31 再び王宮へ
そうして待ちに待った王宮に登城する日になった。
「緊張するね」
「……そうね。ここからは気を引き締めていかないとね」
「ああ、そうだね」
私たちは王宮に着くと、従者から「陛下がお呼びです」と案内され、従者の後ろを付いていく。
本来なら各部署で書類の受け渡しをするのだが、私たちが受け取る書類は重要書類なので宰相や陛下から直接受け取ることになる。
私たちが呼ばれたのは少人数が会議をするような部屋に案内された。
「ロイ・バルナバーシュ・ブラジェク伯爵子息、フラン・ラディード・ノール男爵令嬢をお連れしました」
「ああ、待っていた」
室内にはエリオット陛下と宰相が席に座っていた。
私たちは陛下たちの前に立って礼を取り、挨拶をする。
「ああ、堅苦しい挨拶はいい。書類はここに準備しておいた。確認してくれ」
「はい」
ロイ様は書類を受け取り、目を通し、私にも渡してくれた。
細かな部分までしっかりと目を通す。契約書の写しとエリオット陛下の一筆が加えられている。そしてイェシュティア国国王への親書だ。
「エリオット陛下、ありがとうございます。これでエフィン公爵家の横暴を止められます」
「ああ、先代のブラジェク伯爵は我が国に多大な支援をしてもらって感謝している。これくらいお安い御用だ。気を付けて帰りなさい」
「「ありがとうございます」」
エリオット陛下からはふっと笑みが零れた。
「フラン嬢、カークス伯爵からも連絡があった。やはり彼もフラン嬢をシャリア嬢だと認めたようだな。彼が認めるなんて一体どんな手を使ったんだ?」
「それは『利き茶』です。私は幼い頃からギリン兄様と利き茶をして勝負しておりました。兄様の選んだお茶も、選んだ理由も答えられたからでしょう」
「そうか。シャリア嬢は確かにお茶には人一倍煩かったな。そこは生まれ変わっても同じなのか」
「そうですね。記憶が戻る前から利き茶をしていたのも前世からのものだと思うと、感慨深いものがあります」
「カークス伯爵はいつも王宮に登城する時は表情厳しいのだが、フラン嬢と会ってからは優しい表情になった。カークス伯爵家もシャリア嬢が亡くなった時は本当に大変だったからな」
「両親には苦労をかけました。でも今、こうして幸せを掴もうとしていますから。誰にも邪魔させません」
「そうだな。シャリア嬢らしい。ああそうだ、私と君の婚約話の件は本当だった」
「でしょう? アマデリア様はなんと仰っておられましたか?」
私の身の安全のこともあるし、当時のことを思い出したという感じで陛下はアマデリア様に話をしたのだろう。
「当時、アマデリアは私の婚約者になるために必死だったらしい。私とシャリア嬢の仲が良くて嫉妬していたと言っていたな。
公爵に頼み、シャリア嬢に令息を宛がうように話をしていたようだ。その令息がまさか仕組まれていたなんてアマデリア自身も考えていなかったようだが」
「まあそうでしょうね」
仕組まれていたのを知っていても彼女なら絶対に言わないわ。
だって彼女はエリオット陛下と結婚したくて仕方がなかったんだもの。
どんな手を使っても。
いまさら過去の話を掘り返しても意味はない。私は笑顔で頷いた。
「……フラン嬢、今度こそ幸せにな」
「……ええ、エリオット陛下も元気でいて下さいね」
私たちは互いを見つめ、ゆっくりと頷いた。
「ああ。そうだ、ディッカール港まではカークス伯爵の馬車を使うといい。私の方で用意しようと思っていたのだが、彼が是非にと言っていたぞ」
「エリオット陛下、本当にありがとうございます」
「ああ、ブラジェク伯爵子息。私たちが用意するのはそれほど危険だということだ。こちらの面子にも関わるからな」
「わかりました。ここからは更に気を引き締めてイェシュティア国へと向かいます」
「ああ、そうしてくれ。では達者でな」
私たちは学生の頃ように互いに視線を送り、礼をしてロイ様と部屋を出た。
あの時、私が婚約者になっていれば彼は……。
ううん、いくら考えてたとしても過ぎた話だ。
私たちは書類をしっかりと受け取り、部屋を出てカークス伯爵が用意してくれた馬車に乗り込んだ。
家紋のない馬車だが、車内には武器と護衛が乗っていて緊張が増している。
ウェルタ侯爵を捕まえてこの国は安定したとはいえ、エフィン公爵は変わらずだ。
公爵と手を組む者はまだこちらにもいるのだろう。
ブラジェク伯爵が来るまではこの国の開発は遅れていた。属国になっても可笑しくないほどに。
属国にならなかったのは「海を挟んでいたから」ということに他ならない。
そしてこの国に来たのがブラジェク伯爵だったのも大きい。彼は攻め入るのではなく、将来の貿易相手として多大な支援をしてくれていた。
海を挟んだ大国のイェシュティア国にメルロワード国側から声を上げることができなかったが、ブラジェク伯爵のおかげで国は加速度的に発展し、力も付けた。
今なら対等にイェシュティア国と話し合いができるはずだ。




