レギオン対抗部門③
土曜に出しちゃった……
「«インヴィジブルブラスター»ッ!」
「«ホーリーウィンド»」
魔法が相殺し合い、すぐさま互いのエモノがぶつかり合う。
振り被られたショートメイスを魔法で出来た糸を束ねて受け止める結美。
本来は戦闘に不向きな彼女は、自分の躰も操作して戦っている。
心身共に消耗は激しいし、何より脳を酷使しているから激痛で意識が飛びそうになる。
「朽ちて」
糸との接地面からポロポロとメイスが崩れ落ちる。
「ッ……何でもアリですね…しかし、私のアーツ«テスタメント»には及ばない!」
ノーコストで自分の行使した魔法の威力を上げるアーツ、それが«テスタメント»だ。
確かに、結美からすれば羨ましい所もあるが……結局は使い方だ。
現に、互いに疲労で魔法を連発出来ない中で、敵は武器を失った。
「«身体強化»ッ!」
「…往生際の悪い……っ…」
運の悪いことに、結美に限界がやって来た。
最初は鼻血が、その後すぐに眼から血の涙が流れ出す。
脳を酷使し過ぎたツケが回ったのだ…。
「ふっ、終わりです!」
「しまっ──ぁ……ッ!!?!??!??!?」
動きが止まった瞬間、手刀で脇腹を抉られてしまう。
アドレナリンが大量に出ていた事と、アーツで自分の痛覚を鈍くしていた事が幸いして痛みは大した事無かったが、拭い去れない不快感に顔を顰める。
自分の体内で異物が動くのは、かなり気持ち悪い。
「フハハハッ!! 良いですよ、貴方も私という主人公を引き立てる為の脇役になりなさいっ!」
他人の人生を引き立てる為の脇役なんて、やりたがる奴は居ないだろう。皆、自分の人生は自分の為に描こうとするし、そんな役回りを押し付けられたら憤慨する者も居る。
……だが、結美は笑った。
結美は弱いから、誰かに寄生してないとこの世界を生きられないから──だからこそ、結美は自分を求めてくれる人の為に無茶を出来てしまう。
「……そう、ですね………私は結局、誰かが主人公の舞台の脇役にしかなれないみたいです…」
その言葉に敵が口角を吊り上げたのも束の間、結美は未だ腹部を穿いていた腕を掴み、糸で全身を固定した。
「──それでもッ、引き立てる相手はお前じゃないッ!!!その相手は私が決めるっ!」
その言葉に呼応するかのように、2つの影がマグマと化していた大地から飛び出した。
「…結美が作ったチャンス……」
「無駄にしないのです!」
「や、やめろ!待て!離せ、はな────」
影の正体はナナミとカナミ。
ロクドウが作り出した無敵領域から抜け出る際にマグマに触れ殆ど炭化した腕で、握ったナイフを両方のこめかみから突き立て────
◇◇◇◇
────結美が目覚めたのは夕方だった。
医務室で目覚め、傍らにあったメモを読む。
そこには部門で優勝を勝ち取ったこと、結美は無理をした精神的疲労で寝込んでいたこと、他は全員無事なこと等が書き綴られていた。
「…私、ダメだなぁ……」
重い躰に鞭打ってレギオンの控え室に向かうと、他のメンバーが全員で迎え入れた。
「心配したです!」
「…もう、大丈夫なんですか…?」
「はい、心配掛けてごめんなさい…」
駆け寄って来たナナミとカナミを抱き締めると、達成感で胸が満たされた。
そんな結美に次に声を掛けたのは、レギオンマスターであるユイナだった。
「お疲れ様、素晴らしかったよ」
「……ありがとう、ございます…」
「活躍し過ぎて、ワイヤーを使うシャムの立つ瀬が無くなっちゃったね?」
「うっせー!」
「まぁ、冗談は置いておくとして……これで私達が優勝した部門は、瑤華とアヤネの小隊部門、レオが参謀として参加した学年別クラス対抗部門、個人部門でダリウス、学年代表部門で私、レギオン対抗部門……今年も最多優勝だね」
また貴族派が増長するです〜、なんてカナミが愚痴るが愚痴をユイナにとっては瑣末事だ。
"勇者が作ったレギオン"の面子を保てば、それだけユイナは動き易くなる。
「明日は最終日、私達は大忙しだね?」
「……嬉々として言わないで下さい」
「瑤華は楽しみじゃないの?」
「楽しみじゃないですよ」
瑤華は強くなる事に余念が無いが、悪戯に戦う事は嫌いだ。
刃は見せびらかすモノではなく研ぎ澄ますモノ……それが師の教えであり、瑤華がアヤネに教えている事だ。
「瑤華は変わらないね」
「……ボイコットしますよ?」
「手厳しいなぁ…」
その後も談話は続き、夕食の時間になったのでお開きになった。
結美はもう瑤華には目もくれず、双子に引っ付かれたまま食堂に向かった。
◇◇◇◇
「瑤華ちゃん…」
「……結美?」
「少し、良い?」
2人は寮の屋上に向かった。
日中は気温が高いが、夜はかなり涼しい。
この日は満月という事もあり、白い床の屋上はダンスホールのように美しい。
「ねぇ…瑤華ちゃん」
「……何?」
「瑤華ちゃんは、勇者の事が好きなの?」
「…好意に類する感情は持ってない。今でも、あの危険分子は排除すべきだと思ってる」
「……そっか」
「うん。だから結美、いざとなったら私を背中から刺して良い……そうすれば、結美は何も失わない」
瑤華の口から零れた言葉を聞いて、結美は反射に近い勢いで瑤華を殴り飛ばしていた。
「………なんで、なんでいつも自分を犠牲にしたがるの!? 」
「私には、大切な人が居ないから」
もう一発殴ろうか……そう思って握った拳は、すぐに解かれてしまう。
瑤華の笑みは……余りにも悲し過ぎた。
「私が失いたくないのは、精々師匠から引き継いだ«月夜魅»だけ……革命軍の誰にも、アヤネですら心が動かない。前は失う事を想像するだけでおかしくなりそうだったのに、もう…何も感じない」
「ッ…」
結美は確信していた。
それは瑤華のアーツ、«ルナティック・ブレイヴ»の所為だと。
本来は発動時だけ精神を侵蝕する筈の負のエネルギーが、この学校に潜入する前から少しずつ瑤華を汚染し始めている。
恐らくは、急激なステータスの上昇が原因だとエルフ族長のアリアは言っていたが……。
「瑤華ちゃん……辛くないの?」
「……辛いって言ったら結美はどうにかしてくれるの?」
「それは……」
「必要としてくれる人を見付けたんでしょ?これからは私じゃなくて、その人達を想ってあげなよ」
「……………もう、何を言っても瑤華ちゃんには届かないんだね」
瑤華は喪い過ぎた。
両親も、尊厳も、師も、故郷も喪って……きっと、心が動かないのは、瑤華自身を守る為の防衛本能だと結美が考えた。
ならば……、自分がすべき事は何なのか──
「じゃあもう知らない。私は幸せになるから、瑤華ちゃんよりもずっとずっと幸せになって…私を捨てた事を後悔させてあげる!」
「……うん」
「その時になって謝ってきても、絶対に許してあげないからね!!」
語尾は震えてしまった。
それでも瑤華は満足そうで……結美は逃げるようにその場から立ち去った。
「…………あれ?」
瑤華の頬を、一筋の涙が伝った。
長らく流さなかった涙に戸惑いを隠せず、思わずその場で蹲ってしまう。
「…う、ううぅ……ぅぁっ…あぁぁ……」
声が抑えられない。
悲しい、辛い、苦しい……。
訳も理解らず、瑤華は嗚咽を零し続けるしかない。
それが瑤華が選んだ道だ。
瑤華にとっての、正解だ。
泣いてはいけない、
泣くな。
泣くな。
泣くな……
我慢出来る……訳が無かった。
結美に言った事は半分嘘だ。
確かに、喪う事にかなり鈍感になった。
だが、大事な人との別れは以前にも増して、瑤華の心を縛り付けるようになった。
「ごめんね…結美……」
しかし、どんな理由であっても瑤華はずっと隣に居てくれた幼馴染を裏切った。
弁明の余地も、元の関係性を望む事も許されない。
本当は、泣く事さえも────
◇◇◇◇
「あっ、やっと来た!」
「……遅かったですね」
「ごめんなさい、ちょっと瑤華ちゃんと話をしていました」
「「……」」
3人が共用している部屋に戻ると、ナナミとカナミがベッドの上から出迎えた。
2人は瑤華の名前を聞いて表情を曇らせたが、そんな2人を安心させるように結美は笑い掛けた。
「私を振った事を後悔させてあげるって言ってきちゃいました。責任取ってくれますよね?」
「ッ……勿論なのです!」
「…結美は私達が幸せにします」
「……それは…これを見ても、ですか?」
結美は自分の両眼に掛けていた魔法を解いた。
ずっとアクアマリンだった眼が、紅に変わる。
「私は結美・スキャルドメイル、現吸血鬼族長の愛娘です」
「「えっ!??」」
「これでも、私を必要としてくれますか?」
2人は驚いて動きもしない。
結美は不安に心を鷲掴みにされたまま、2人の言葉を待った。
「……綺麗…」
「本当に綺麗です…」
「………本当、ですか?」
「…秘密を共有したからでしょうか……いつもより結美が美しく見えます」
「ふふっ、マスターにも言えないですね!」
両側から抱き締められ、多幸感と背徳感に襲われる。
妖艶ですらある2人の笑顔に結美の理性はどんどん侵されていくし、2人も結美の恍惚とした表情に笑みが治まらない。
「…結美、良い?」
「はい、ナナミさん…」
「……ダメです、私達だけの時は呼び捨てにして」
「私もね♪」
そうは言いつつも、2人の手は既に結美の躰を這っている。
肝心な所には触れず、あくまで焦らしながら…………結美をとことん堕とす為に。
「ナナミぃ…カナミぃ……ッ、お願い…もっと──」
もう誰も止まれそうになかった。
文字通り夜が明けるまで、3人は溺れ続けるのだった。
◇◇◇◇
「……」
「瑤華…」
この日の夜、瑤華はいつものように魘される事無く眠っていた。
……それこそ、死んだように安らかな眠り。
その眠りは安息ではなく、瑤華の心に巣喰う負の感情が緩和された訳でもないことはユイナには理解っている。
「困ったな……魘されていても、そうでなくても…結局不安になるなんて……」
口元に手を翳し──呼吸を確かめる。
今夜だけでもう何回この動作を行ったか……。
せめて心音だけでも聞き続けられるようにと、ユイナは胸元に顔を埋めるように抱き締め、眠りに着いた。




