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警戒心を持ちましょう


俺の視線を受けた陽狩は特にひるむことも悪びれるような様子もみせず、ただ肩をすくめ


「あら残念。おいしそうな唇が食べれると思ったんだけど」

「食べれるってお前……」

「そいや、ギリギリまでかわそうとしなかったわね?」

「相手が男とか元男なら即座にぶん殴るけどお前は違うだろ」


陽狩は元々女性のプレイヤーだし、今の姿も美しい女性の姿だ。そんな相手に迫られても男ならそうそう嫌悪感を覚えることはないだろう。別に初めてのキスなんてわけでもないし(いやリセとしては初めてだが)。ただ唐突すぎだし、何を考えているのかわからなかったのでギリギリ止めることにしたが。


「何の目的だよ今のは」

「ヒカリはさ、男の人ってあんま好きじゃないんだよね」


はい?


「あ、別に嫌悪感とかあるってわけじゃないんだけどさ。()()()()()()()()見る気がしないだけで」

「何の話だ」


ジト目で見る俺に彼女はまぁまぁと手をぱたぱたと動かし、話を続ける。


「だからさ、リセの事もそういった目で見たことは無かったんだよ。リセの事は気に入っていたけど現実に近い姿をしているとはいえ別に触れるわけじゃないし、中身のオジさんと恋愛する気もなかったしさ」


気に入られていたのは、まぁ知ってる。カイゼルもそうなんだが、二人とも普段は前線で暴れまくっているくせにわりとちょくちょくこないだみたいに俺の所に顔を見せに来ていたからな。ただこいつらと組んでダンジョンやら狩りに行くと大抵ヌルゲーになってしまうんで、いつも雑談するだけにはなっていたが。とはいえその気に入り方は彼女のいう通りあくまで同じゲームのプレイヤーとしてだろう。


「でもさ、こないだ会ったときに思ったんだ。こちらの世界だと普通に触れるし、アリなんじゃないかって」

「中身はオジさんだぞ?」

「だけどもう元の()()()()()()()()()()でしょ? これからずっとリセは女の子のまま」


ん? そのことを知っているってことは


「おい、陽か……」

「ということはさ、もう完全にリセは女の子なわけじゃない」


彼女の言った言葉が意味することに気づき、問いかけようとしたが被せられてしまった。あと別に完全な女の子ではない。決してない。


「そう考えるとさ、元がオジサンだっていう事もアクセントに感じてきてね?」


おや?


「さっきの落ち込んでるリセの姿見てピーンと来ちゃったというか」


なにやら表情が恍惚としたものに……なんか雲行きがおかしくなってきてないか?


「一生女の子の体の中に閉じ込めらて心と体のギャップや変化していく意識に思い悩むオジサンが、自分よりも一回り以上年下の女の子に組み敷かれてめちゃくちゃにされていく姿やその心の中を想像するとなんだかゾクゾクしてきてね」

「あ、すいません私ちょっと用事思い出したのでそろそろ失礼しますね」

「しかしまわりこまれてしまった」


本当に回り込んで出口への道を塞いでくるんじゃねぇ!そしてにやにやいやらしい笑みを浮かべてにじり寄ってくるな!


「いい加減にしろっ!」

「きゃんっ!」


手をワキワキしながら寄ってきた陽狩に対してめい一杯手を伸ばしてデコピンを打ち込んでやると、彼女は随分可愛らしい悲鳴を上げた。


「おふざけもほどほどにしろよお前」

「えー、ヒカリは本気だよー?」


嘘つけ、そういいながら顔が緩んでるぞ。少なくともまわりこまれて~の辺りからは完全に冗談の態度だったじゃねぇか。それより前も……冗談だよな? そうだよな?


嘆息。


「で、本当の目的は?」

「んー。リセはもう少し警戒心持った方がいいんじゃないかなって思って少し脅してやろうかと」

「警戒心?」

「今が非力な少女になってるってのはさっき身に染みたでしょ? だったら鍛える云々の前にちゃんといろいろ警戒心を持たないと。例えばこんな簡単に人の部屋でお風呂入っちゃうとかさ」

「いやお前友人だし女だし警戒する理由がないだろ。大体口で言えよ」

「いやー、リセは口で言ってもあまり実感しなさそうだしなー。まぁ確かにヒカリじゃ警戒しづらいか」

「そうだよ、俺だって相手が男だったら……」


……いや、見知らぬ相手ならともかく知人だったら普通に借りてしまっていた気がするな。この辺りはヒカリのいう通りか、今後は少し気を付けよう。


「うん、でもやっぱりお前がそんな事するとは思わんし。ただ最初キスしようとしてきたのは何だったんだって話だが」

「まぁ実際妙な事したらカイゼルのおじいちゃんあたりに怒られそうだしねぇ。ただキスくらいは貰っても大丈夫かなって」

「どういう理屈だ……まぁ未遂だからいいや。とりあえず警告は頭に入れておくよ。これまでは仲間とほぼ一緒に行動していたからそういう警戒をしたことなかったしな」

「よろしい」


彼女は満足気に頷く。

コイツは少々感性が独特な所がありたまに突拍子のない行動をとる時があるが、今回もそんなところだろう。言いたいこと自体はわかるしな。この話はこれでおしまいだ。それより話の途中で出たキーワードを思い出し、俺は問いかける。


「お前、俺が元に戻れない事を知っていたよな。ということは」

「うん、行ってきたよユグドラシル。えっと、コール:<<ウィンドウ>>」


彼女はスキルを宣言すると、虚空から大鎌を取り出した。リーパー、グリムリーパー等の死神或いは刈り取るものの異名を持つ彼女のトレードマークともいえる武器だ。


「ほらほら、これ本当に便利だね」


これを含め部屋に荷物が少ないとおもったが拡張インベントリに殆ど放り込んでいたんだな。


「拡張インベントリだけ取りに行ったかと思ったが、その先にも進んだんだな」

「せっかくだしね。なのでいろいろ聞いたよー。帰る場所がもうないこととかも」

「……その話を知って、お前は、その」

「別になんとも思わないかな。元々ヒカリは戻る気もなかったし、だったらあってもなくても同じじゃない? カイゼルはちょっと悲しそうな顔してたけどね」


コイツ、俺に輪をかけてドライすぎるだろう……さすがに俺だってそこまでは割り切れなかったぞ。まぁ人の感じ方に文句を付ける気はないが。当人がショックを受けていないならそれはきっと悪くない事だろう。


そして彼女は再び満面の笑みを浮かべて言った。


「というわけで、これから先ずっと同じ世界に生きる友人として生きていくことになったから今後ともよろしくね」

「はいはい、こちらこそよろしくな」


それから俺達はしばらく、こないだ会った以降の事やアズマの事などを話し合った。例えば今回同じ船になったのは偶然ではなく、そろそろアズマに戻ろうと思っていたらメールで俺達がアズマに渡ることを知ったのでタイミングを合わせたとか。いや結果として助かった部分はあるけど、お前が乗って無ければ俺らは全員風呂に入れたんだけどな?


後アズマに関してはさすがに現地へ一度わたっている事もあっていろいろと有用な話が聞けた。ある程度メールマガジンやらなにやらから情報は仕入れてはいたものの、そこまで細かい話は聞いていなかった。特にエネミー関連の話は今後に対して非常に有用な話だったと言える。


そんな感じでいろいろと話が盛り上がってる中、ふと窓の外の景色が目に入った。


「……結構時間がたったな」


船室の窓から見える月の位置が変っている。とっくにライブは終わっているだろう。思ったより話し込んでしまったが、そろそろ戻らないとな。


「そろそろお暇するよ」

「ほーい」


座っていた椅子から腰を上げ、俺は着替えたものを入れた袋を手に取ると彼女へまたなとひらひら手を振った。


「あ、ところでさ」


部屋を出ようと扉に手を掛けたところで背後から声が掛かった。


「なんだ?」


振り返って返事をすると、陽狩は言葉を続けた。


「さっきいったの基本的に概ね本気だったから、その気になったらいつでもおいで?」


最後にそのカミングアウトはいらなかったなぁ! 後その気になる事は一生ない!


どうやら5万PVを達成したようです。本当にありがとうございます。

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