最終ページ トゲエルフ再び旅立つ
長らくお待たせしましたっ
今回で予定していたお話を全て書き終えました。
最終ページ トゲエルフ再び旅立つ
新しい魔術の目標が見つかり、そして、新しい旅の目的も出来た。
海抜高度7000m
スロットルを開くとエンジンが唸りを上げ、操縦桿を引くとポジティブな高Gが掛かる。
ヘッドアップディスプレイのアビオニクス・モードは、空対空近接戦闘モードであることを示し、敵である『風竜イチゴショート』を垂直方向走査サブモードで捉え続けている。
ロックオン完了まであと少し。
護鷹の近接ウェポンであるパルス・光霊銃もスタンバイ済みだ。
これとサブウェポンのホーミング・フレアボムズが、わたしの今回用意した武器だ。
模擬空戦なので、お互いが使う打撃技は相手へ通達済み。
じゃないと命がいくつ在っても足りないわ。
イチゴショートは左下に向かって方向転換。
彼を追うわたしも操縦桿を左に動かし、機を左へバンクさせ、その後操縦桿を引く。
飛行機は構造上、機体の上方への機動には優れているが左右・下方向へはそうでもない。
左下へダイブするためには、いったん機体を左回転で斜め左下まで向かせてから、機体の上方へと機動することで、結果的に左下への高機動が行える。
Gメーターは、わたしが耐えられる限界の9Gを針が指している。
耐Gスーツは着てないけれど水霊が血流保護を行ってくれているから。
それでもこれ以上のGが掛かれば、脳に血が回らなくなるブラックアウトが起きてしまう。
機体は神が創ったアーティファクトだから、どんな高Gでも保つだろうけどね。
イチゴショートは、わたしをあざ笑うかのようにその上面を見せる。
高迎え角!?
わたしはとっさにアビオニクスのサブモードをヘルメット統合型照準装置サブモードへと切り替えた。今以上の高機動は機体が保っても、わたしの身体がもたない。
力場で空を翔るイチゴショートには、フライトエンベローブに限界が無い。
飛行機は主翼に発生する揚力の力が大切で、飛行方向より一定角度以上に機首を上げすぎると、失速し揚力も失ってしまう。安全に飛べる範囲を外れれば、安定度を失い破損したり空中分解してしまう。
それを無視出来るなら、理屈の上ではUFOのように鋭角的に飛び回ることも可能だろう。
今回の模擬空戦は第一回目ということもあって、何でもアリの条件で行っている。
如何に神の創りし機体を持ってしても、機動力では力場で飛ぶ彼には圧倒的に負ける。
それでも、わたしは勝負を諦めちゃいないわよ。
イチゴショートにわたしが勝てるとすれば、彼が持ち得ない魔術を駆使した空対空戦術の差しかないと思っているから。
プニ神から譲り受けた戦闘機『護鷹』は、レトロな外観を裏切り、その中身は最新鋭戦闘機並みの装備・性能を持つ。
わたしも初めてコクピットに乗り込んだ時には驚いた。
正面を見ると、ヘッドアップディスプレイの下に戦闘計器。
HUDには飛行姿勢、航法データ、兵装データ、照準データ、海抜高度、対地高度が表示されており、ШЛЕМ(ヘルメット統合型照準装置)とEOS(光霊照準システム)、ДВБ(視界外射程モード)までも表示されている。
計器盤の左上にGメーター/AOA表示計、その右側に対気速度/マッハ計すら在る。
Gメーターの下には光霊高度計、その右に風霊高度計がレイアウトされていた。
風霊高度計の左には護鷹に存在しないハズの前部フラップ制御用のスラット位置指示計が置いてあったので、わたしは風霊の宝珠を翼に取り付けて気流操作をこの指示計で行えるようにした。
もう少し模擬戦まで時間をもらえれば、カナード前翼の代わりとしても使えるように調整出来たかも知れない。
補助姿勢儀とエンジン回転計の間には昇降計。
それらの右側にマルチファンクションディスプレイと、その下に脅威警告パネルも在った。
なぜにロシア機のコクピットデザインなの?
答え、プニ神の趣味だから、だろう、おそらく、たぶん、きっと。
わたしはその護鷹で翔け巡り、ただいま風竜イチゴショート相手に絶賛空戦中だ。
皆は忘れてるだろうけど、日記の28ページに記しているアレだ。
ジルの魔剣に取り付けた風の宝玉の対価として、イチゴショートが出した条件は、
『新しい飛び方、もしくは、空を飛んで楽しいと思える何かを見つけ出して来ること』
それに対して、わたしが用意した回答は……『空戦』だった。
風の上位精霊である風竜イチゴショート、彼に勝てる空飛ぶ存在など世界に存在しない。
……神は別格なので除く……
彼にとっては、空を飛ぶあらゆるモノは全て格下であり、赤子の手をひねるより楽に勝てる。
ゆえに、彼は同格との空での戦いを知らない。
高迎え角で護鷹を振り切るイチゴショート。
機首方向からほぼ上方90度方向へ飛翔する彼を、護鷹は追うことは出来ない。
護鷹のフライト・コントロール・システムに設定してる失速迎え角限界値は32度だから。
これだって、わたしが色々と護鷹に手を加えたからこそ為し得たスペックではあるけれど。
イチゴショートの機動力にはこれでもまだまだ追いつけない。
けれど、ヘルメット照準に切り替えたわたしは、逃げる彼を目視捕捉する。
すかさずトリガーを引く。
翼下部に備え付けられた複合精霊玉から、計2つの火球が1000km/hで撃ち出され、彼をホーミングして追いかけていく。
え?なんで光の速度で飛ぶ光霊で攻撃しないのかって?
実はこの戦いの目的は、イチゴショートへの『接待』と位置づけている。
一方的な勝利を収めても、彼に楽しさを伝えられなければ、わたしの負けなのよ。
真剣勝負ではあるけれど、わたしにとっては所詮ゲームでしかない。
イチゴショートは火球を避けるために、強引なエスケープマニューバを行う。
火球はホーミングして追うが、上位の風霊であるイチゴショートほどの高機動は出来ない。
外れてしまった。
イチゴショートはもう何度目かの護鷹へのデットシックス(機体6時の方向)を取る。
彼は生前そうだったように、頭蓋骨だけとなった今でも口からのブレス攻撃が出来るし、今となってはそれだけが彼の攻撃手段だ。
竜のブレス攻撃は魔導だと言い伝えられて来たが、これで生体や器官に依存してないことが裏付けられた。
もちろん風霊を使えば360度、どの方向へも彼は攻撃が出来るのだが……
なぜか彼は攻撃に風霊を使おうとはしない。
竜のプライドなのだろうか? あくまで自分の身体を張った攻撃しか行わない。
脅威警告パネルが発するビープ音を聞きながら、わたしはパネルへ手を伸ばす。
さすがにそろそろ対策を取られそうだなぁ? と思いながら、何度目かのチャフを撒いた。
チャフと言っても金属片では無い。それに成り代わる立派な精霊術のことだ。
圧縮した対精霊空間は、空中に散布されたとたん膨張する。
圧倒的な風霊の力を駆使した力場で飛ぶイチゴショート。
対精霊空間で風霊の動きを一部阻害されると、力場が崩れ飛行安定性が失われる。
イチゴショートの飛翔が乱れた瞬間に、形勢を逆転するのだ。
っと
やっぱり何度も同じ手には引っ掛かってくれないか。
イチゴショートはバレルロールで進路をズラし正面から迫る対精霊空間から逃れてしまった。
バレルロールとは平面に例えるなら横に転がったイメージだろうか?
横方向に機体を回転させることで、進行レーンを一本分横シフトさせる回避機動だ。
こうなると機動性はあちらが上。
わたしは一気に絶体絶命へと追い込まれた。
……ように見えるでしょう?
伊達に、対策を取られるほど何度も同じパターンの戦術を繰り返して来たわけじゃない!
全てはこの時のための伏線よっ!
いまだっ!!《ゲート》
護鷹の機首の前へ展開した風霊を用いた魔法陣に突入。
同時に先ほど放出した対精霊空間の風結界内に生成されたゲート出口から、護鷹は飛び出す。
目の前には、わたしを見失ったイチゴショートが居る。
殺った!
この距離、この位置からなら文句はあるまい!
パルス・光霊銃からパルス状のレーザービームを撃つ。
わたしの光霊による攻撃魔法『光牙』をパルスで撃ち出し、破壊力を高めた物だ。
しかし
一瞬早く、無色だったイチゴショートの力場が緑色に発光して……
次の瞬間、力場は黒く染まると
レーザービームは黒色の力場に遮られてイチゴショートまで届かない。
光を吸収した?
なにあれ? どうゆうこと?
驚いたわたしの一瞬の隙を突き、イチゴショートは高迎え角からクルリと上下反転して後ろ向きとなった。
!!
クルビット機動法だ!!
そのまま護鷹の後ろを取り返したイチゴショートは、淡い緑色のブレスを吐く。
『空間振動波』
触れたもの全てを原子に分解する彼の超必殺技。
機体は保ったが、推力と揚力を得るための空気の層を根こそぎ破壊され、ストールする護鷹。
そして振動で思い出した。
海の水は、水分子の振動によって赤色光を吸収してるから青いのだと。
つまり、イチゴショートは空気中の分子を幾つかの層に分け、各層の分子を100テラ~1ペタ程度の周波数でそれぞれ振動させ光を吸収して防いだ、ってことなのかな?
正確に言えば吸収じゃなくて、振動方向へ光を放射し結界内へ光が侵入出来なくした物だ。
分子の密度が薄い空中でそんな無茶を押し通せる巨大なパワーがムダに凄いというか。
驚きの知恵、というか、たぶん経験なんだろうけど。
さっすが太古の昔から生きて来たってダケはあるわね。
自分の得意とする技を攻撃と防御の両方に巧みに利用しているとは。
今日の所は、年寄りの知恵ってやつに帽子を脱ぐとしましょうか。
あ~ぁ、負けた負けた。
この高度では失速状態から立て直せない。
わたしは機体から『飛翔』で脱出し、機体を召喚元の場所へと送還した。
ま、わたし的には接待を果たせたので勝利と言ってもいいだろう。
これでイチゴショートが気分を良くして、次も働いてくれれば何もいうことないしね♪
地上に着いた時の、イチゴショートはドヤ顔だった。
くっ~~ やっぱり、これはこれで悔しい。
イチゴショートから降りてきたレティが『ゲロゲロゲロ~』ってしてたのには申し訳ないけれど、これでレティも風の上位精霊であるイチゴショートと契約出来たことだし、ま、苦労以上の成果は在ったってことで。
上位精霊と契約出来る幸運はなかなか無いんだから。
ゲロった程度でそれを得られるなら、万々歳だよね? ね?
それにしても、イチゴショートが使う龍語魔術の効果の高さには驚きだ。
彼らは魔術式に頼らず炎や雷を吐いたり空を飛んだりする。
ニアたちに聞いた所では、プヨの魔法無効化範囲内なのに周囲を凍らせた魔族も居たらしい。
よぉっし、次の研究対象を龍語魔術に代表される様々な魔獣が使用する『魔導』と決めたわ。
うゎぁ~、考えるほどに何かわくわくしてきましたよ?
あ、なんか降臨て来たかも!
こうしちゃ要られない、さっそく今から研究よっ!
空戦に味を占めたイチゴショートがそれから度々訪れ、その毎、わたし達が振り回されるようになったという後日談付きだ。
◆◆◆
ここは首都『グレート・アイゼン』のお城。
『グレート・アイゼン・キャッスル』
……名前にヒネリが無さ過ぎる。
さて、わたしがここで今更何をしてるかと言えば……
「少しばかり名を馳せたからといって民のオダテに溺れおったか? 愚か者め!
我等『ジェノサイダー』の力を見せてくれるわ!」
「左大臣、自分が何をしているのか判っているのですか?」
ここは玉座の間。王様は病気療養中との触れ込みだし、第一皇女のルーレフィシアは近々の結婚の準備に忙しく、こんな所に顔を出してる暇は無い。
玉座を護るのは第二皇女のニアといわゆるそのお仲間達って構図よ。
ニアの周りには、ルー達3人とウイン達5人、それにわたし。
それと近衛兵が10人で、合計20人がここに居る戦力の全てだ。
王宮の外でも、革命派と皇帝派に分かれて戦っている。
こうなった理由は、世論による左大臣派の排斥に端を発する。
バルザック砦での戦に負け、多大な兵力を減らした左大臣とその一派および、間違った判断を下した帝国神祇団はアイゼンワード帝国での政への影響力を著しく失った。
代わって魔族の大軍団を、勇者と凶炎の魔女を含めた100名足らずの騎士団と共に圧倒的に、堂々と打ち破った麗しくもお優しい、まるで天女のような第二皇女サマが皇帝代理として政を取り仕切るようになった、というワケなんだけど……
だいぶ誇張入ってなぁ~い?ソレ。
てか、凶炎の魔女って、わたしなの!?
「ふん、偶然召喚出来た勇者を王女ともあろう者が色香でたぶらかし、偶々上手く行ったというだけで思い上がりおって小娘め。今まで誰がこの帝国を支えて来たのか思い知らせてやろうぞ」
左大臣の後ろからワラワラと左右に湧いて出てくるローブ姿のむさ苦しい髭ジジイ達。
30人ほどが横に並んだと思ったとたん、一斉に呪文を唱えて来る。
呪文は……炎の範囲攻撃、ファイアストームかな?
二流とは言え、30人からの魔術師の全員が同時に本気で唱えれば城など灰になるだろう。
わたしが居なかったら、の話だけどねっ
「なにっ? 魔法が発動しない……じゃと?」
「無駄なことです左大臣!
帝国を私物化せんとする貴方の企み、天はお許しになりません!!
諦めてお縄につきなさいっ!」
「な、何をしておるか! 我等が『ジェノサイダー』の真価を今こそ発揮する時ぞ!
炎がダメなら雷でも、風でも良いのじゃ」
魔法が発動しないなど、彼らの人生では考えられない事態なのだろうな。
さっきの一斉に唱えた纏まりの良さは、いまや微塵も感じられない。
てんでバラバラに呪文を唱え出す。
もっとも、彼らがどれほど頑張ろうとも、魔術が効果を発揮することは無い。
スニージーが掲げるアレキサンドライト・キャッツアイの宝玉が嵌めこまれた杖が、この玉座の間にある限り。
これはアレだ。
プヨの魔法無効化対策で思いついた術だ。
その術をスニージーの杖に仕込んである。
名付けてMCM(Magical CounterMeasures)魔法妨害だ。
そのまんまだろ、とかツッコミは受け付けないっ!
それとも、マナ・モジュレーション・ジャマー、とかの方がカッコ良いかしら?
ま、名前なんかどうでも良いわね。
要は使えりゃ良いのよ。
プヨがどうやって魔法を無効化しているかは以前の日記に書いたけど(注:19ページ)
魔力はエネルギーの一種で波の性質を持っている。
であるならば、位相を180度反転した波をぶつければ振幅を押さえ込めるわけ。
すなわち魔法を妨害出来るのよ。
同じように魔力を制御してやれば、魔法無効化の効果が得られるワケなの。
課題は、自分および味方は魔法無効化の領域内でも自在に魔法が使えないと意味が無いこと。
とうっぜん、その課題はクリアしてあるのだよ、えっへん。
上で述べたようにこの魔術式では周囲の魔力を抑えるために、とある変調を魔力に対して行っている。その変調こそがこの魔術のキモであり、そして逆を言えばソレさえ解って居れば魔法無効化を無効に出来るのだ。
この魔術式の構造体はxxxxxでxxxしていてxxxxxxxなのよっ!!
あれ? なんで伏字になっているの?
ちょっと~、人が一生懸命に技術的な説明してるのに、聞いてないってどういう事!?
え? 専門用語並べられても意味がワカラン、ですって?
う~、わたしにそれをしゃべらせないとは……オヌシやるなっ?
わぁったわよ、イケズなんだから!
とにかく、専門的な事は置いといて、この魔術の効果範囲内では知らない人間は魔術を行使出来ないワケ、おわかり!?
はっ!?
わたし、誰相手に話してるのだろう?
どうにもこないだ『無から有を生み出す力』を引き出してから、何処からとも無く空耳が聞こえるようになっちゃったわ。
これだから何でも出来る力なんて嫌いなのよっ
要らない声まで聞こえるようになっちゃうなんてさ。
こほん。気を取り直して。
「く、くそ、なぜじゃ? なぜ魔法が使えんのじゃ! わ、わしの計画が~~っ!!」
「そこまでです、左大臣。周りをよく見なさいっ!」
声を張り上げるニア、そのタイミングで踏み込んでくる衛兵達。
「いけませんな左大臣殿、いえ、こうなった以上、前左大臣殿とお呼びすべきですかな?」
「まったくよ、これで『ジェノサイダー』も終りですなぁ、前左大臣殿」
隠していた衛兵を引き連れて現われたのは、リーベフェルマ伯爵とメイロー子爵だ。
キリリとした伯爵はイイのだけれど、ニヤニヤした子爵はどうにも小物感丸出しだ。
「表にいる貴方の手勢は既に鎮圧済みですぞ、この上は潔い覚悟を御見せ頂きたい」
「これで魔術は我等の『奥の院』が第一となる、今までお疲れ様でしたな、わっはっは」
いやいや、投降を呼びかける伯爵の一方で、なぜに上から目線で煽るかね?子爵よ。
「いやじゃ、いやじゃ、わ、わしは諦めんぞ~、この帝国はわしのモノじゃ~~っ!」
「はいはい『麻痺』っと」
わたしの魔術で、まとめて崩れ落ちる左大臣とその一派。
こうしてこの帝国にクーデターを巻き起こした不穏分子は一掃されましたとさ。
メデタシメデタシ。
◆◆◆
こうして、わたしはアイゼンワード帝国でやるべき事を全てやり終えたつもり。
ウイン、スニージーとお昼御飯を食べながら今後の事を話し合う。
ジルとリアラそれにレティはしばらく街から離れて野宿が多くなるからと、城下街へとお買い物にお出かけ中。
「正直言わせてもらうと、このMCMという術は恐ろしいですね。
世界の軍事バランスをも大きく変えてしまいかねない、それほどのモノですよ、コレは」
スニージーは魔術師だけあって視野が広い、いきなり話が大きく出たわね。
「どうかしらね? 仕組みを解ってしまえば対抗するのもワケないし、わたし的には子供だましの術に過ぎないと思ってるんだけどね」
「そりゃファリナから見ればそうかも知れませんが……サフィニア皇女も僕も、この効果範囲内で魔術を使うために何日訓練したことか。理屈を知らない限り対抗策は絶対取れませんよ。
この杖、ホントに僕が持って帰って良いんですか?」
「どうせ一度陽の目を見た魔法理論は無くならないわよ? そうそう同じものが創れないとしても、いつか誰かが同じ物を創るでしょうし」
「スニージーが気にしてるのは、俺たち『プニの試練』を達成した者が旅の間に手に入れたものは、俺たちの死後、しかるべき期間を経過後には国の物となる定めだから、その後で国がどう使うかまでは解らないからだろ?」
ウインが横から話に加わる。
「うん、この杖もウインの黒剣もレティの黒弓も国宝級と指定されるに相応しい武具だからね。
そうなった時、国がこれらの武具を政治利用しないとは言えないよ」
「それは拒否出来ないの?」
「ある種の相続課税だからねぇ。プニの試練を乗り越えた者は乗り越えるに足る装備を持つし、
それにプニから褒美として与えられるのは例外なく神宝級だからね、そんな強力な物が野放しに子孫へ伝えられて行くのもどうかと思うんだ。そりゃ本人はプニの試練を突破出来たけど、子孫がそれに相応しい持ち主かは別物だし」
「ふ~ん、面倒なのね。 武具はあげた物だからどうしようと自由よ?」
「ありがたいです、僕としてはこの杖を非常に気に入ってますから」
「ウイン達は、プニ第二神殿の試練を達成したら第三とか第四神殿とか全部巡る予定なの?」
「いや、行くのは今度の第二神殿までだよ。それで成功しても失敗しても故郷に帰って父の跡を継ぐ予定さ」
「僕も国に帰れば宮廷魔術師としての道が開けますから、ノンビリしますよ」
「うぁ、微妙に死亡フラグっぽいけど? それで故郷に結婚を約束した幼馴染が待ってたりしたら完璧ね」
「な、なんですか?それは。怖いことを言うのは止めてくださいよ、プニの試練を達成したら出世街道に乗れたも同然なんですからね」
「スニージーはこれで生きて帰れたら、嫁のなり手が1000人くらい押し寄せるだろ?」
「1000人!? 一人に決めるまでに何年も掛かりそうね」
「「 え? 」」
「え? え?って何?」
「ファリナ、僕達の国じゃ相手と相手の親が同意してれば何人でもお嫁さんが貰えるんだよ」
「……なんというハーレム。このむっつりスケベ!」
「えぇっ!? でもでも合理的でしょ? 彼女達だって甲斐性が無い男に嫁ぐくらいなら、神から認められて成功が約束してる男と契るわけだから」
「ファリナ、僕達の国では一夫一婦制じゃないんだ。夫を選ぶ権利は女性側に在って、男はそれこそ生半可な努力じゃお嫁さんを迎えられないようになっているんだよ。これは親が金持ちだとか権力者だとかは関係ない。なにせプニ神が天から見ておられるからね」
「つまり、ニートや草食男子には厳しいって事か、それは良い世の中ね。
頼りない男の遺伝子なんてこの世に残しちゃダメよ」
「……解らない単語があったけど、ファリナが男に厳しい御意見の持ち主だとは判ったよ」
わたしの故郷、ティルト村じゃ一夫一婦制だと取り決めは無いけれど、何時までも夫婦仲が良いのが普通で生涯連れ添う。
閉じられたコミュニティーゆえに、熟練夫婦の危機へと繋がる出来事が起きないからだと言えばそれまでなのだろう。
良くも悪くも田舎。
知恵の実を食べなければ幸せに暮らせる見本みたいな所だから。
それでも緩慢な滅びの道を辿っているのは事実。
クソジジィ含めた長老達の一部は気付いてるはずだ。
女性の数が減っているのは表面的な話で、滅びの本質はそれじゃない。
対応策を見つけたいとは思っていたが、わたしはこの地で重要な手掛かりを掴んだみたい。
曖昧な言い方なのは、それが夢見だったから。
先日ノースアイゼン砦で気を失った際に、夢を見た。
その夢に出てきた人物こそが、滅びの道を回避するための鍵だ。
◆◆◆
それは此処ではない、いつか遠い未来に起きた事柄。
『今回の領土戦は負けだな、これは』
『う~ん、残念ですねぇ、まさか邪神側最弱のナイアルラトホテップに負けるとは~』
『仕方ないよ、今回は姉も母も不在だから。ヤツの多次元同時体へ対応出来る人が居ないもの』
『つーか、おまえら母娘で生みすぎだっつの、いっつも妊娠で不参加だろが』
『あはは、お恥ずかしい。私も自分が100人もの子供の父親になれるとは昔は考えても見ませんでしたよ~』
『パパは、いっつもボク達の子供の名前を間違えるんだよね』
『この廃エロフどもめ、ここでノロケるな』
『とは言え、リアファリナの夫達のうち、最後の一人がとうとう昨年亡くなりましたからね、彼女が子供を生むのは今回で最後となるでしょう』
『その子がある程度の年齢になったら、母と一緒に世界を旅する約束なんだv』
わたしの『夫達』?
逆ハーだろうか?
この夢の中の未来予想図は、わたしが思い描いていた予想の斜め上を行くようだ。
そんなことよりも、
わたしを母と呼ぶこのボクっ娘。
この娘がわたしの娘である筈が無い。
だって……
わたしは驚愕の事実を知り、これは一体どういう事なんだと思考の海に浸りたいのだが……
えぇ~い、そこのお前達! さっきから五月蝿くてジャマよっ!
☆
『!! 今のは!?』
『おや? リアファリナからの援護ですか?』
『母の時空連続体による攻撃ですね、現在の時空から未来軸のナイアルラトホテップは全て消滅したみたいです。本体はどうやら例によって逃げちゃったみたい、相変わらずヘタレだなぁ』
『つーことは、邪神側に残るはヨグソホートだけっつーことか? 一気に楽になったなこりゃ』
『おやおや、という事は後はお任せしちゃって良いでしょうかねぇ? 頑張れvママ』
『はぃはぃパパは寝てて良いよ。前衛は任せました冬扇さん、突っ込んでタコ殴りにしましょ』
『任された、魔王の名にかけて1分で終らせてやる。
ところで、今のリアファリナは何時の時代のだ? なんとなく見覚えはあるんだが』
『青い服着てましたよね? ボクは見たことないですよ、母のあの服装』
『あぁ、1200年くらい前でしょうかねぇ? 貴女が生まれる直前ですよ、懐かしい……』
夢はここで覚めた。
あの娘、ハイエルフだった。
あの夢が本当なら、ティルト村の滅びは回避出来る。
ならば……
知ってしまった以上、わたしはあの娘を探さなければならない。
それが、わたしの得た新しい旅の目的。
◆◆◆
「また行ってしまわれるのですね、ファリナ」
「世界を巡りたいしね。カズヒサが戻って結婚する際には呼んでね、すっ飛んでくるよー」
「もう、ファリナったら/////」
「ぶらりと立ち寄ったなら絶対声を掛けてくれ、美味い酒を用意して待ってる」
「うゎぉ、それはぜひ寄らせてもらうわね、貴女も元気で、ルー」
「ミラー神の祝福が常に貴女とありますように。ファリナありがとう!またねっ」
「時には羽目を外すのも大事よ☆ 自分の気持ちは押し殺さないでねっ シャイア」
「ふふふ、旅のお供にはこれよっ じゃじゃーん、酒のつまみっ」
「あっりがとー、オーリスも危険なことして怪我しないようにねっ」
「さて、故郷の村へ帰りますか」
わたしが一本指を挙げて出発の合図をする。
旅の第一歩に気合を入れる。
宜しく頼む、とウイン
何度経験しても次なる冒険へ向けて出発するのは気持ちが良いですね、とスニージー
エルフの村なんて今から怖いよ、と怖がるフリしてウインにシラジラしくしがみつく、レティ
コラこらっ、朝から暑苦しいわよっ
私も歓迎されないだろうから大丈夫ですよ、とレティへ真面目に返事しちゃってるリアラ
次なる冒険へ出発、という言葉に反応してやたらテンションが高いジル。
この国へ来たときには、沈む夕日を追いかけて独りで飛翔して来た。
いま、わたしは朝日を正面に見ながら今度は仲間たちと徒歩で故郷へ向かう。
新しい魔術の理論を構築しながらの、ノンビリとした旅を。
そのついでに、新しく見つけた旅の目的を果たそう。
トゲエルフの旅はまだまだ終らないわよっ!
fin
グダグダで怪しい日本語使いの私めにここまでお付き合いくださって
ありがとうございます。
ほんわかエルフは処女作ですが、一作書いたからってダメダメ作者の
日本語力が上がるかと言うと、それはどうやら幻で終ったようです。
横書きフォーマットは、今書いてる小説に合わせました、こうすると
なぜか書く速度が上がったので。最後の最後ですみませぬ。
エルフを書きたくてこれを書きましたが、終ってみるとエルフ成分が
足りなかった感があります。
(いつお披露目できるか未定ですが)次回作ではエルフ成分を増量して
お送りしたいと考えている次第。
これを読んでくださった皆様の脳内変換&補完に助けられここまで来ま
したが、それでも面白かったよ、という方がおられましたら感想を書い
てくださると、次回作への励みになりますm(_ _)m ぺこり
現在連載中の別作品も宜しく!<宣伝
それでは、またご縁があればお会いしましょう(^-^)/~