修復不可能①
「……んんっ………痛っ!」
「ハルっ!自分が誰か言える?私が誰か理解る??」
「……?アヤネ…どうし……」
アヤネが泣いてる……お腹が痛いし、何か躰も重い。
「ハル、私と分かれてからのこと覚えてる?」
「?」
「お願い…教えて」
「えっと……アヤネにおやすみって言って、家に戻って………それから……?」
その後が思い出せない…。
「……あのね、ハルは家の近くで……刺されて倒れてたの」
「……えっ?」
私は重い手付きで布団を捲った。
そこには……包帯が巻いてありました。
「あ……」
「……ん……ごめんなさい…ッ!私、ハルを守らなきゃいけないのに……こんな、ごめんなさいッ!」
正直、思考が追い付いてない。
どうして私が?一体誰に??
「アヤネ……怖い…」
「ッ!……ごめんね、もうハルを傷付けさせたりしないから!…信じられないかもだけど、私が絶対守る!」
……アヤネの言葉で、少し落ち着けた。
アヤネを信じてるし、きっとすぐに犯人が見付かる筈…。
そんな事を考えていたら、扉をノックする音が聞こえた。
今更だけど、ここ……アヤネちゃんの部屋だ。
「入るよ」
「どうぞ」
「……目が覚めたんだね、調子はどう?」
部屋に入って来た瑤華さんは、少し泥で顔が汚れている。
「取り敢えず、アヤネが山賊を殺した報復の可能性を見込んで、近くの2つは潰して来た」
「えっ!!?」
「ごめんなさい……本当は、私がやらなきゃいけないのに…」
「ううん、アヤネは敵から情報を引き出すやり方を知らないでしょ?何より私は治癒魔法が使えない、適材適所ってこと」
成程…確かにこの街で治癒魔法に最も長けてるのは、魔力量からしてアヤネに違いない。
きっと、私が助かったのはアヤネのお陰。
後でちゃんとお礼を言わないと……っとそれより、今はもっと気になる事があって……
「さ、山賊の拠点を攻撃したんですか?」
「うん」
「1人で?」
「うん」
「…2つも?」
「うん」
「アヤネの師匠さん……とんでもない人だったんだね」
「まぁ、これくらいは涼しい顔でやっちゃう人だよ」
「ちょっと、2人揃って酷くない?」
汚れは、その時に付いたのかな?
でも、きっと激しい戦いだったのに返り血も浴びないなんて、ちょっと信じられない。
「まぁそれは良いとして、裏で手を引いてる奴の正体が判った」
「本当なのっ!?」
「落ち着いてアヤネ……まだ証拠がある訳じゃない。それに…アヤネには酷な事かも知れないから」
「…え?」
瑤華さんは、眠っていたアヤネを見ていた時よりも暗い表情で、絞り出すように言った。
「山賊と取引していたのはサヤカ・フラウロス……アヤネの妹だった…」
「っ、そんな……」
「本当…なの?」
アヤネも信じられないみたいで、虚ろな眼をして聞き返した。
瑤華さんは、俯きがちに首を縦に振る。
「複数人拷問した。ちゃんと魔法で互いには聞こえないようにした上で、瀕死まで追いやって、その上で本当の事を白状したら見逃してやる…って嘘まで吐いて確認した」
「お、おぅ…」
なんて恐ろしい事を……ううん、きっとそれだけ本気で怒ってくれたんだ。
「全員が口を揃えて言った。何人か違う証言をしたけど、ちょっと激しくしたら泣きながら訂正した……出来れば何人か連れて来たかったんだけど…」
「…何かあったの?」
「いや……私が腑甲斐無いばかりに、『正直に話したんだ、許してくれ。俺達はあの貴族に好い奴隷商人を紹介と、今後は傭兵としての仕事と報酬を約束されたから従ったんだ』って言われて、我慢ならなくて…」
「…瑤華に対して絶対言っちゃいけない台詞だ……」
どういう事?……アヤネの言ってる事について行けなくて尋ねようと思ったら、瑤華さんが察してくれて…
「私、昔は訳アリの奴隷だったんだ」
「ッ!そんな…」
「逃げ出して拾われて今に至るんだけど、やっぱり奴隷商人は許せない。アイツ等を使う貴族も嫌い……でも、今回のは早計だった。反省する…」
「いえそんな!瑤華さんが怒るのは当然ですし、寧ろそこまでして貰って…」
「気にしないで。アナタの事はよく知らないけど、愛弟子の大切な人を傷付けたんだから…報いは必然」
……ん?
何かもう、私達の関係バレてません?
「何で知ってるの?って顔してる。まぁ私がアナタを見付けて、急いでアヤネの所まで運んだんだけど、治療してる最中に余りにも熱い想いを口にしてたから……」
「ちょっ、それ言わないって──」
「それ、どんな事言ってたんですか?」
「ハルも食い付かないで!」
だって、アヤネが何を言ってくれたのか知りたいし…。
「『私を置いて行かないで』とか『ずっと一緒って約束したのに』とか……まぁもう少し重めの事も言ってたけど、流石に可哀想だから言わない」
「……本当に勘弁して下さい……」
「真っ赤」
「言わないで…」
耳まで真っ赤にしたアヤネ。
顔も見たかったけど、両手で隠しちゃってるから見えない……残念。
「アヤネ、私の事が好き過ぎない?」
「……………ハルが悪い」
「ふふっ、そうかもね」
「え、私なんでイチャイチャしてるの見せられてるの?」
「いっつも勇者様とイチャイチャしてるのに何言ってるの?」
「そうなんですか!?」
「なっ、アヤネ!別にイチャイチャしてる訳じゃなくて──」
「態々同じベッドで寝てるのに?」
えっ、何それ羨ましい!
……じゃなくて、瑤華さんって色々凄い人なんだ。
「それはユイナが強引に!私はステータスで負けてるから振り解けなかったの!!」
「この前なんて、一緒にお風呂入ってた」
「な、どうして知ってるの!??」
「自慢されたから」
「次会ったらシメてやる……」
やっぱり、年頃の女の子が3人集まれば恋の話題になるのは当然と言えば当然で、本題に戻るのにはかなり時間が掛かった。
でもお陰で、私の中の不安は無くなっていた。
……だからこそ、仕事モードになった2人が尚更恐ろしかったんだけど…。
◇◇◇◇
私、サヤカ・フラウロスはこの街で、いえこの周囲の領地の中で最も高貴な存在。
近隣領との関係悪化に苦しむ父も、姉に執心の母も、かつてフラウロスの名を汚した姉も、到底私という存在の尊さには及ばない。
形だけとは言え、愚かな父に従ってる貴族共については言うまでも無い
「チッ、あの下劣な山賊共…しくじりましたわね」
私の作戦は完璧だった。
以前捕らえた山賊を逃がす代わりに、私は戦闘に慣れた傭兵団として奴等を従えた。
仕事の度に報酬を渡し、定期的に物資を運ぶキャラバンの情報をリークしてやれば簡単に私に服従した。
利害関係の一致でしかない…だからこそ、こちらが一定の条件を出し続ければ寝首は掻かれない。
……そう思っていたのに。
「あの眼帯女、一体何者ですの!?」
アヤネの大切なモノを全部奪って、山賊共を嗾けて殺した後に、愚父を失脚させて私が家督を奪うつもりでしたのに!
眼帯女の所為であの薄汚い女は死ななかったし、挙句の果てには山賊の拠点を潰した?バケモノと言わずしてなんと言えば良いの!!?
「落ち着け……落ち着くのです私…」
こうなったら、私自ら動きましょう。
料理に毒を盛ってやりましょう。
被害は増えますが何としてもあの2人を始末して、母を実行犯に仕立て上げます。当然責任は父に向くでしょう、最低でも投獄は免れ得ない。
その後、母を殺してその罪をあの下賎な小娘に押し付けましょう。
打首にして墓前に飾ってあげますわ。
「いえ、いっそ全部の罪をあの女に──」
──コンコンッ。
……誰ですの?
折角計画が固まりそうだったのに…。
仕方無いので、扉を開けて対応します。
「一体誰で──」
「サヤカ、話がある」
「ッ、姉さん…」
………よくもまぁ、そんな眼で私を見られたモノですね。
いつからそんなに偉くなったのでしょうね?
……そうですわ、この女は殺さず奴隷にして死ぬまでボロ雑巾のように使ってやりましょう!
「丁度、私もお話したいと思ってましたの。場所を変えても良くって?」
「ここで良いよ────お前を殺しに来ただけだから」
これからは文字数減らして更新頻度上げていく予定です!




