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クソ野郎討伐①


最初に動いたのはフラットだった。


「コネクト:<<イジェクションウォール>>」

「……ちっ!」


不可視のスライドする壁が出現し、舌打ちするグレンの姿を俺達から遠ざける。会話の最中で詰まった距離を後衛から引き離すことと共に、もう一つの目的のためだ。


「うぜぇ壁だな……ほらよ!」


グレンがかぎ爪のついた手甲を身に着けた右腕を、無造作に振るった。


その軌跡に沿って白刃が生み出され、それがこちらに飛来する。()()()()()()()の攻撃に岩鉄が即座に反応した。


「コネクト:<<アラウンドシールド>>」


前に踏み出した岩鉄の生み出した不可視の盾に、白い斬撃がぶち当たる。


「っ……」


三本生み出された白刃のうち一本はそれで消失。残りの2本はその姿を大きく縮めながらも盾を突破し一つは岩鉄に、一つは俺の左腕に当たった。皮膚が切り裂かれ血が滲み出るが大したダメージじゃない。当然<<ペインリリーフサウンド>>も掛かっているので痛みもないしな。


「すまん、少し抜けたか」

「問題ない、かすり傷だ」


振り返り言ってくる岩鉄に首を振る。回復する必要すらない傷だ。そしてこれでこの攻撃の威力も計れた。


この程度であれば、防御系のバフも載せられるだけ乗せている俺達にとっては脅威とはなりえない。俺当たりがノーガードで喰らったらさすがに痛手を受けそうだが、前衛組ならたとえ近距離で直撃を受けても致命傷になるようなレベルではない。せいぜい牽制か後衛に手を出すための能力だろう。であればやはり注意すべきは直接攻撃だ。逆に言えば前衛が抜かれなければ後衛はそれほど脅威を受けることはない。


「コネクト:<<アナライズ>>」


俺の左腕をちらとだけ見ながら、シードがスキルを宣言して弓を構える。直接遠ざかったグレンを狙うのではなく、その頭上を狙う構え。その姿に彼女の意図を感じ取った前衛のメンツが、それぞれグレンに向けて走り出す。


その動きはわかっているとばかりに背中を追うことはせず、シードが上空へ矢を放った。


「コネクト:[カースドレイン]!」


放たれた矢は上昇の頂を迎えた後、軌道を無視して急速に角度を変えると十数本に分裂してグレンの頭上へと降り注いだ。

銀の人狼はそれを幾本かは躱し、幾本かはその右腕の手甲の爪で薙ぎ払ったが、すべてを回避することが出来ずに何本かはその獣毛に覆われた身に突き立つ。


グレンはその身に突き刺さった矢を見て舌打ちする。


「貫通付き……しかもデバッファーかよ、うぜぇな」


奴は動きを止め、突き立った内の一本──シードは放った元となった矢を握りしめると乱雑に引っこ抜いて放り捨てた。一瞬だけその傷跡から血が噴き出すが、次の瞬間にはもう出血は止まっている。


このくらいの傷じゃぁかすり傷扱いにもならないか。だが……


射撃体勢から身を戻したシードが、そのグレンの姿を睨みながら言う。


「スロウは問題なし。毒、スタンは無効だったけど麻痺、衰弱は一瞬通ったね……すぐ回復されたけど」

「左手に着けているガントレットが一瞬淡く光りましたので、それの効果ですかね。キュア系の特殊効果でもあるのでしょう」


フラットの言葉に、シードはふむと頷き


「パッシブで無効化されないなら意味があるかな。特に麻痺は」

「パッシブじゃないなら使用することで多少は消耗するはずだしな。まぁスキルによる消耗はないからガス欠にはならないだろうが」

「ふむ……コネクト、<<ウィンドウ>>」


すでにグレンと接敵し近接戦闘を開始した前衛3人をちらりと見てから彼女はウィンドウを呼び出しなにやら操作をしていた。恐らくコンボの再設定だ。そして彼女は視線を上げ


「よし。私は嫌がらせ的にウザい攻撃続けるわ。とりあえず矢が切れるまでは麻痺乗せた矢を貫通付きでホーミングでぶち込んであげましょう」

「麻痺なら一瞬とはいえ動きも鈍るし有効だな。ただ物理攻撃だから味方誤射すんなよ?」


スキルによる攻撃は基本的にそう設定しない限りはパーティメンバーに当たることはないが、実態を持った武器による攻撃なら当然ぶち当たる。念のため注意した俺にシードはベーっと舌を出してから


「そんなヘマは致しませーん!」


そう言うといーっという顔をしてから真面目な表情に戻り、


「それじゃ後は手筈通りに行こうか」

「ああ」


俺の頷きを見て、彼女は弓を持って駆け出していった。前衛の3人の間を縫って上手く狙撃できるポジションを取るため、グレンに向けて真っすぐではなく左側へ向かってかけていく。


「それじゃ俺もだな」


俺はシードの逆、右側へ向けて駆け出しながら前衛の戦闘を見る。

──グレンはクソ野郎とは言え、腐っても実力のあるハイマスターだった。岩鉄よりも大きい巨躯を戦狼王の能力を存分に生かして機敏に動かし、三人の攻撃を捌いている。


メイやリアルの通常の攻撃は当たっても大した痛手にならないと判断しているのだろう、特に回避しようともせず当たるに任せている。

メイの攻撃は命中しても殆ど傷をつけれていない。恐らく戦狼王の素の防御力と鎧の保護の2重の壁を抜けていないんだろう。まぁ彼女の本来の攻撃はマイン系スキルによる爆発なので、今はいろいろ様子を見ている感じか。それに対してリアルの攻撃は武器自体も強化していることもありきちんと防御自体は抜いてグレンの体を傷つけてはいるが、その傷すらもほんの数秒で塞がってしまう。結果としてダメージが殆ど入っていない。


聞いてはいたもののシャレにならん回復力だな。戦狼王の回復力は確かに高いがここまでじゃない。最高峰の装備品によってリジェネが恐らく複数乗っているんだろう。防具破壊をできれば楽なんだけどな……


まぁ、とはいえどんなに防御と回復が高くてもスキルを乗せた攻撃ならある程度ダメージは与えていけるはずだ。──だが奴はスキル付きの攻撃や、岩鉄の攻撃はきっちりかわし、捌いていく。

この辺、アルテマトゥーレの難点だ。スキルの使用にはどうしも宣言が伴うので渾身の一撃が認識されてしまう。その結果前衛組はなかなか痛打を与えることが出来ないでいた。


今回の戦い、短期決戦で終わらせる必要があるが奴は明らかに長期戦狙いだ。勿論攻撃は繰り出してきてはいるしいくらかはこちらも攻撃を受けてフラットからの回復が飛んでいるが、基本的に奴は回避・防御を主体として動いた。奴の回復力を考えると、長期戦になるほどスキルの使用に伴う消耗でこちらが不利になっていく。


とはいえ、まだ我々の切り札を切るには早すぎる。アレスタさんから奴の力は聞いているが、話だけでは測り切れない事もあるのだ。切り札を切る前にもう少し奴のスペックを正確に把握しておきたい。こちらは完全な休養を取って準備万端で待ち構えていたのだ。それくらいの余裕はある。


その把握のためにも、俺は戦闘中の奴の背後に回るように駆け込んでいく。


「ぐおっ!?」


呻きと共に鈍い音を立てて岩鉄のハンマーが奴の顔を横から殴り飛ばした。吹きとばされないまでも上半身を揺らして体勢を崩したグレンの脇腹に、更にリアルが<<ボルトアタック>>を掛けた一撃を叩き込む。


「クソが!」


恐らく戦闘が始まってから初めてダメージで顔を歪めながら、懐のリアルを乱雑に蹴り飛ばす。体の軽いリアルはそれによって大きく吹き飛ばされるが、空中で見事に体勢を立て直し着地した。


「ちっ……本当にウゼえな!」


怒声を上げるグレン、それと共に右腕が振りぬかれ、現れた白刃がシードを襲う。しかし彼女は充分な距離をとっており、それを難なく回避した、


──見れば、奴の肩には矢が突き立っている。丁度岩鉄の攻撃に合わせて麻痺を叩き込んで動きを止めたのか。流石だな、見事に自分の仕事をこなしている。


そしてその行動は奴の注意を引き、俺の事がアイツの視界から外れた。


さて、そろそろ俺もお仕事の時間だな!


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