フラン嬢は僕と結婚する。僕が君を誰よりも愛している」
「でも、アマデリア様の気持ちも今なら少し分かる。私もロイ様を愛しているわ。ロイ様にちょっかいをかける女には容赦したくないもの」
「僕はよそ見なんてしない。フラン嬢しか見ていないよ」
「嬉しい」
ロイ様の機嫌も直り、私たちは手を繋いでこれからのことを話す。
国に戻ってから式を挙げる。
誰を呼ぼうとか、子供のことも。二人で作り上げていくことに幸せを感じていると――。
突然、馬の嘶きがあり、馬車は止まった。
「賊です。じっとしていて下さい」
車内にいる護衛はそう言っていつでも戦闘ができるように柄に手を当てている。
私たちも馬車に準備されている短剣に手を取った。私もロイ様も戦いには向いていないけれど、一矢は報いることくらいはできるかもしれない。
馬車外で立っていた護衛と荷物を乗せていた馬車から護衛たちが対処に当たっているようだ。
怒号が飛び交っている。
大きな街道を通っていたため、他の馬車からも応援があったようだ。
覚悟を決めているとはいえ、やはり殺された時のことを思い出し、手が震える。
私は今度こそ、死なない。
負けない。
「大丈夫、きっと大丈夫だから」
ロイ様はそう言いながら私の手に触れた。
ロイ様だって命を狙われているのに。温かい手が私を支えてくれる。
しばらく経つと、辺りは静かになった。
騎士たちが慌ただしく動いている声や音が聞こえる。
「お二人ともご無事ですか!?」
護衛の声が聞こえ、扉が開かれた。カークス伯爵家の護衛が心配そうにしている。
「ああ、僕たちは大丈夫だ。被害の状況を教えてくれ」
ロイ様はそう言って護衛と共に車外へ出て説明を受けている。
私はロイ様を追うように外へ視線を向けると、少し離れたところに倒れている人の姿が見えた。
……無事に帰国できるのかな。
不安だったけれど、ロイ様はしばらくすると戻ってきた。
幸いにも賊は私たちを狙っていたわけではないらしいが、王都で商会に出入りしている裕福そうな人物を選んで襲ったようだ。
国は豊かになってはきているけれど、それに合わせて貧富の差が広がり、治安も悪くなっているのかもしれない。
「護衛たちに怪我はなかったの?」
「ああ、怪我人はいなかったようだ。カークス伯爵家の護衛騎士は強いんだね」
ロイ様がそう言うと、車内に残っていた護衛騎士の一人が『伯爵自ら護衛騎士を選んだのです』と教えてくれた。
ギリン兄様には感謝しきれない。
無事に帰国することができたならお礼をしないといけないわね。
賊の襲撃もあったけれど、無事に港に着くことができた。
私たちはここまで送ってくれたカークス伯爵家の護衛や御者たちにお礼をして船に乗った。
後少し……。




