最終話 続く二人
小麦が海外に行ってしまってからというもの、満は小麦の借りている部屋に一人で暮らしている。家賃の支払いは、満の口座からに切り替えたので、特に問題なく暮らしている。
「みなさま、おはようございますわ。光月ルナでございます」
『ルナちじゃーっ!』
『おはよるな~』
主な資金源は、アバター配信者『光月ルナ』の稼ぐ収益。
「こんばんは、光月ルナです。歌番組初出演ということで、今日はとても緊張しています」
都内に引っ越してきたことで、アイドルとしての露出も増えたので、その稼ぎで十分賄えているのだ。
アバター配信者としてもアイドルとしても、ずいぶんと大忙しである。
ただ、その一方で、男としての活動するタイミングがほとんどない。大学で講義を受けている時くらいである。
ただそれも、キマの協力なくしては成り立たなかった。
「本当にキマさんの隙間空間は助かりますよ」
「なあに、これくらいはお安い御用だ。あのルナ・フォルモントが後継と話している者の世話を焼けるというのは、あいつに恩を売れるということなのだからな」
お礼を言う満に対して、キマはにこにこと笑っている。
やはり同じ怪異として付き合いのあるルナ・フォルモントへの貸しが作れるというのは、相当な優越感になるのかもしれない。
キマの空間の中で男性の服に着替えた満は、今日の大学の講義へと向かっていった。
「ふむ、気丈に振る舞っているようだが、やはりどことなく寂しそうだな。未成年でなければ酒をふるまっているところだ」
まったく、恐ろしいことを言うものである。
満はまだ誕生日が来ていないので、現在は十八歳。お酒は二十歳になってからだぞ。
冗談で言っているのだろうが、キマはずっとにこやかにしながら、満の姿を見守っていた。
大学での満は、コンピュータ関連のことを学んでいる。
今まで、自分のアバターについて世貴と羽美にすべてをやってもらっていたのだが、社会人となってからというもの、すっかりペースが落ちてしまった。
そこで、自分でもできるようになりたいと思ったのがすべてのきっかけだった。
で、なぜ満がコンピュータ関連のことに進んだかというと、彼女である小麦が絵師だからだ。
光月ルナのデザインを羽美が描き、世貴が3Dとして動くようにしていたように、小麦がデザインして自分で動かせるようになりたい。そういう風に考えたのである。
正直なところ、満の成績を考えればものすごく厳しい話だった。それでも、最後の一年間で必死に勉強して、無事に大学に合格できたのである。
地元ではなくわざわざ東京に出てきたのも、小麦の存在があってこそ。すっかりバカップルと化していたというわけだ。
時差が七時間、八時間とあるというのに、時には国際電話もするくらいだ。時折話が弾み過ぎて、グラッサから叱られている声が聞こえてくる。これを合図に通話を終了するということが起きるくらいに二人はラブラブである。
それから、二年の月日が経過する。
満は、光月ルナとして、ついにワンマンライブを実行するに至っていた。
吸血鬼としての魅了の力も使うことなく、実力で勝ち取った大イベント。先輩であるイリスからもうらやましがられる状況だった。
まだまだそんなに大きな箱ではないものの、その会場を満員にして熱気に包まれるくらいの人気を誇っている。
アイドルをしている時の満は、元の性別をまったく感じさせないくらい、女性になり切っている。
そうして、三時間というライブを乗り切って、満は控室に戻ってきた。
「ふぅ、やり切れたぁ……」
「お疲れだったな、ルナ」
「ありがとう、キマさん」
労いの声をかけながら、キマが飲み物を満に渡している。
ごくりと飲んだ満は、キマに顔を向けている。
「いよいよゴールデンウィークも終わりですね」
「だな。それにしては、なんだか嬉しそうな顔をしているな」
「ははっ、バレましたかね」
キマに指摘された満は、はにかみながら反応している。
「だって、ゴールデンウィークが終われば、小麦さんが海外赴任から戻ってくるんですよ? 楽しみにしないわけがないじゃないですか」
「まったく、恋人同士になるまでものすごく長かったとは思えんセリフだな。これはいわゆるバカップルというものかな?」
「もう、酷いですね……。確かに鈍かったのは認めますけど」
キマにからかわれた満は、不満そうに頬を膨らませている。
そこに、扉がノックされてスタッフが入ってきた。
「すみません。光月ルナさんに面会が来ています。女性の方のようですけれど」
「ルナ、ここで待ってくれ。私が見てこよう」
「はい、お願いします。僕はもう少し休んでいますから」
面会者への対応をキマに任せ、満はライブの疲れを取るためにもう少し休んでいることにした。
そのまま満が待っていると、外から声が聞こえてくる。
どうやら、キマが面会にやってきた人物を連れて戻ってきたようだ。
「ルナ、面会の相手を連れてきたぞ」
「にししし、ライブお疲れ様。すっかり大物になったねぇ、満くんは」
声を聞いて、満は振り返って立ち上がる。
そこにいたのは、間違いなく待ち焦がれていた人だったのだから。
「小麦さん、おかえりなさい」
「ただいまだよ、満くん」
―― VAMPIRE STREAMING・完
はぁ……、終わってしまいました。
これで満の物語はひとまず終了です。
他に気になる人たちのことがありましたら、ご感想いただけるとありがたく思います。




