霧形の獣⑩
「これで最後だ! コネクト:[ホーリーバルカン]!」
俺の放った一撃が最後に残ったゾンビを消し飛ばす。
<<ホーリーショット>>はクールタイムがかなり短いスキルではあるが、それでも2秒程度インターバルがいる。残りがきれいにばらけてしまい上手く2枚抜きができるような撃ち方が出来なかったことと、シードの方が俺よりスキルのクールタイムが長くかかったのもあって、全てを掃討する間に時間は20秒ほど過ぎてしまっていた。
「あっちは……大丈夫そうね」
弓を構えたままリアル達が戦っている方へ体を向けたシードが、安心してほっと息を吐く。
視線の先では、丁度使役体の内の1体がボロボロになって倒れ伏すところだった。
その巨大な体の前半分はずたずたに切り裂かれ、後ろ半分は大部分が消し飛んで消失している。
恐らく前者はリアルの自分の周囲にいくつもの斬撃を生み出すスキルによるもので、後者はメイのボム系のスキルによるものだろう。
そして残りの一体は少し距離の離れたところで体勢を立て直そうとしている。こっちは岩鉄に吹っ飛ばされた形か。
予想はしていたが、やはり強化体と言えど脅威にはならなそうだ。少なくとも前回のダンジョンで遭遇した殺戮人形や三つ首、それに岩テュランソスあたりに比べればはるかに劣るレベルだろう。向こうにいるメンバーだけで充分倒せるレベルだ。
とはいえ、のんびり見ている必要もない。俺達が向こうに合流すればわずかに残るリスクがさらに減る。
「ほらシード、安心してないで行くぞ!」
「あ、うんっ!」
俺もシードも射撃型だから遠距離からでも参戦できるが、いかんせん距離が遠い。殆どのスキルが射程外だし的がでかいとはいえ動きが速いので、当てるのもなかなかに面倒だ。
「急ぐぞ!」
シードに声を掛け走り出し、そして速攻でシードに抜かれる。
……いや、AGIの値向こうの方が上だしこっちはロングスカートだから走りずらいしさ。
「先いくね!」
あ、はい。
急ぐぞなんて声かけた直後のこの流れって俺すごく格好悪くない? 誰も見てないからいいんだけどさ。
視線の先では、リアルとメイが残る一匹の使役体に立て続けに攻撃を加えていた。岩鉄はタツミの側でハンマーを構えたままで動く気配がない、恐らく使役体を倒すのにはメイとリアルの二人だけで充分と判断し、彼自身は強引に突っ込んできた際に対処できるように防御に専念しているのだろう。
一体目を倒したと思われる大技はクールタイムの都合上まだ使えないのだろうが、それでもメイとリアルの攻撃は着々と使役体の体を削っていく。さらに
「コネクト:[魔弾の射手]!」
すでに俺より大分先行し、射程内にがいったシードが巨大なエネルギーの矢を放ち始める。
それで決定的となった。
リアルの空間事断ち切る斬撃、メイの爆撃、シードの巨大な矢を何度も立て続けに叩き込まれた使役体はその体から力を失い、地面に倒れ伏した。
そう、俺が射程距離内に入る前に。
いやいい事なんだけどね、特に被害もなく早々に片付いたわけだし。ただこうなんか感じる微妙な寂しさはなんだろうね。
「お疲れ様、リセ」
矢を背負いなおしたシードが、そういって俺の肩をポンと叩いてくる。
「あー、ああお疲れ」
大丈夫、俺はゾンビとスケルトン一杯倒した。ちゃんと仕事してる。
ただまぁ今度移動系か速度補助系のスキルはなんか覚えた方がいい気がしてきた。これまでは迎撃型で戦う事が多かったので気になったが、移動しながら戦う必要があった時に足手まといになりかねないし。
「リセ?」
こないだみたいにリアルに運んでもらうのも緊急時以外は避けたいところだしな。
「リーセ!?」
「うわぁっ!?」
気が付いた瞬間にはかなり近い距離にシードの顔があって、俺は思いっきりのけぞる。
「なななななんだよ?」
「戦闘終わったのになんか難しい顔してるし、呼んでも気づかないんだもの。何か気になる点でもあったの?」
「あーいや……」
いや、ここで言葉を濁すと余計な心配かけるな。素直にいうか。
「ちょっと自分の足の遅さが気になってな。移動系かスピード補助系を取るべきか考えてた」
「<<テレポート>>があるじゃない?」
「あれギルドハウス緊急帰還用で解除したくないからな」
ポイントの設定が複数個所できるようになればいいんだけどな。
「後はこないだみたいにリアルに運んでもらえばいいじゃない。なんなら私もあのスキル取りましょうか?」
「いや毎度あれやるのはちょっと……」
介護されているわけもあるまいし、後あれ自分のされてる姿想像しちゃうと結構恥ずかしくなってくるんだぞ。
「まぁでも何にしろすぐに何とかなることじゃないでしょ? 落ち着いてから考えればいいんじゃない?」
「……だな」
今は先に考えるべきこと、やるべきことをするべきか。
これまでと同様、細かい粒子になって霧散していく使役体の側ではリアルが元気にこっちに向けて手を振っていた。それに手を振り返しながら、シードに向けて言う。
「まずはとっととあっちに行って、休憩するとするか」
「そうね、タツミ君も限界だと思うし」
アンデットはあれだけの数を吹っ飛ばしたし、そもそもリアル達の戦域側では出現する気配もない。ついでに霧形の襲撃もこれですぐにはないだろう(このタイミングで二手に分けたもう片方を投入などしてきたらそれこそ愚かすぎるだろう)し、この辺りの安全は確保されたはずだ。結果としては丁度いい休憩のタイミングとなったな。
「タツミは少し寝かしてやってもいいかもしれんな」
「何なら膝枕してあげたら? きっと喜ぶと思うわ」
「休憩後に足がしびれて俺がしばらく動けなくなるわ」
「そしたらお姫様抱っこして運んでもらえばいいじゃない。なんなら私がしてあげましょうか?」
「お 断 り だ !」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「どうだ、メイ?」
「うん……今探してるからちょっとまって。あと絶対離さないでね!」
「いやお前自身にもスキルかけてあるから別に離れてても落ちねぇって」
必死さを感じる力の入れ方でしがみついてくるメイに、俺は苦笑いを浮かべながら言う。
「お前別に高所恐怖症ってわけじゃなかっただろ?」
「高所恐怖症じゃなくても、自分で操作の効かない状態でこんなところにいたら恐いわよ!?」
そりゃそうか。
今俺達の周囲には何もない。森の木々も、他の仲間の姿も、そして地面すらも。
今俺達は空中にいた。仲間たちと、彼らが立つ地面は遥か下にある。俺のスキル<<フライト>>で地上からの高さ100mを超える位置に浮いているのだ。
もちろん、こんな所にいる理由は優雅な遊覧飛行ではない。メイの遠視スキルである場所を偵察するためだった。
「わかったから、ちゃんと抑えててやるから安心しろ。で、どうだ?」
「うん……大丈夫、ちゃんと見つけた。多分焼け跡なのかな? 殆ど形の残っていない建物の跡地みたいなところで丸まってる。寝てるのかな、微動だにしてないね」
彼女が見ているのは俺達の最終目標、霧形の獣の本体だった。ヤスツナの情報でかなり近隣迄はこれたのだが詳細な位置を特定するまでの精度がないらしく、具体的な位置を特定するために上空から偵察する形になった。
最初はメイの<<アイズフロムスカイ>>で確認したが、同スキルの制限高度内では発見できなかったため俺が<<フライト>>を使って発見可能な上空まで上がって来た感じだ。後はヤスツナの指定した方角を確認すればその姿は簡単に見つかった。
「いよいよ本命とのご対面か」




