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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊


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第522話 春の河川敷

 しばらくすると、満の電話の相手が家へとやってくる。呼び鈴が鳴り、満が出迎える。


「やあ、満くん。ちょっといいかい?」


「なに、小麦さん」


 そう、電話をしてきたのは小麦だった。


「やぁ、環さんがやってきて話をしたはずだから、どうだったのかなと気になってね。ちょっと外の空気でも吸いながら話をしよう。ほら、車で来ているから乗って乗って」


「わ、分かりましたよ」


 満は小麦の誘いに乗って、母親に出かけることを伝えて外へと出る。

 車に乗り込むと、小麦は早速車を発進させる。一体どこに連れていくつもりなのかと、満はドキドキとしながら助手席に座っている。

 ところが、小麦は前を見たまま話し掛けてこようとしない。結局、まったく話をしないままに目的地までやってきてしまった。


 やって来たのは、時期が来ると桜が満開になってきれいになる河川敷だった。さすがに開花予想よりも一週間も早いと、まったくと言っていいくらい桜は咲いていなかった。


「やっぱり、この時期じゃ桜は期待できないね。予想通りの頃だと、私は大学が始まっちゃってるから残念だよ」


 車を降りた小麦は、残念そうな表情で話をしている。

 その隣では、満はちょっと言いづらそうな表情で立っている。


「さて、お参りしてから河川敷でも歩こっか」


「あっ、はい。そうですね」


 小麦に言われるまま、満は小麦の後をついて行く。

 河川敷近くには神社があるので、二人は参拝をしておみくじを引いている。


「うん、吉か。よくなく悪くなく、無難ってところだね。満くんはどうだったかな?」


「あっ、僕は……」


 小麦は満のおみくじの結果が気になるらしく、ひょっこりのぞこうとしている。小麦の顔が自分の方に伸びてきたので、満は慌てて隠そうとしている。


「あらら、凶だね。まっ、そういう時もあるよ。内容を見て、どうすればいいか考えよう」


「……そうですね」


 小麦の前向きな意見に、満は黙り込むようにしながら小さく頷いていた。


 御守りだけ買うと、二人は神社を後にして河川敷を歩き出す。

 そろそろ夕方も近付いてきた時間とだけあって、河川敷には散歩をする人たちの姿もちらほらと見える。


「いやぁ、思ったより人が多かったかな」


「そうですね……」


 しくったかなというような表情をしながら、小麦は満に話しかけている。対する満はぼそぼそとしたような声で反応をしている。

 やはり、アイドルの話のことがまだちょっと尾を引いているような感じである。


「まったく、声が小さいぞ、満くん!」


「痛っ!?」


 あまりにも元気がなさそうな満に対して、小麦はその背中を思いっきり叩いている。かなり強かったせいで、満は前に吹き飛びそうになっていた。


「もう、何をするんですか、小麦さん……」


 痛そうに背中をさすりながら、満は小麦へと抗議をしている。ところが、小麦はにこにことした表情を崩していなかった。


「いや、本当に元気がなさそうだと思ってね。環さんから報告はもらっているわよ。アイドルの件、引き受けたそうだね」


「あ、はい。その通りです」


「それにしては、ずいぶんと暗い表情をしているね。自分で決めたっていうのに、やっぱり後悔しているのかな」


「そ、そんなところですね」


 小麦にズバズバと言い当てられて、満は小麦から顔を背けていた。いろいろ考えた末に決めたことではあるものの、満の中ではまだ迷いがあるという感じである。小麦は、複雑そうな表情でため息をついている。


「もう、満くんってば。今までもいろいろやってきておいて、それは今さらってもんだぞ」


 小麦は満へと近付いていく。


「アバター配信者を始めた。思わぬゲームの才能によって世界大会にも出た。舞お姉ちゃんのお手伝いだってして、大勢の前で歌ったり踊ったりもした。今さら物怖じをするっていうの?」


「うっ……」


 いろいろと小麦から言われて、満は思い切り押し黙ってしまう。

 実際その通りなのだ。

 世貴と羽美に女性アバターを与えられても、結局それでアバター配信者を続けている。

 小麦が舞お姉ちゃんと呼んでいるアイドルのイリスに何度となくイベントを手伝わされて、観客を前に歌ったり踊ったりも何度も経験している。

 それだけの経験をしておきながら、今さら延長線上にあるアイドルをなぜ渋るのか。小麦はそれを満に改めて問い掛けているのである。

 満としてもそこはずっと引っかかっている。なぜ、アイドルという立場に今さらこんなに戸惑いを感じているのか。それは満にも分からない話なのだ。


「私は、満くんのやりたいとおりにやればいいと思うよ。支えてくれる人はたくさんいるんだからね。もちろん、私だってそうだよ」


 そう言いながらも、小麦は周りをきょろきょろと見回している。


「ちょっと歩こうか」


 そうかと思えば、満に語りかけている。満は頷いて、小麦に手を引かれ場所を移動していく。

 川にかかった橋の下までやってくると、そこで小麦がぴたりと動きを止める。


「小麦さん?」


 急に止まったものだから、満はとても困惑している。


「ああ、私もじれったいなぁ……」


 ぽつりと呟いた小麦は、握っていた満の手をぎゅっと引っ張る。


「えっ?!」


 急に引っ張られたことで、満は体勢を崩してしまう。

 小麦は満の体を受け止め、そのまま勢いに乗って大胆な行動に出た。


「う……」


 小麦は、満の唇に自分の唇を重ねたのだった。

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