エキシビション②
多分来週は更新出来ません…。
pixivで二次創作出したい……
「無縫艶舞«刈桜»」
「«ファントムダンス»ッ!」
攻める瑤華と、防戦一方のユイナ。
首、左手の腱、内腿、右肘…一拍置いての右脇腹──それ等全てを一筆書きするように狙った瑤華の斬撃を、ユイナはギリギリで躱す。
その度にユイナを襲う、ある種の不快感。
「(水を斬ってるみたい…手応えが薄い…!)」
独特な手の内が、打ち合った瞬間の衝撃を上手く逃がして流れるような剣閃を生み出す。相手からすれば、込めた力が抜けて行くようでペースが乱れてしまう。
「«壱閃──」
「«壱閃延太刀ッ!»」
「なっ?! 」
ユイナは瑤華の模倣技を繰り出そうとしたが、本家の速度には追い付けない。
先手を打たれてしまい、技を強制終了させられてしまった。
「瑤華、また強くなってない?」
「ちょっと本気出してるだけです」
「じゃあ僕も、そろそろ本気でやるよ!」
ユイナは軽鎧を外して、瑤華は氷で創り出した刀を左手に握った。
「身体強化・法外超過ッ!」
────────
名前:ユイナ・ロイセンツ
種族:人間族
Lv:71
適性:全
異能:«勇者»
筋力:88000
敏捷:59000
耐久:74050
持久:58500
魔力:91500
────────
……圧倒的な数値。
対して瑤華のステータスは…
────────
名前:瑤華・トワイライトムーン
種族:吸血鬼族
Lv:102
適性:闇・氷
異能:«ルナティック・ブレイヴ»
筋力:20500
敏捷:40000
耐久:10125
持久:25000
魔力:30750
────────
…強みである敏捷値ですら、瑤華が劣っている。
具体的な数値は理解らなくても、観衆もその実力差をありありと感じ取った。
そして──
「«サテライト»」
──ライブ中継していた画面が、再度真っ白に染まった。
光属性でも5本の指に入る攻撃魔法を、魔力にモノを言わせて放ったのだ。普通に考えて助からない……生身で食らえば死体すら残らないだろう。
画面が色を取り戻しても、まだ蒸気が立ち上っている。
「…………………………………正気かい?」
ユイナは笑わずには居られなかった。
だって内心、この一撃を放った瞬間に焦っていたのだ。
だと言うのに……
「どうやって生き延びたのかな……?」
「教えないよ…ケホッ……」
これには観客席も大いに盛り上がった。
ユイナの反則級の攻撃を、無傷とは言えずとも防いで見せたのだから。
「……でも、僕の勝ちだね」
仮装フィールドでも痛みはある。
全身の至る所に火傷を負ったままでは苦しかろうと、トドメを刺す為にユイナが歩み寄る。
首元に切っ先を当て狙いを定め、一度振り被ってから容赦無く振り下ろす────
──ヒュンッ…
「えっ──」
響いた風切り音、一切混じり気が無い……つまり、何も斬れていない音。
首を落とすギリギリの所で、瑤華の姿が掻き消えた。
「無縫艶舞────」
「ッ!」
背後から聞こえる声、ユイナは目視すらせず本能の叫ぶままに剣を振り抜いた。
その眼に映るのは……肋骨から心臓まで深々と刃の食い込んだ、しかし既に突きの姿勢で振り抜いた瑤華の姿だった。
「────一ノ太刀…」
凭れ掛かり、耳元でそう囁いた瑤華は、程無くして仮装体が消失して敗北が確定した。
──プシュ!
「……え?」
咄嗟に首を抑える。
見てみると、手にはべっとりと血が付いていた。
痛みも理解らないほど滑らかに斬られていたのだと、そう結論付けるのにはそう時間は掛からなかった。
司会が声高にユイナの勝利を叫ぶのも、フィールドが強制解除されて意識が現実に戻ったのも、ユイナにはどうでも良かった。
「(ステータス差を、ここまで無視出来るなんて…)」
決して感情論ではない。
想いの力で覆せるのは、互いの実力が競り合っている時だけ。
瑤華は己の技量で、鍛え上げた剣技でユイナに一矢報いてみせた。
◇◇◇◇
「今年も圧勝出来たことを祝して、乾杯ッ!」
その日の夜、武芸大会での健闘を労う宴がレギオンルームで行われた。
この国では15歳から飲酒が可能なので、ナナミとカナミ以外は全員果実酒のグラスを傾けている。
用意された料理は、ユイナに強請られた瑤華が作ったモノが半分。もう半分は各々の持ち寄りで、それぞれが食事を楽しみながら談笑していた。
瑤華はかなりアルコール耐性が高く、本来は水割りで飲む酒を原液で飲んでもケロッとしている。結美がしっかり酔っていたから、吸血鬼族の特性という訳でもないらしい。
他には、シャムとロクドウはザルだ。
ユイナもかなりの酒豪……と思っていたら、2杯目以降はシャンパンがシャンメリーに変わっていた。
匂いで気付いた瑤華とシャムは、興味が無かったのか、或いは勇者の面子を立てたのか何も言わなかったが……。
問題は他のメンバーで、まずアヤネは1口舐めて泥酔した。
暫くは会話に参加していたものの、今は瑤華に凭れ掛かって眠っている。
結美はぽわぽわって効果音がよく似合いそうな表情で、ナナミとカナミにベッタリだ。
クオリアは泣き上戸で、シャムが苦笑いしながら相手している。
そんなこんなで3時間ほど飲み続けて、翌日が休みなのを良い事に、それぞれの寝室で泥のように眠る事になった。
「瑤華は本当にお酒に強いんだね」
「…毒物への耐性は強化してあります」
「お酒を毒物扱いとか、シャムが聞いたら怒るよ?」
「……」
「それはそうと……瑤華、左手出して」
「何故ですか?」
「お願い」
訝しげな眼をするも、最終的に瑤華は左手を差し出した。
その人差し指に、ユイナはシンプルな銀の指輪を嵌めた。
「プレルディウムの優勝者には、互いの名が刻まれたペアリングが与えられるんだ」
「……やけに張り切っていたのはコレの為ですか」
「うん。コレなら着けてない方が不自然だし、瑤華も罪悪感が湧かないでしょ?」
指輪を渡しても、拒否されるのは目に見えていた。
瑤華はそういう愛情表現を受け取るのに抵抗がある、ユイナも強要はしたくない。
……でも、優勝商品のペアリングなら着けない方が不自然で、周囲から疑いの目を持たれ易い。
「……今日はもう寝よ?」
「………そう……ですね…」
◇◇◇◇
「…ぅ…ぅう……」
「……本当に、難儀な性格じゃないか…」
魘される瑤華を抱き締め、背中を摩りながらユイナは唇を噛んだ。
罪悪感を感じる必要は無いと言って、瑤華がすんなり受け入れられない性格なのは知っていた筈なのに…。
……ごめんなさい…、胸元に顔を押し込んでもまだ聞こえて来る声は、毎晩少しずつユイナを疲弊させている。
「瑤華…、いつになったら信じてくれるの…?」
「…ぁ、ぃゃ……」
「僕は……どうすれば、キミが心を休められる居場所になれるの…?」
愛して欲しいよりも、愛してあげたい。
瑤華にとっての救いになれるなら、地獄まで一緒に行くのだって喜んでしまえるのに……なのに、どうして瑤華は──
「ころ…して……ユイナ…」
「瑤華ッ!!」
「……えっ??」
泣いて良いのは自分じゃない、頭ではそう理解っていても止められなかった。
溢れる想いを、強引に瑤華にぶつけてしまう。
この日、魘された状態から初めて目を覚ました瑤華に、ユイナは思わず本気で叫んだ。
「ねぇ瑤華…教えてよッ……僕、瑤華に何か出来てる?瑤華の心を動かせること…ちゃんと出来てる…??」
「…え、ユイナ?どうして泣い──」
「僕はね、瑤華が居てくれるから本気で笑えるの!瑤華を斬り結んでるとワクワクするし、寝る時に触れ合えると心が暖かくなるのっ!だから、瑤華にだって幸せになって欲しい……幸せにしたい……でもッ──」
弱い所を見せたくなかった……でも、弱みを見せられる相手になって欲しかった。
だから、まずは瑤華に頼られるように自分なりに頑張った……。それでも──
「──僕が貰ってばっかりだ!何も返せてない…。魘される瑤華を宥める事も、瑤華の苦しみを理解する事も……瑤華に、なんて事無い幸せを享受して貰う事すら僕には出来てないッ!」
「そんなの…」
「教えてよ……僕は瑤華に何かあげられてる?どうすれば瑤華を喜ばせる事が出来る?…理解らないの……他人の本音を見抜くのは得意な筈なのに、1番知りたい…瑤華の事が理解らないんだッ……不安なんだ、本当は僕が今すぐ死ぬのが瑤華の幸せなんじゃないかと思うと……苦しくてどうしようも無い!」
いつもの得意気な顔は偽物かと疑ってしまうほど、瑤華の目の前に居るのはただの気弱な少女だった。
「……教えて……瑤華は僕をどう思ってるの?僕は瑤華の大切になれる?………それが理解らない、不安で不安で仕方無いのッ!!!」
「ユイナ……」
ユイナに対して無駄な感情を抱こうとしなかった。
殺す時に切っ先を鈍らせるモノは不要だと、心を殺し続けた。
……その結果が、コレだ。
ユイナの抱く不安は、瑤華が師匠であるエレナを喪った時に抱いたのと似ていた。
……しかし状況は、こちらの方が酷い。
瑤華はもうその答えを聞く事が出来なかったから、或る意味立ち直るのは簡単だった。
だがユイナは、目の前に不安を解消出来る人間が居るのに答えを与えられない。
「勇者なんて煽てられてる僕でも……キミの前だと本当の自分を曝け出せるんだ…普通の女の子として、楽しいって思えるんだ……」
「(やめて…)」
「瑤華にも、本当の自分を見せて欲しい……」
「(やめて…私に幸せを許さないで……)」
「瑤華──」
「煩いッ!黙れ黙れ黙れッ!!!!」
「ッ!? 」
瑤華は馬乗りになって、ユイナの首を両手で絞める。
……だが、震えの所為でその手には力が籠り切らず、ユイナのステータスをもってすれば、多少の息苦しさしか感じない。
「嫌い…大っ嫌いッ!どうして私を孤独で居させてくれないの?どうして、また喪う恐怖と戦わなきゃいけないの!?」
「ッ…」
「知らない方が楽なのに…知らなければ、傷付かなくて済むのに……なんで…どうしてこんな惨めな想いをしなきゃいけないの……」
遂には手が首から離れ、瑤華の虚ろな目から涙を流すだけの存在になっていた。
瑤華にとって、ユイナは………
「……私、もう使えないね…」
「えっ──」
こんな自分に存在価値は無い……そう判断した瑤華は、虚空から月夜魅を抜いた。
初めてユイナの前で抜いた愛刀を、迷わず自分の心臓へ突き立て────
「瑤華ッ!」
──ユイナがそんな事、許す筈が無い。
刀身を握り締めた右手からは血が滴るが、そんな事は気にならなかった。
「ユイナ、何し──!?」
左手で頬を打たれた。
どんな理由であれ、ユイナが瑤華を叩いたのはこれが初めてだった。
「何してるじゃないでしょ!!」
「ッ…」
「今、死のうとしたよね……」
「……」
「僕の手がどれだけ傷付いてもね、魔法で幾らでも治せる!でも、瑤華が死んじゃったらもう……何も出来ない……」
瑤華の手から月夜魅を奪って放り投げ、一瞬で有言実行してみせる。
それが尚の事、瑤華を俯かせてしまった。
「…手を汚せない私に、価値なんて……」
「あるよ!僕は瑤華が傍に居てくれるだけで、何でも出来る!辛い事も、瑤華の為なら喜んでやれるんだ!」
「でも…」
「瑤華も幸せになって良いんだ。それを邪魔する奴は、僕が全部全部斬ってあげる!」
「っ……」
「瑤華…大好き……僕を独りにしないで…」
──師匠ッ、置いて行かないで!私を独りにしないで!!
「ユイナ……ごめん、こんな感情を抱いた事無いから、ユイナの想いと私のが同じか理解らない……」
「……」
「だから、理解るまで傍にいて欲しい……」
「うん、待つよ。でも代わり…って言うのも変だけど、僕も本気で惚れさせにいくよ」
「うん…」
本当は怖くて仕方が無い、それでも……あと一度だけ、誰かを心から信じたいと思った。
隣に立って欲しいと、支えて欲しいと…そう思わせたのは、ユイナの想いだ。
初めて、ユイナと瑤華は脚を絡め合って、互いを抱き締めながら眠りに落ちた。
指輪を嵌めた場所には意味があるのですよ!




