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半吸血鬼少女の往く道は  作者: 月弓
学園潜入生活
19/46

レギオン対抗部門②



「カナミさん!」

「あっ、皆遅いです!寂しかったです!」


シャムとクオリアが交戦を始めた頃、他のエリュシオンメンバーは合流を果たして標的に向かおうとしていた。


「…それで、状況は?」

「今かなりのレギオンが束になって教会派の相手してますけど……多分そろそろ全滅するです」

「…凄まじいですね……」


周囲の建物等を確認し、ナナミが改めて作戦を考える。たっぷり5秒間を要した後、ナナミは意を決したように言った。


「……私も前に出ます。結美は遠距離から火力重視の魔法で、私達の事は考えなくて良いです。ロクドウさんは結美を守って下さい」

「承知」

「えっ、ナナミさんって……」

「…妹を守るのに、いつも後ろに居る訳にはいきませんから…カナミ!」

「うん!」


2人は互いの手を取り合って──


「「«コネクション»ッ!!」」






────────


名前:ナナミ

種族:人間族

Lv:66

適性:炎・水・土・光・闇・無

異能:«結合(コネクション)»

筋力:29422

敏捷:35859

耐久:21478

持久:19861

魔力:37997


────────




────────


名前:カナミ

種族:人間族

Lv:66

適性:炎・水・土・光・闇・無

異能:«結合(コネクション)»

筋力:29422

敏捷:19859

耐久:17478

持久:19861

魔力:28997


────────





2人のステータスが統一されて、名前以外は全て同じ数字の羅列になった。

これが2人のアーツ、«結合(コネクション)»の能力だ。双子か歳の近い兄弟姉妹である事が絶対条件で、それでも圧倒的に発現数の少ないアーツだ。

効果はシンプル、ステータスや視覚等の感覚の共有に思考の共有。

スラムという劣悪な環境の中で、2人が生き延びて来れたのはこのアーツのお陰とも言える。


「……丁度、戦闘音が止みましたね」

「じゃ、援護は宜しくです!」


2人の姿が掻き消えると、ロクドウも移動しようとする。


「どこから支援する?」

「……見通しが良くて、敵の隊列が一度に見える場所で様子見します」

「わかった、護衛する」


鎧を着込んでいるとは思えないほど、音を出さずに移動するロクドウ。

彼も冒険者の出で、シャムとは旧知の仲でもある。

場数は踏んでいるし、その分知識も豊富だ。

結美も彼に倣い建物の合間を進んで行った。













◇◇◇◇


ナナミとカナミは物陰から、教会派のレギオン«セインツ»の様子を見ていた。


「回復役が2人だね…」

「…1人はレギオンマスターなので無理でしょうけど……もう1人は真っ先に倒そう」

「りょーかいっ!」


カナミは紙のように薄い円盤を空へ投げると、敵陣に向かって走り出した。遅れてナナミも走り出し、カナミとは逆方向を相手取る。


「敵襲!」

「2人来たぞ!増援が来る前に片付ぐあッ!?」

「このっ…ヒーラーが狙いだ!囲い込めッ!」

「あはっ、ばーか!!!」


──パチンッ。



カナミが指を鳴らすと、回復術士のすぐに頭上に先程投擲した円盤が現れた……さっきとは比べ物にならない大きさになって…。

カナミが得意な魔法は«体積操作»、体積を構成する縦・横・高さをそれぞれ自在に伸縮させる事が出来る。

最初は投擲してすぐに縮小させて、落下して来た所で巨大化。多少の誤差はあっても、巨大化すれば大体はカバー出来る。

しかもこれは、思考がナナミと繋がっているからこそ出来る技でもある。カナミには高精度の予測演算は不得手だが、ナナミにとっては得意分野。そして、与えられた情報を体現するのはカナミの得意分野だ。




──果たして、巨大な旋刃は回復術士の脳天から股間までを綺麗に両断した。

地面に刺さった衝撃で砕けてしまったが、替えはまだ沢山ある。


「もういっちょ!」


今度は剃刀の刃をフリスビー感覚で投擲する──が、


「ぬぅんっ!」

「やっぱりだ、大きい代わりに脆いぞ!」

「落ち着いてたぎっ!!?」

「どうし──ぎゅっ!?!?」


敵はカナミだけではない。

生まれた隙を突いてナナミが2人、こめかみにナイフを突き刺して絶命させた。


「……あと半分」

「面倒なのが残っちゃいましたね」


そう、«セインツ»は上3人だけが異常な実力を持ち、それ以下は平均程度の戦闘力だと揶揄される事が多い。

実際、その言葉は正しい。

今、ナナミとカナミが対峙する3人は、各々がユイナ相手に負けはするが善戦する程度の実力を持っている。


「お仲間待ちかな?」

「残念、その前に殺してしまうよ」

「改宗して赦しを乞うなら助けてあげよう」

「「……虫唾が走る」」


2人にとって、神や教会は嫌な記憶を思い起こさるモノでしかない。

2人の母親は、信仰の為にと暴力に塗れた躾をして、父親は母親を見限って出て行った。

殴られて泣き喚くカナミをナナミが庇い、その所為で彼女の背中には消えない傷が幾つもある。


「…カナミ……」

「大丈夫です……ちゃんと抑えてます…」


カナミは怒りが一定の所まで達すると、我を忘れて暴走してしまう。特に教会関係はトラウマで、すぐに頭に血が上ってしまう。


「«エレメンタル・バースト»」

「「「ッ!」」」


結美の魔法が飛来するが、3人共«障壁»魔法で防いでしまう。

……とは言え、それが結美の目的だ。

ナナミとカナミに注意が向いた所で、結美がそこそこの火力で不意討ちする……すると一瞬、意識が完全に2人から引き剥がされる。その瞬間が──


「«バーンズレッド»」

「…«アシッドスフィア»」


──2人の攻め時である。

炎を纏った刃と、強酸性の弾丸が«セインツ»の3人を襲う………筈だった。


「«束縛之樹(ソクバクノキ)»」

「«アブソリュートゼロ»」

「«絶対領域:魔女裁判»」


2人の攻撃は無かった事(・・・・・)になり、その躰は魔法で出来た太い幹に絡め取られ、下から火炙りにされている。


「「なっ!?」」


ナナミが急いで火を消そうとするが、«絶対領域»ではそれが叶わない。

一定領域内にいる場合、魔女裁判の如き炎は止められない。


「…このっ!」

「抜けられない…です……」


幹は完全に2人の関節を決めている上、火で炙られてもその拘束は解けない。


「愚か愚か……」

「見ていなさい、残りの1人はすぐに殺します」

「えぇ、こうやってね……«パニッシュメント»」


閃光、そして轟音……。

以前、ユイナが使った時はだいぶ手加減していた。

しかし今回は…周囲が更地になる威力だった。

土煙が晴れた後には、辺りは平地と化していた。


「随分と弱かったですね〜、お仲間」

「神よ…どうかあの弱く愚かしい者にもお慈悲を──」

「寛大なる神の祝福があらん事を──」


彼等の言葉に……遂にカナミがキレた。

幼さを残していた筈の顔は、額に青筋が幾つも浮かび上がっている。


「神なんてクソ食らえだッ!お前らなんかが………結美を愚弄するなっ!!!」

「……この不敬者がッ!」

「このまま放置しようかと思ったが生温い!」

「今すぐ神罰をくれてやろう!」


火に油を注ぐとはこの事だ。

3人がそれぞれ呪文を唱え始める。

この世界では、呪文や魔法陣を必要とするのは高位魔法だけ。

……この先、ナナミとカナミを待ち構えているのは、10回死んでも足りないくらいのオーバーキル。

ナナミはどうにかしてカナミだけでも逃がそうとするが、意識は痛みと息苦しさに埋め尽くされて集中出来ない。

……万事休す。

2人の想いが汲まれる事は無く……閃光が2人を埋め尽くした…。









◇◇◇◇



「うっ、ぐ……」

「大丈夫か…?」

「私は大丈夫……って、ロクドウさんの方が重傷じゃないですか…ッ!」


結美は生きていた。

攻撃の直前、嫌な気配を感じ取ったロクドウが結美を連れて距離を取ったお陰で、直撃を免れたのだ。

しかし、その余波で遠くの民家に激突してしまい、結美は少し気絶していた。


「大丈夫なら良い……それより、2人が危ない」

「でも……」

「…結美、何故さっき2人をアシストするような魔法を撃った?」

「ッ……それは…」


唐突にそんな事を言われて、結美は押し黙ってしまった。


「……どうして、自分で倒そうとしなかった?」

「………」

「…時間が無い、早く」

「……失敗したら、ナナミさんとカナミさんにも見捨てられると思うと……怖くて…」


俯く結美に、ロクドウは少し困った顔をした。


「結美、これから俺が言う事は戯言として受け流しても良い」

「えっ…」

「…俺は、失敗を恐れるくらいならやって失敗した方が良い………なんて微塵も思ってない。命の関わる場では失敗しない選択が最優先だ……。失敗した方が良いなんて、取り返しの付かない失敗をした事が無い奴が言うセリフだ」

「……」

「だが、やらずに失敗しない道を選ぶのが最善かと言われると、それもまた違う」

「…どういう事ですか?」


ロクドウは立ち上がると、笑って結美に手を差し伸べた。


「最善は、やってみた上で成功を勝ち取る事だ」

「ッ!」

「……安心しろ、お前はユイナに見込まれた。素養は十分にある!」

「でも……私、瑤華ちゃんに弱いって──」

「──弱いと言われたから諦めるのか?違うだろう……態々そう言われるって事はな、這い上がって来い!って意味だ」


ふと、結美の眼から雫が落ちた。

悲しい訳では無い……胸の中に宿った熱いナニかが溢れ出した。それだけの事だ。

確証は無くとも、ロクドウの考えは的を射ている気がした……何故なら、結美の知っている瑤華とはそういう存在だからだ。幾度の屈辱と後悔を乗り越えて、怒りや悲しみすら糧にして強さを求める──突き放すのは、不器用な彼女のエールだった。


「ロクドウさん…お願いがあります!」










◇◇◇◇



「……あれ?」

「…どうして……」

「済まない、遅くなった」

「「ロクドウさん!?」」


ナナミとカナミを守ったロクドウが、少し笑って2人に声を掛けた。


「すぐに増援が来る。それまでの辛抱だ」

「「ッ…」」

「……貴方は確か…、ロクドウですね?」

「厄介ですねぇ…彼の防御を砕くのは我々でも時間が掛かる」

「先程のように手加減は出来ませんね」


高慢ではあるが阿呆ではない……«セインツ»の3人も、ロクドウの防御が世界屈指である事は理解している。




────────


名前:ロクドウ

種族:人間族

Lv:84

適性:無・地

異能:«堅牢堅固»

筋力:9832

敏捷:3976

耐久:52511

持久:3598

魔力:3147


────────





耐久性だけが特出した反則級のステータス。

そして、彼のアーツ«堅牢堅固»は耐久性を5〜10倍に引き上げる。そして──


「«セイクリッドサークル»」


自分を中心に、一定の範囲内において、彼の耐久性52511を超えた筋力値or魔力値を持たない者の攻撃を無かった事に出来る。

仮にステータスが上回っていても、彼のステータスを上回った分…例えば魔力55000の攻撃なら、魔力2489の攻撃としてしかみなされない。


「……ふむ…これは、相手するだけ無駄ですね」

「そうですね、これだけの術式です。連発は出来ないでしょう」

「先に増援とやらを相手取った方が──?」


レギオンマスターの男の視線の先には、身長2メートル程の、細い人型のゴーレムが立っていた。

肘から先にあたる部分が剣で出来ていて、それ以外は服屋のマネキンに似ている。


「ゴーレム?」

「いえ、魔力は感じませんね」

「……何ですか…アレ…?」

「怖いのです……」


……言い知れぬ不安感。その理由を口に出したのは誰だったか…


「いつから、そこに居たんだ?」


…そう、ソレが何なのか知っているロクドウでさえ、存在を知覚出来なかった。冒険者として経験を積んだ彼には有り得ない事だ。


「これはいっ──」


これは一体何だ……そう言おうとした男の躰が、左右に分離した。

マスターの男が回復しようとするも、即死のため不可能だった。


「これは……«糸»の魔ほ──」

「半分正解です」

「「ッ!?」」


声の正体は…………他でもない結美だ。

斜め前に両手を突き出し、目一杯広げられている指……その先から僅かに見える細糸が繋がる先は、もう1人の男の躰。両方の手首足首を縛り上げ、極め付けは頸を筋が浮かんで出るほど締め上げられている。


「«ファンタズマ»……私が触れているモノを自在に変形し、操作出来るアーツです。この糸は魔法で作り出しましたけど、操作性は魔法の比じゃないですよ?」

「「結美ッ…」」


結美はナナミとカナミに笑い掛けると、右手を握った。

すると、ボキッ!という鈍い音と共に糸で拘束されていた部位が全て折れた。

これで、残るは敵のマスターのみだ。


「成程、あの人形は囮ですか……」

「…………ばーか」


今度は左手を握る。

その意図を察した瞬間にはもう、ゴーレムの持つ刃が首元まで来ていた。


「ッ!!?」


ギリギリで避けて、腰に吊ってあったメイスで頭部を破壊する。

流石の反応速度だが、普通のゴーレムと違って核は無い。破壊されても動き続ける。


「ぐっ、離せ…!」

「爆ぜて」

「ぐおぉっ!!!」


足を掴まれていた所為で、ゴーレムの自爆を近距離で食らってしまった。

しかし────大打撃ではあったが、それで崩れるような実力で«セインツ»のマスターは務まらない。


「«ブレイジング・ウェィヴ»!」


辺り一面が炎の海に呑まれた。

結美は近くの瓦礫を操作して空中に逃げるが、かなりの熱気だった。無事ではあるだろうが、ロクドウ達はもう見えない……結美だけで倒さなくてはならない。


「ぬぅんっ!」

「ッ……教会派の癖に、肉弾戦が得意なんですね…」

「我々の力が魔法だけだと思わないで下さい?」


攻撃を躱した結美の頬から、汗が一雫流れ落ちる。

本当は怖くて仕方が無かった。

それでも……結美は不敵に笑ってみせた。















多分、暫く日曜投稿が続きます。

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