霧形の獣⑪
最終目標の姿を確認した俺達は、地面に降り立つと早速作戦会議に突入した。
「距離的にはどれくらいなの?」
「んーと……今から向かえば多分2~3時間もあればつくんじゃないかな?」
シードの問いにメイが中空を見ながら──恐らく先ほど見た景色を思い出しているのだろう──答える。
それから続けて霧形の大きさや居場所の状態、そこまでの道のりなどを続けて全員へ説明した。
それを聞いた岩鉄が首を捻る。
「これまで聞いた話と合わせて考えると、その場所は過去の内乱で戦場となった場所じゃないか? そう考えると先日のようにまたアンデッドが出てくるんじゃないのか」
その疑問に対して答えを返したのはタツミだった。
「……その可能性は低いそうです」
タツミの説明によると、苗床にすることで人の生命エネルギーを吸収する霧形の獣は、アンデッドを動かすような低位のエネルギー体も吸収して自らの力にしてしまうらしい。そのため奴のいる場所でアンデッドは出現しずらいそうだ。
ここから先は予測だが、もしかしたら霧形の力となっているのは人の憎悪や生への執念などという曖昧なものではなく、単純に憑依先として死体へ寄ってくる低位のエネルギー体を集めてるだけなのかもしれない。
まぁどちらにしろ、余計な邪魔が入る可能性が低いなら好都合だ。
「そういった邪魔が入る可能性が少ないとなると、やっぱり問題は”逃走”されることへの対策だな」
俺の言葉に、全員が頷く。
今回の件、メタ的な話をしてしまえばクエストの難易度としては中級レベルだ。これまでの使役体の強さから推測すれば、正直俺達が苦戦するような相手ではない。ここら辺設定がどうなっているかわからないが恐らく以前奴が暴れていた数百年前には、スキルを使える人間が少なかったか今ほど万能ではなかったのではないかと感じる。勿論奴が全盛期の力を取り戻していないだけというところもあるだろうが、ヤスツナから聞き取った使役体と本体との力の比較から考えても想定される難易度のレベルは大きくぶれることはなさそうに思える。勿論甘く見るのは禁物だが、ついでにいえば特殊攻撃や動きなどの情報も俺達は入手してるので猶更だ。
一応、想定を超えた強さの場合も考えてどうするかは決めてあるのだが、現実的に問題になる可能性が高いのは向こうが逃走を図った場合だろう。
倒しきれずに逃がした場合タツミの両親達の命が危うくなるし、単純に俺達もこんな奇襲による巻き込みを心配して野宿する生活を続けたくはない。
「でもさ、ここまで近づいているのって向こうにもわかってるよね? それでも逃げてないんなら、何かしら縛りがあってそこから動けないとかじゃないの?」
「可能性としては高いと思うけど、絶対という確信がない以上あてにはできないわ」
リアルの疑問に、シードが首を振る。
「自分の存在消滅の危機を感じたら逃げ出す可能性はあるだろうな」
この世界のエネミーは今の所ゲーム時代の生息域から殆ど出てこないところから考えられる通り、霧形が何かしらの設定に縛られてその場から動かない可能性は充分にある。(ヤスツナを直接襲撃してこないのは自分の天敵だからとは思うが、だとしたら逆にここまで近寄れば普通は逃走するだろう)だが、エネミー達の中に稀に別の場所で出現する連中がいるように、今の霧形も100%そういった設定に縛られていない可能性は高い。
「とはいえ、足止めも難しいですね。確実に止められるのは岩鉄さんの<<クロージングワールド>くらいですかね?」
フラットの言葉に岩鉄は首を振る。
「あれは敵と強制的に一対一になるから、デカブツ相手だと少々厳しいな」
「僕の<<イジェクションウォール>>もあくまで相手を強制移動させるだけですから足止めには向きませんからねぇ。他に使えそうなスキルありませんよね?」
フラットが周囲に視線を振ると、残りのメンバー……うちの女性陣は全員首を振った。
「俺の<<バインドウェブ>>で一瞬の足止めはできるかもしれんが……あとはリアルかメイに追いついてもらって足止めしてもらうくらいかな」
リアルは<<疾風怒濤>>、メイは<<スライドムーブ>>という高速移動スキルがある。
「あとはメイが接近後に俺と位置交換してもらって、他の仲間の方へ<<ブロウイングウィンド>>で吹っ飛ばすという手もあるな」
「……っていうかさ、<<テレポート>>使えばよくない? あれ確か視界が通ってれば離れた場所にも設定できるよね?」
「ああ」
一応100m以内迄なら任意の場所にポインタは設定できる。
「ただそうするとギルドハウスまで自力で帰る必要があるが……」
「いいんじゃない? 今の私達に急いで帰らないといけない理由もないもの」
ね? とメイが見回すと多分何の話かわかっていないタツミ以外の全員が頷いた。
「皆と一緒なら、長い馬車旅も退屈じゃないよ!」
「メイちゃんのいう通り、前の旅と違って今の私達に時間の制約はないわ。それにそうすればこないだ気にしてた移動力の問題も解消するでしょ」
「<<テレポート>>とリアルさん達の移動スキルがあれば充分に足止めはできそうな気がしますね」
「……わかったよ」
元々今回の旅のスケジュールは<<テレポート>>による帰還を計算に入れたものだが、すでに現在のイレギュラーで予定は狂っている。大分余裕をもって代金を払ってきたとはいえあまり長く屋敷を開けすぎると花壇とかいろいろ心配にはなるんだが、皆のいう通り<<テレポート>>を解禁すれば作戦の幅が広がる。ここで逃がせば普通に予定が遅れる上に人命が掛かっているなら悩むとことでもないか。
「奴が逃走を図りそうになったら俺かメイ、リアルが回り込んででかいの叩き込んで動きを止める。
あるいは俺が吹っ飛ばして皆の元へ飛ばしてフルボッコ。それでいいな」
「いいと思うわ。後は戦闘開始と共に全力で、でいいわね?」
シードの言葉に俺は頷く。今回わざわざちまちま削る意味がないからな。短期決戦で一気に削り切ることを考えた方がいい。
「とにかく全力でボコして削って、霧形がほぼ動かなくなったらタツミの出番だ。ええっと、止めをヤスツナが刺せばいいんだよな?」
タツミに視線を送ると、彼は真剣な面持ちで頷いた。
「はい。霧形にダメージを与えると核となっている黒い球体が姿を現すそうです。後は僕がヤスツナを握ったままそれに突き立てれば後はヤスツナの力で滅びを与えられると」
「了解だ。……一応念のため言っておくが、無理して動きを止める前に近づこうとするなよ?」
「はい、皆さんを信用しています。僕の出番は確実に霧形に止めをさせるようになってからです」
「いい子だ」
頭をワシワシと撫でてやると、タツミはくすぐったそうに顔を綻ばせた。
それから10分ほど細かい部分の作戦を詰めて。
俺達は地面に降ろしていた腰を持ち上げた。
「タツミ、霧形に動きは?」
「まるで動いている気配はないそうです。恐らく先ほどメイさんが見つけられた位置のままかと」
「よし」
俺は全員の顔を見回し、自分で不敵(と自分ではおもっている)笑みを浮かべて宣言した。
「さて今日できっちり終わらせて、明日には熱い風呂にでも入りつつ豪遊と行こうぜ!」
「おう!」
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