第527話 初のステージを終えて
「はぁ~、疲れたぁ……」
ミニライブを終えた控室、満はテーブルに燃え尽きたかのように突っ伏していた。
「お疲れ様。そういえば、吸血鬼だったわね、ルナちゃんの場合って」
ジュースを渡しながら、イリスはルナに話しかけている。
「そうですよ。これだけ明るい時間に元気よく歌って踊っていると、キャラ崩壊も甚だしいですよ」
受け取ったジュースを飲みながら、ルナはイリスに文句を言っていた。
そう、光月ルナという名前は、元々吸血鬼をモチーフにしたアバターの名前だ。女となった満の時と姿が似ているのは偶然である。
そして、現実の満の女性の時の姿は、吸血鬼ルナ・フォルモントの影響を強く受けている。なので、女の時の満は吸血鬼といってもいい状態なのである。実際、吸血鬼としての能力もあれこれと持っている。
「ですが、ルナさんはそもそも、ルナ・フォルモントとご自身の本来の姿の影響で太陽など、通常弱点といわれるものがすべて平気ではないですか。今さらってものですよ」
「むむむ……、そうですけれど」
マネージャーの環に言われて、ルナはむすっとした顔をしている。
「まあまあ、この話はそのくらいにしておきましょう。環、レストランの予約はしてあるかしら」
「イリス、ぬかりありませんよ。せっかくのルナさんのデビューだったんですから、お祝いくらいしませんとね」
「バックダンサーの人たちにも伝えるのを忘れないでね。控室が別なんだから」
「そっちもすでに終わっています。いつでも出発できるようにしておいて下さいね」
環はそういうと、控室から出ていく。
今回使った道具などの撤収をスタッフに伝えにいくらしい。
「さっ、ルナちゃん、着替えて着替えて。そうしないと、衣装も撤収に含まれているんだから、スタッフに迷惑が掛かるわよ」
「分かりました。それじゃ着替えますね」
ルナはイリスに言われるがままに、ステージ衣装から気合いの入った私服へと着替えるのだった。
イリスと一緒に外へと出てきたルナは、その目の前の光景にぎょっとする。
「うわっ、なんかすっごく人がいる!」
そう、出待ちをしていたファンが大量にいたのだ。この光景を見た時、改めて光月ルナにはファンがたくさんいたんだなと思い知らされる。
これじゃ、普段は女の姿で出歩くのははばかられてしまうというものである。なんといっても、光月ルナの銀髪はものすごく目立つ。体型も手伝って、本当に出歩けないかもと警戒してしまうルナなのであった。
「まったくもって難しいわねぇ。満くんに戻れば他人には気付かれないでしょうけれど、私たちと一緒にいるわけにはいかないものねぇ。まったく、どうしたらいいのかしらね」
「どうにかして下さいよー。さすがに僕の手に負えませんってば」
あまりのファンの数に、満はイリスや環に対して必死に訴えている。
だが、さすがにこの人数をどうにかできるようなノウハウを二人は持っていなかった。さすがのイリスも、ルナの人気は嫉妬しか覚えなかったようである。
どうにか大量の人だかりから逃れ、ルナは環の運転する車でイベント会場を後にする。
大勢の人たちからの恐怖から逃げ切れたことに、ルナは胸に手を当てて安どのため息を漏らしていた。
「あの人数は、もう勘弁してもらいたいよ……」
「満くんは、基本的に人前で活動しないものね。とはいえ、私と一緒にいったい何度人前に立ったのかしらね」
「あれはほとんど無理やりじゃないですか。アイドルでも何でもなかったし……」
イリスの言い分に反論するルナだったが、まったくもって否定できないので尻すぼみに黙り込んでしまった。
そのまま、環の運転する車に乗って、予約したレストランへと向かっていった。
やって来たレストランを見て、ルナは目を丸くしてしまっている。
それもそうだろう。今まで入ったこともないような高級店が目の前に現れたのだから。
「こ、こんな店、この辺りにあったんですね……」
「まぁ知る人ぞ知るお店だからね。さっ、入りましょ」
中に入っても、外観とそう差のない高級感漂うお店に、ルナはただ目をチカチカとさせるばかりだった。
後からやって来たバックダンサーの人たちも、びっくりしているくらいだった。ということは、バックダンサーの人たちもこういったお店には縁がなかったようである。
「ルナちゃん、アイドルデビューおめでとう。そして、初イベントお疲れ様、乾杯!」
料理が運ばれてくると、イリスが音頭を取って乾杯が行われた。もちろん、お店がお店なので、それはつつましやかにである。
緊張感はすごいものではあったものの、ルナはなんとかその日の慰労の食事会を終えて、家に戻ることができたのだった。
それにしても、今日一日は満にとってはとても大変な一日であった。
アイドルとして初めてのステージに立ち、終われば高級店での食事会。それは緊張の連続だった。
さらには大量のファンの出現。
こんな日々がこれから続くのかと思うと、満は先が思いやられるものである。
満はこの状況をどうにかする方法を、とある人物に相談することを決めたのだった。




