面影を見たから
私がこの学校に来て3ヶ月、校内は2週間後の『武芸大会』の話で持ち切りだった。
王立学校時代からの毎年恒例行事で、個人部門、クラス対抗部門、レギオン部門等の各部門で生徒が自分の実力を示す場所。それぞれ優勝者には名誉と将来が約束されるから、当然皆が盛り上がる訳で……
「さて、私達もレギオン代表を決めましょうか」
普段は授業が終わってすぐにレギオンでの戦闘訓練なんだけど、今日はレギオンルームで会議。メンバーを列挙すると、
勇者であり私の制度上の姉、ユイナ・ロイセンツ。
副将かつ(自称)勇者の執事、クオリア・レイ。
同じく副将でムードメーカー、シャム・シャダン。
元孤児で無口なサポート役、ナナミ。
ナナミの双子の妹で怒らせると怖い、カナミ。
勇者が認める堅牢な盾戦士、ロクドウ。
シャイな軍師、レオ・アルクロード。
金髪マッチョ縦巻きロール(男)、ダリウス・レオン。
ここに私と結美が加わる。
……全員、ステータスのどれか1つが2万超えしている強者の集まり。対して私は…
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名前:瑤華・トワイライトムーン
種族:吸血鬼族
Lv:100
適性:闇・氷
異能:«ルナティック・ブレイヴ»
筋力:18250
敏捷:36500
耐久:10075
持久:20500
魔力:29995
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……月夜魅を抜かなくてもステータス的には余裕がある。
でも、3人同時に相手しろって言われたら負ける。
…特にナナミさんとカナミさん、そしてダリウスさん。
ロクドウさんは攻撃には向かないタイプだから別として、この3人は革命軍の上層部に匹敵する強さだよ絶対…。ダリウスさんは見た目が筋肉ダルマだから驚かなかったけど、ナナミさんとカナミさんには驚かされてばかりなんだ。何年か前まではスラムで泥水を啜りながら生きてたらしいし、ちょっと親近感が湧くかな?
因みに、2人は結美がお気に入りらしくてよく一緒に鍛錬してる。お姉様に心酔してて、育った環境的にも引き入れ易いかも……ってお姉様と結美から言われたりもした。
あっ、因みに昨日見せて貰った結美のステータスは…
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名前:結美・スキャルドメイル
種族:吸血鬼族
Lv:91
適性:炎・風・土・光・無
異能:«ファンタズマ»
筋力:8542
敏捷:8996
耐久:17491
持久:10874
魔力:35977
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魔力が元々高くて、暗殺者としての訓練を通して敏捷と筋力が上がったみたいだけど、典型的な魔術師タイプ。更に属性にも恵まれてるから、汎用性は私より圧倒的に上。
……話が逸れたね。
兎に角、私も十分レギオン代表になる可能性がある。勇者であるお姉様は確実だろうから、残りの枠は5つ。
「あ、私は今回出られないんだ。もう参加上限数まで出場が決まってるからね」
「そうなんですか?」
「うん、まず去年と一緒で学年対抗戦の代表……これはほぼ強制なんだよね。それと、今年からは擬似きょうだい対抗戦にも出るよ」
ほへー、とシャムさん………………………………ちょっと待って、今なんて言ってた!?
「私そんな話聞いてませんけど!?」
「うん、今朝まで忘れててね。慌てて申請したから伝える暇が無かったの」
「ダメお姉様…」
シャムさんとダリウスさんが慰めてくる。
……何か腹立つ。
「まぁ、それについての愚痴は後でちゃんと聞くとして……去年は私が派手に戦った所為で君達にはかなり迷惑を掛けたみたいだし、存分に暴れて貰いたい。立候補は居るかな?」
「「はい」」
「わたくしも出ましょう」
「副将が出ない訳にはいかないだろ」
ナナミさんにカナミさん、続いてクオリアさんとシャムさんが立候補した。支援役1人に攻撃特化型が3人……御世辞にもバランスが良いとは言えないけど…。
「じゃあ、ロクドウと結美さんお願い」
「……心得た」
「えっ、私ですか?!」
「支援役が欲しいからね。それとも、もう出る部門が決まってた?」
「いえ…まだ1つしか……」
「じゃあ宜しくね。レオ、作戦立案は任せるよ」
「理解りました」
…2ヶ月前くらいかな?このレギオンの異質さに気付いたんだ。
皆、お姉様の地位とか勇者である事とか……そう言うのに興味が無いんだ。救われたから、強かったから、綺麗だから……そんな在り来りな理由ばっかり。
それでも、向ける好意の中には勇者としてのお姉様も当然含まれてる訳で、お姉様はそれが気に入らないらしい。
『嫌ってくれて構わないよ。寧ろ、そんな瑤華に好きになって貰えたら……その時はきっと、僕自身だけを見てくれるだろうから』
私が、何故私なのか…って聞くと必ずこんな感じで答えてくる。
腹が立つ……何に腹が立つって、そんな事を言われて嬉しく思う自分に腹が立つ。暗殺対象に絆されて、甘えてしまいたいと思う自分の弱さが許せない。
…私にそんな権利は無い。
「────瑤華?瑤華ってば、鍛錬しに行くよ!」
「………はい」
「やる以上は優勝しなきゃ!」
「…乗り気なんですね……」
「優勝ペアには副賞で……いや、これはその時のお楽しみにしよう。兎に角、絶対に優勝したいんだ…」
「……そうですか…」
無駄に目立ちたくないのに……この人は何を考えてるんだろう……。
◇◇◇◇
次の日、今度はクラス代表を決める会が設けられた。
1年生で、尚且つ10組なんてどの部門にも出られない人が殆どだから、皆が挙って立候補して話が纏まらない。
クラス代表は5人、単純に考えれば6人に1人しか選ばれない。私が入る余地は無い………って思ってたのに、
「瑤華さん、クラス代表にならない?」
「私はいいよ、皆で決めて」
「でも瑤華さん強いんでしょ?」
「居てくれると心強いんだよな〜」
「私なんて大したことないよ?(勝ちたいなら自分達で努力してよ…)」
結局話は纏まらなくて、明日に持ち越しになった。
私がいつも通り屋上に行こうとしたら、後ろから袖を引っ張られた。
「……何?どうしたの?」
「…………」
その子は持っていたノートに何か書き出した。
『私はアヤネ・フラウロスと言います』
『私は声が出せません。筆談で不便をお掛けしますが、お時間大丈夫ですか?』
「…うん、あと敬語じゃなくて良いですよ。フラウロスは貴族の姓でしょう?」
私がそう言うと、その子…アヤネは目を輝かせてまた何か書き始める。
『私も敬語じゃなくて大丈夫です!』
『本題なのですが、私に剣を教えて下さい』
「………えっと、理由を聞いても良い?」
『私は、幼い頃は剣の天才として育てられました。ですが、ここに来て私より強い人が沢山居て、もっとちゃんと剣を学びたいと思ったんです』
……正直、面倒事になったと思う。
「……もしかして、武芸大会に出たいの?」
「(コクッ)」
「…正直に言うと、諦めた方が良いよ。自慢じゃないけど、私が使う剣技は真面に実戦で使うのに最低5年は掛かる。そもそも、躰に合わなかったらいくらやっても体得出来ない」
『それでもお願いします』
「……じゃあさ、本当に私に剣を学びたい理由を教えて」
「ッ!?」
「私、嘘吐いたり隠し事してるのを見破るのは得意なんだ……だから、何か打算あって近付く奴に私達が研鑽して来た技を教えない」
もし、私を怪しんだ貴族とかからの密偵なら、悪いけど追い返させて貰う。私と師匠の積み重ねはそんなに甘くない。
私が出方を伺ってたら、アヤネの眼はどんどん潤んで……泣き出してしまった。それでも必死にペンを走らせる彼女には私もどうしたら良いか理解らなくて…。
「えっ、何で泣いて……」
『ごめんなさい。本当の事をお話します』
『私は昔、自分の傲りの所為で友達を喪いました』
「ッ……」
『私が無理に森の中に入って、その所為で魔物が大暴れして街を襲いました』
『私の所為で、父様と母様は領民から圧政者の烙印を押されました』
『武芸大会は、魔法で王国全土に中継されます。そこで、私が成長した姿を親と領民に見せたいんです』
「それは……罪滅ぼしのつもり?」
嫌な質問だって自分でも思う。
でも、アヤネはゆっくり首を振った。
『私が領地に戻って罪滅ぼしをする為に、もう口だけの存在じゃないと認めて貰う為です。罪滅ぼしは、故郷に戻ってからします』
「どうやって?」
『私の故郷は強い魔物が沢山居ます。だから、私はずっとそこで領民を守り続けます。どれだけ非難されても、私にはそれしか出来ません』
危ないと思った。
それは危ない、だって私と同じ考え方だから…。
断るべきなんだ、断らなきゃならない。
……でも、強くなりたい理由が……師匠と同じだったから、放っておくと…後で自分が後悔しそうだったから──
「理解った、出来るだけの事はする」
「ッ!」
「でも覚悟して、私は一切手を抜かない。倒れても手を差し伸べない、立ち止まるなら見捨てる。それに耐える覚悟はある?」
「(コクッ!)」
「……理解った、じゃあ昼食を持って屋上に来て。あと、武芸大会の参加申請用紙も」
「?」
「行動が遅い、早く!」
「!」
アヤネが走って廊下に向かうのを見て、私は思いっきり溜息を吐いた。
…簡単に情が移ってしまう自分が恨めしかった。
「でも……見捨てたくないし…」
苦しくて、どうしようもなかったんだと思う。
辛い記憶で……思い出すだけで泣く程なのに、それでも何とかしたくて必死に書き綴った。
そういう苦しさを知ってるのに見捨てたら、私の存在意義が土台から崩れそうだから…。
「……後でお姉様に謝らないと」
◇◇◇◇
「──事情は把握したよ。瑤華を咎めたりもしない」
「…でも、お姉様との鍛錬の時間は減ります」
「限られた時間を大切にすれば良い。それか、その子をレギオンに勧誘する。どうせ無所属なんでしょ?」
「……枠が限られてるんですよね。私の我儘で埋めて良いモノじゃ…」
「そうでもないよ?今の所、勧誘したい人も居ないし、瑤華と同じ剣技を使える人が増えるのはレギオンにとって有益だし」
「…つまり、権利と義務を同時に押し付けられた訳ですね……」
それでも、色々と好都合かも知れない。
「しかも、フラウロス家なんて領地は王都から離れてるし、元々王国の重税に苦しんでる。良いパイプが出来るよ」
「現実問題そうだとしても、そう言う下心を持ちたくないです……」
「やっぱり可愛いなぁ、瑤華は」
「ちょ──」
ベッドに引き入れられる。
丁度、私が押し倒す形で……これは、ユイナが私に血を吸って欲しい時のアピールなんだ。
「……嫉妬ですか?」
「まぁね…、私が瑤華の1番で居たい」
「今すぐ襲ってくれたら、1番下にしてあげても良いですよ?」
「そんなのイヤ、瑤華から襲ってくれるまで待つよ」
普段、下らない嘘を吐いたらすぐに理解るけど、今はそんなの一切無い。視線も呼吸も対応も、心臓の脈動も全部で本当の事だって伝えてくる。
腹立たしいけど、ユイナが服をずらして肩を見せた辺りから我慢出来なくなって……今日は左肩に牙を突き立てた。
「────今日ちょっと痛かったんですけど」
「……好きな癖に」
「瑤華がしてくれるからだよ。普段からそんなドMだと勘違いされそうな発言はよしてよ」
やっぱりどこか嬉しそうなユイナは、私をベッドの奥に押し込んで照明を消してしまった。
最近、寝る時に抱き枕にされる事が増えてる。
密着してる分、殺し易くて良いのかも知れないけど……寝言で愛を囁かれ続けるのは結構辛いんだ…。
◇◇◇◇
翌朝、私がやってる早朝の鍛錬の時にレギオンの話を持ち掛けてみると…案の定断られた。
「嫌なの?」
『いえ…私が入っても迷惑だと思います』
「大丈夫、お姉様から持ち掛けてきた話だし」
『でも…』
「私が全力で鍛える。時間は絶対必要だけど、必ず強くしてあげるから」
『……わかりました、宜しくお願いします』
ゴリ押しだけど、入隊が決まった。
次いでにもう1つ、伝えなきゃいけない事があるんだ。
「あと、小隊部門で参加申請したから」
「………ッ!?」
「3人までの部隊を組めるけど、私達は2人だけね。これもお姉様から許可貰ってある」
『それじゃ、瑤華に負担が…』
「変な気遣いしないで、この程度の逆境なんて何度も経験してきた」
『ありがとう』
それから私達は走り込みと軽いトレーニングをして授業に臨むんだけど…、正直こっちの方が問題だった。
◇◇◇◇
「えっ、何で!?」
「何でもなにも、出場上限を満たしたからですよ」
「そうじゃなくて、何であんな……声も出せないような人と組んだの?勝ちたくないの??」
「別に勝敗なんてどうでも……私は、自分が味方したいと思った人の手助けをしているだけです」
アヤネは私の後ろで震えてる。
昔の結美みたいで、なんだか守らなきゃって思っちゃうのは、ちょっと癪だけど。
「私達はどうでも良いってこと?」
「サイテー」
「だって皆さん、私を利用して勝ち上がろうとしてるだけじゃないですか。血反吐吐いてまで勝とうとなんてしてないでしょう?」
「貴女に何が理解るって言うの!」
「理解りますよ。眼を見れば、相手がどれだけ真剣かくらい理解ります」
昨日も今日も、アヤネは何度も倒れて泣いてた。
疲れたなんて言葉じゃ表せないくらい自分を痛め付けて、それでも立ち上がる。
……見縊ってた訳じゃないけど、驚かされたなぁ。
私の時よりキツい鍛錬に、必死に食い付いて来るんだもん。
「アヤネを無能扱いしない方が良いと思いますよ?後々自分が恥をかくだけですから」
「お前さっきから黙って聞いてりゃッ!」
殴り掛かって来た男の拳を、左に避けて躱す。
そのまま右手で手首を、左手で肩を掴んで床に押し付ける。この時、右手は左手と連動するように持ち上げると簡単に押さえ付けられる。
「アヤネ、私達みたいに背が低いと確実に力負けする。だからこうやって、相手の勢いを利用する戦い方を覚えた方が良いよ」
「テメェ、何呑気に…」
「殴り掛かって来たのはそっちでしょう?丁度良いので教材になって貰ってるだけです」
私が笑うと、コイツは抵抗を止めた。
この時腕を折られそうになっていたなんて、受けた本人にしか判らないだろうからね。
「……ほら、申請は明日まででしょう?」
波紋が広がるように、1人…また1人とクラスメイトが離れていく。私達抜きで進む話し合いは、まるでお通夜みたい。
私はもうそんなの気にしてなくて、今後の鍛錬について思考を膨らませていった。
◇◇◇◇
──痛い、殴られた場所が痛い。
「ほら、早く立って」
瑤華の鍛錬は予想の何倍も辛くて、痛いです。
「ッ!! 」
「一撃食らってからの反応が遅い、あと反撃が無くなってる!」
「ッ!!!!!!!!!!」
掌底、劈拳、回し蹴りからの踵落とし。
流れるように、息を吸う暇も無い連撃……掌底すら真面に止められなかった私は、後の3連撃を直で食らってしまいました。
痛いです。
勇者様と戦っている時に比べると、素人でも理解るくらい加減して貰ってます。それでも、全然届かないんです。
「……休憩して」
瑤華は私にそう言ってすぐに、腰に差していた刀を抜きました。
……私は今、瑤華と勇者様と一緒に鍛錬しています。
瑤華は私の相手をしてすぐに、勇者様と鍛錬をする。その繰り返しを延々と続けています。
「もう、待ち草臥れたよ〜」
「…さっき私から一本も取れなかったのに、何言ってるんですか?」
「単なる剣術なら私は瑤華に勝てないんだってば……でも次は何でもアリ、意地でも勝たせて貰うよッ!」
「大人気無いんですよッ!」
瑤華が刀を振るう姿は、とても綺麗です。
でも私は……まだ刀を握らせてもらえません。
ずっと拳で戦って、2人が戦っているのを見続けるのは、躰が痛い事よりも辛いです。
「そこっ!」
「しまっ──きゃあっ!」
瑤華が攻撃を受け流した瞬間、至近距離で勇者様の魔法が放たれて……直撃を食らった瑤華が10メートル近く吹き飛びました。
私が慌てて駆け寄ろうとした時…いいえ、吹き飛ばされてる途中でもう、瑤華は体勢を建て直していました。そして着地と同時に地面を蹴って、また音が遅れそうなくらい速い剣戟を続けるのです。
「「ッ──!」」
互いが放った一撃の後に動きが止まって……瑤華だけが、その場に蹲ってしまいました。
「大丈夫、峰打ちで気絶させただけだよ」
「……」
「キミと少し話がしたくてね」
『なんでしょう?』
「どうして瑤華を選んだの?」
そう言われると少し悩みましたけど、素直に思った事を伝えました。
『見栄えだけじゃなくて、全部が綺麗な剣技だと思ったからです』
「具体的にどこが?全部って言っても、特出して眼に付いた場所がある筈だろう?」
「……?」
「例えば足運び、例えば腕のしなり……挙げればキリが無いけど、キミにとってはどこ?」
今度はさっきの何倍も悩みました。
自分でも漠然としてる事に気付いて、改めて思い出してみると……
『手元な気がします』
「どうして?」
『刀を握る手に無駄な力が入ってなくて、手首がしなやかに動いてるから…』
「なら、どうして真似してみないの?」
「ッ?」
「上手くいかないのは大前提なのに、どうして挑戦しないの?」
そんな事言われても……私にはそんな余裕無くて…。
「自分には余裕が無い、そう思ってるよね?」
「……」
「だから瑤華は刀を握らせないんだよ」
「ッ!?」
「瑤華が前に話してくれたんだ。瑤華の技は、剣技だけじゃない……全ての武道に通ずるんだって」
「……」
「瑤華も最初は素手から始めたんだって。……極意を掴む為には、これが遠回りなようで近道なんじゃないかな?」
『どうして、私の考えてる事が理解るんですか?』
私の事も、瑤華の事も……この人は全て知ってるように語る。どうして……?
「キミの事はよく理解らない。全部、瑤華の反応を見て判断してるからね」
『瑤華の事を、本当に大切に思ってるんですね』
「まぁね、半ばゴリ押しで妹になって貰ったぐらいには…ね」
それは、見た事無いくらい艶やかな笑顔でした。




