生粋の殺し屋
「久し振りぃ、よーか!」
あぁ……嫌だな。
何で私ばっかこんな目に遭うんだろ。
両親は殺されて、故郷の皆には裏切り者扱いされて、挙句私にはその諸悪の根源の血が流れてて……唯一残った家族を殺さなきゃいけないなんて……。
「……王国は人手が足りないの?貶しに貶した吸血鬼族を、国の守護者である聖十二騎士に組み込むなんて」
「ハハッ、それに関しちゃあ何も言えねぇな。でもコイツが吸血鬼族って知ってんのは王国では俺とコイツの下僕だけだ」
「下僕……あぁ、お姉ちゃんのアーツは«魅了»だったね」
つまりお姉ちゃんは、アーツを駆使して人間社会を生き抜いて来たんだ。«魅了»で味方を作って、眼帯は吸血鬼族の特徴の紅い眼を隠すためかな?
「でもまぁ、俺としてはコイツが味方ってのは好都合なんだよ。お前さえ手に入れば、コイツは俺の手駒だ」
「は?」
「だから……コイツが人間側に居るのは、お前が欲しいからなんだってよ。交渉を持ち掛けられた時はヤバかったぜ?洗脳する余地も無いくらいぶっ飛んでたからなぁ」
何言ってるの?
いくら残った最後の家族とは言えそこまでする?
「瑤華……可愛くなったね」
「そうやって言ってくるのユイナ以外初めてだよ」
「ふふっ、反抗期なの?昔みたいにおねーちゃんに甘えて良いんだよ?」
「やだよ気持ち悪い……」
「ふふふっ…反抗期なその態度……屈服させたァい!」
思わずダルモンを睨んだ。
「いや、出会った時からこんな感じだぞ?」
一切の嘘を含まない言葉で、心底呆れた口調でそう言われた。
……めっちゃ腹立つ。
「そうよぉ、お姉ちゃん頑張ったの!売られた先でそこの主人を殺して、使用人を下僕にしてぇ……権力者を操り人形にしたくて躰を売ったりもしたのよ?異状性癖ばっかでお薬耐性出来ちゃった」
「へぇ……思考がイカれてるのはその弊害?」
「まぁねェ〜、瑤華の事が大切過ぎて〜いつの日かペットにしたいって思うようになっちゃった♪ 」
あぁ良かった……ここまでイカれてると、身内を斬っても罪悪感湧かなそうだよ。
「だからって、言葉に«魅了»を乗せて来るの鬱陶しいからやめてよ」
「バレちゃった?」
「私に精神干渉系の魔法は効かないよ。もっとヤバいのに支配されてるから」
頭の中に響く声。
ユイナのじゃないこの声が、殺戮を求めるこの声が、不快に感じないどころか懐かしく感じてしまうのは、どう考えてもおかしい。
私の得た力は、きっと私の身に余るモノだって思い知らされたばかりだから……例えアーツだとしても私には効かない。圧倒的な暴力の前に、小細工なんて無意味だ。
「……気に入らない。瑤華は私のモノなのに」
「少なくても月海のモノじゃない」
じゃあ誰だ…って言われても、私は一切の迷い無くユイナのモノって答える。
疑いようの無いくらい真っ直ぐな愛情で、ユイナは私を満たしてくれるから。私の全部をあげても惜しくない。
「…お姉ちゃんって呼んで?」
「嫌だよ。私にもう家族は残ってない……お前の性癖を差し引いても────お前、何コソコソと逃げようとしてんの?」
「チッ、バレたか」
ユイナの方へ向かおうとしてたダルモンを延太刀で牽制、行かせる訳無いじゃん。
「お前もちゃんと復讐の対象だからね?」
「勘弁してくれ、ロイセンツを叩き落とすチャンスなんだよ」
「知った事か」
さっきのサルバード・ロイセンツの発言から、コイツ等にはユイナから勇者の力を奪う術がある。
それが殺して奪うのか、何らかの形で譲渡させるのかは理解らない。ただ、碌なモノじゃないのは断言出来る。
「瑤華…私の事嫌い?」
「…もう何の感情も湧かない……」
「そんな……」
「ヒデェ妹だなぁ。必死に立ち回ってきたコイツが可哀想じゃねぇの?」
「どーでも良い。てか私、好き好き言いながら殺すようなサイコパスじゃないから」
月海がマイペースなのは相変わらずみたいだけど、ダルモンが隙あらば逃げようとしてるから気が気じゃないんだよなぁ……。
「もう良い?好い加減殺したいんだけど」
「……本気で逃がしてくれねぇのか…しょうがねぇな、ルカ──本気でやって良いぞ」
「…うん、そうする」
「ッ…」
何?月海の纏う空気が変わった……。
「気付いたか?コイツ、戦闘能力だけならロイセンツよりも高いんだぜ?」
「成程。そこそこの序列に居る事で余計な注目を浴びないようにしてるのね」
「ざまぁねぇ、コイツを本気にさせたら幾らお前でも──」
最後まで聞いてやる余裕は無かった。
月海が振り下ろした槍をギリギリで受け流す事には成功した……けど、その衝撃で地面がかなり広範囲に裂けて、辛うじて残ってた建物も消し飛んだ。
「……ま、精々頑張れや」
「待て──あぁ邪魔ッ!!」
「瑤華ァ、瑤華が悪いんだよォ!!絶対屈服させるからねッ!!腕の5,6本くらい飛ばすからねェ!覚悟してねェェ!!!!」
ッ、しくじった!!
もうダルモンの姿が見えない、かと言って追える訳でもないし……速攻で片付けるしかないよね…。
「降りよ、«月華荊棘鬼姫»ッ!!」
◇◇◇◇
「«エレメンタル・バースト»ッ!」
「«パニッシュメント»」
姉妹が再会を果たしていた頃、ユイナとサルバードは専らの魔法戦を繰り広げていた。
状況はユイナが劣勢、勇者とは言え魔力が3割も残っていなければ当然だとも言える。
「所詮この程度か、さっきまでの威勢はどうした?」
「お前と違って一仕事した後だからね、節約しないと厳しいんだ」
「そうか…ならば早々に消えろ!」
土属性魔法で作られた巨大な球体が、ユイナの頭上から降り注ぐ。
砕くのが不可能だと判断したユイナは即座に離脱を試みるが、サルバードの方が早かった。
「«イノセント・ボム»」
「なっ──」
球体は内側から爆発し、周囲に瓦礫を撒き散らす事でその破壊力をより凶暴なモノにしていた。
ユイナはそれに巻き込まれ、すぐに姿が見えなくなる。
「はっ、所詮は小娘……他愛無い。あとは死体から力を抽出すれば──」
「勝手に殺すなよ、クソ野郎!」
声のする方に向かって、サルバードは振り向くと同時に剣を振るった。
視界にユイナを捉えるのとほぼ同時に切っ先がユイナを通過した。
「何だと──」
「遅いよッ!」
今度は右から、しかし反応しても結果は同じ。
またしても背後から……結果は同じ。
今度は前後の挟撃……結果は同じだろうと正面のユイナだけ対応するが、背中を斬られてしまった。
「ガッ!?」
「残念、こっちは本物だよ」
さっき瑤華に奇襲させた時の光魔法だという事はサルバードも理解している。しかし、繰り返される猛攻がそれを許さない。
とは言ってもユイナが優勢な訳でもない。
ユイナの残存魔力は確実に磨り減っている。長引けばユイナが敗ける。
「よぉロイセンツ、調子はどうだい?」
「良い訳無いだろう!」
……タイミングの悪い事に、ここでダルモンが合流してしまった。
「瑤華は?」
「今ルカとドンパチやってるぞ。俺は逃げて来た」
「確かに、キミは戦闘向きじゃないからね……僕の方に来たのも、そういう事だろう?」
「そうだよ」
「(不味いな……サルバードを倒してからならまだしも、2人同時だと勝ち目が薄い……)」
ユイナが内心焦りを覚える一方、
「おい、勇者の力は俺のモノだぞ!」
「はいはい、気が向いたらな」
「貴様っ!」
何やら喧嘩を始める2人。
「大体お前は──」
──サルバードが何か言おうとした時、空から1人降って来た。土煙が徐々に薄れて現れたのは……瑤華と戦っていた筈の月海だった。
「不味いっ!」
ダルモンがギリギリでアーツを発動させるが、生み出した影武者は1秒も生存を許されなかった。
「ユイナごめん、ちょっと出遅れた」
「全然……それより、連発して大丈夫なの?」
「うん。降ろした状態を解いたら皺寄せが来るけど……まぁユイナが居れば何とかなるでしょ」
月海を担いでその場から離れたダルモンは、全身から脂汗が吹き出ていた。
段違い……目の前の存在に勝てるヴィジョンが見当たらない。虎の尾を踏んだなんてモノでは済まされない何かを呼び起こしたのだと、否が応でも気付かされた。




