霧形の獣⑧
「やーっと、陽のあたる場所に出たねぇ」
頭上から降りしきる陽の光を集めるかのように、リアルが天を仰いで手を広げる。
森の中も木漏れ日程度は差していたが、全身に浴びるほどの光は今日出立して以来か。
「んー……やっぱりお日様の光はいいよねぇ」
薄暗さもあり、視界も通りづらい森の中で警戒し続けていたのでやはり疲れていたのであろう、メイが頭の後ろで腕を組んで背を伸ばす。
この先も警戒がいらないわけでは勿論ないが、しばらくは視界が通る場所だ。メイの負担は少なくなるだろう。
「ひとまずお疲れ様だな」
「そのお疲れな女の子に悪戯した人がいたんですけどぉー?」
あ、まだむくれてた。
「悪かったって」
メイは一つため息。
「ま、冗談よ。でもあーゆー悪戯はほんとやめてね」
「あいよ」
正直本当に悪いことしたなと思ってるので、もうやる気はない。向こうだとそこまで苦手な印象なかったんだけどなぁ。そういう系のシナリオのVTRPGとか普通に参加してたし、まぁそれ以前に時と場所は選ぶべきですよね、反省。
「少しだけ進んで休憩かしら?」
「だな、さすがに森を出てすぐな所じゃ襲撃が来ても気づきにくいし。タツミ、もうちょいいけるな?」
「はい、大丈夫です」
シードの言葉に頷きつつタツミに声を掛ける。
声は元気だが明らかに疲れが見えるので今すぐ休ませてやりたいが、いつ襲撃があるかわからない以上ある程度森から離れておかないといけない。
実は出発二日目の襲撃から以降、使役体の襲撃は発生しない。ヤスツナの予測では3日目の夜か4日目には次の襲撃があるとのことだったので、その予測を大きく超えている。ようするに、いつ襲撃があってもおかしくないということだ。おかげで必要以上に警戒する必要があるのでそれも疲労につながっている部分がある。
「森から離れている間に襲撃が来てくれると助かるんだけどな」
「ですね。発見が楽なのもありますが、戦闘もしやすい」
俺の呟きに胸元のフラットが同意してくる。
こいつ森抜けたし、そろそろ下に降ろして自分で歩かせてもいいんじゃね? まぁ結構草が生えてるから埋もれそうだし、後少しだけだから別にいいんだが……
「正直そうして欲しいね。一回撃退すればここまでこまめに<<サーチエネミー>>しなくていいだろうし」
森の中を進行中は、視界が通らないためにかなり頻繁にメイは<<サーチエネミー>>を使用していた。使用コストは低いとはいえわずかなりとも消耗はするし、何より毎回結果をチェックするのも面倒だろう。
……これ、メイに任せっきりになってるけど確実にもう一人くらいは覚えた方がいいよな。後で全員のスキルツリー精査して一番取得まで近い人間が取得するか……ゲーム時代は新規エリアとかに先行突撃する連中以外はあまり”不要な戦闘を回避する”って考え方あまりしなかったので、覚えてる人間少ないんだよな。
通常はここまで視界通らないことはそうそうないし、そういった場所でこっちを数百m先からとらえて一直線に向かってくるエネミーなんてそうそういないからここまでの頻度で使うことはないんだが……とりあえず何にしろ今の所はメイに頑張ってもらうしかないか。
「しかしちょっと草の背丈が高いわね」
周囲を見回してシードが言う。
森は抜けたとはいえ、そこは地面がむき出しの荒野が広がっているわけではない。なんの草かはわからないが、長いやつだと大体俺の膝くらいまでは背丈のある草がそこかしこに広がっている。当然この程度の長さで視界を遮られることはないが、休憩するにはちょいと邪魔だ。
「あ、あそことかいいんじゃないか?」
先頭のメイが、立ち止まり一点を指出す。
その指さした先には一本の木が生えていた。そしてその辺りにはあまり草が生えておらず、また生えている草もそれほど高いものではない。成程、休憩するには悪くない。
「おう、あそこに……」
メイに答えようとして、彼女の指さした先から彼女に視線を戻しながら
──言葉が止まった。あるモノが視界に入ったからだ。白いモノが。
あー、うん、そうね。この辺り昔戦場になったって話だもんね。そういうのもあるよね。……いや、戦場になったのって十年前くらいなんだよな? 普通にきれいな形のまま残ってるもんか? でもあーゆーのって風化するのかなり時間かかるだろうしおかしくないのか。
……いやおかしいだろ! 風化がどうのじゃなくてカタカタ動き出してるぞ!
「メイ、左に飛べっ!」
「えっ、何!?」
俺の叫びに、メイが疑問の声を上げながら大きく体を横に飛ばす。理解する前に体が動いてくれたのはこれまでの旅の経験故か。なんにしろ即座に反応してくれてよかった。
なにせ次の瞬間、彼女の足元から白い物が立ち上がって来たからだ。
「うわあっ!?」
その姿を見たタツミが、悲鳴を上げて尻もちをつく。その彼の頭上に、フラットが俺の腕から降りて飛び乗った。恐らく周囲の光景が視界に入り、タツミのディフェンスに回ることにしてくれたんだろう。相変わらず判断が早くて助かる。
そう、起き上がって来た白い姿は一つではなかった。周囲から、いくつも同じような姿が立ち上がってくる。その姿は、俺達にとって見慣れたものだった。
「スケルトン……!」
様々なゲームでほぼ同じ姿で登場するモンスター、動く骸骨。シードが呟いた通り、スケルトンの名を持つモンスターが刀のような武器を持って立ち上がってくる。
「サムライスケルトンって感じですかね」
「でも<<サーチエネミー>>でさっきこの辺りにエネミー反応なかったのに!」
「ゾンビ系とスケルトン系は動き出すまで<<サーチエネミー>>に反応しないはずだぞ」
悲鳴に近い響きで疑問の声を上げるメイに、岩鉄がハンマーを構えながら答える。
そうだった、この系統の敵はその性質からか<<サーチエネミー>>には通常反応しない。そういった場所に向かっているのだから当然考慮に入れておくべきだったが、霧形の獣の事に気を取られ過ぎて失念していたか。とんだ凡ミスだ。
「これ、霧形の獣の影響なんですかね?」
「……霧形の獣にそのような力はないそうです!」
「んじゃ単純に元々ここに配置されていただけのエネミーって事ね」
自分の頭上のスライムの疑問に、タツミが腰を抜かしまま答えを返す。その答えを聞いたシードは背負っていた弓を構え
「コネクト:[浄化の杭]」
スキルの宣言により生まれた巨大な半透明の矢を弓につがえ、即座に最初に出現したスケルトンへと放った。
その矢は、起き上がり今にもこちらに向けて動きだそうとしていたスケルトンをい狙い違わず捉え──その上半身を見事に粉々に粉砕した。上半分を失った骸骨はまるでつないでいた紐が切れたかのようにバラバラになって地面へと崩れてゆく。
「新エリアの敵だからちょっと警戒したけど……問題なさそうね。コネクト:[浄化の杭]」
その光景を見届けたシードが、再び同じスキルを発動させた。
そのスキルで一撃なら俺のスキルでも一撃でいけそうだな、そう思って俺もスケルトンに手のひらを向けようとしたとき、後ろでリアルが声を上げた。
「まだ何か起き上がってくるよ!」
またスケルトンか? そう思って視線を振った先には、そうでもないモノが起き上がろうとしていた。
被っていたであろう土をぼろぼろとその身から落としながら立ち上がるその姿はやはりスケルトン同様に刀を構え、ボロボロの鎧を身に着けた──
「こっちはサムライゾンビって感じですかねぇ」
どこかのんびりとした、場の雰囲気にそぐわない落ち着いた声で、立ち上がったその姿を評したフラットの声に重なるようにして
「ぴぃっ」
メイが奇妙な声を上げた。
・コンボスキルについて
[浄化の杭]
<<エナジーアロー>>+<<ヒュージウェポン>>+<<ホーリーブレッシング>>
・スキルについて
<<ホーリーブレッシング>>
自らの装備にアンデット特攻となる聖属性を付与する。エナジー系のスキルで作り出したものにも付与可能。




