救援へ
武雷牙亜からきたメールはかなりの長文だった。要約すると以下のようになる。
・クーリヤ地方で出没した謎のエネミーを発見。
・外見は「戦狼王」と呼ばれる人狼型の高レベルエネミー。ただしコンタクトの結果、対象はPKによる強盗によりスキルの使用停止及び指名手配を受けているハイマスター、グレンが「転身」を行った姿であることを確認。
・その後戦闘に突入するも、戦狼王の超回復能力と装備品による高い防御力で決定打を与えられず、逆に戦狼王の身体能力と恐らくこれも強奪したと思われる武装による攻撃でパーティメンバーの一人が死亡。武雷牙亜も重傷を負ったため、魔術師が<<テレポート>>で緊急離脱した。
・その際探知能力に優れたメンバーの一人は残り、<<マーキング>>を使用。その後自力で離脱し、一定距離離れた場所から追跡を続けている。
とのことだった。
そしてどうやらグレンはこちらの地方へと向かっているとのことだった。
武雷牙亜はが求めてきたのは避難と、その追跡中のメンバーのサポートだった。
スキル<<マーキング>>は使用した対象をGPSでも使っているかのように追跡できるが追跡可能な有効範囲がある。追跡を行っているプレイヤーはその範囲外から出るわけにもいかず、またグレンが人里離れた区域を移動している為食料やアイテムの補充ができないことから、その辺の支援をお願いしたい、とメールには記されていた、武雷牙亜達自体は重傷を負ったこともあるが<<テレポート>>の転移先が大分遠かったためこちらに戻るのは厳しいとのことだ。
すでに正体や所在は協会の方に連絡済みであり、グレンを討伐できるであろう人材に要請済みではあるのだが、要請に応じたプレイヤーはいずれも遠方におりどんなに早くても後数日以上かかるとのことだった。
「マジかよ、勘弁してくれ」
少し落ち着けるかと思った矢先のこれだ。正直皆には今はあまり余計なことは考えさせたくないんだが……
メールを見ながら頭を抱えていると、電子音共にフレンド申請を示すアイコンが表示される。「アレスタ」。武雷牙亜のメールに合った名前だったのでそのまま承認する。
するとすぐにメールが届いた。その内容は挨拶と現在地、そして協力してもらえるという話を聞いたというだけだった。メールにあった目印となる場所との距離はすでにかなり近い。クーリヤ地方とこちらの間は山岳と森林が広がってるからそれほど早く進行はできないだろうが、それでもほんの2~3日でこちらに到達する可能性があるだろう。
「どうするかな……」
支援するのは構わない。別に討伐を求められているわけではないし、アレスタさんもそれなりの距離を離れて移動してるだろうから支援物資を提供しにいくことに危険性は低いだろう(おまけに俺達は拡張インベントリがあるから荷物があっても移動速度が落ちることはない)。念のため小まめにメールで所在を確認するようにすれば、遭遇することはまずないはずだ。なので普段だったらとっとと話して全員で支援に向かう所だが今はタイミングが悪すぎる、
頭を抱える。どちらにしろ無言で俺だけ行くとかは当然できないわけでとにかく相談するしかないんだが、どう話すか──
「リセ、どうしたの? 恐い顔してる」
「え……?」
気が付けば、目の前でリアルが心配そうに俺の顔をのぞき込んでいた。
よ、よりにもよって……
「多分メールか何かみてたと思うけど……何か問題でも起きたの?」
俺は彼女の言葉にどうごまかそうかと考え──
やめた。ここで変にごまかしたりしてそれを彼女に感づかれられたら……それこそ俺達が沈み込んだ理由となったことの件だと思われたら逆に不安や不信を与えるだけだ。この内容は仲間として家族としては共有すべき内容だと判断して、俺はメールの内容を正直にリアルに話す事にした。
メールの内容を話す俺の言葉をリアルは神妙な表情で聞く。
そして、一通り話を聞き終えた後、彼女は真摯な瞳で俺を見つめて、言った。
「みんなで一緒に行こう」
「……いいのか?」
「見失ったらそれこそ不味いんでしょ?」
頷く。グレンがこちらに向かっている以上、もしアレスタさんが見失った場合の方が俺達が遭遇してしまう可能性が高いし、そうでなくても他の犠牲者が増える可能性が高くなる。
「だったらみんなで行こ?」
「一応俺とメイあたりだけで行くってことも」
「ダメ。みんな一緒がいいよ」
……今のリアルにとっては、ギルドのみんなが側にいなくなる事の方が恐ろしいか。側にいてやるという覚悟はもちろん常に一緒に行動するという意味でいったわけではないが、昨日の今日だ。しばらくはそういった意味での行動をした方がよいのかもしれない。
「わかった。でも最終的にどうするかはみんなと相談してからな?」
「うん」
頷くリアルの頭を撫でてやると、彼女はくすぐったそうな笑顔を浮かべた。
その後(都合がいいことに)ギルドハウス周辺にいたメンバー全員を呼び集め事情の説明をしたところ満場一致で全員で行くという意見になった。まぁこれまでも全員一緒に行動してきたこともあるし、リアルと同様に目の届かないところへ仲間が行くことが恐いという気持ちがあるやつもいるだろう。
決まってからの俺達の動きは早かった。
まずはアレスタさんへメールにて救援を請け負う事の承諾と、求めるものの確認を送った。
その回答はすぐ届いた。内容は食料やいくつかの日常品やその他のアイテムでほぼうちのギルド、およびメンバーの所有品で賄えるものだったのでこの準備はすぐ終わった。
それから重要品の整理だ。グレンは各プレイヤーの住処を襲ってアイテムを強奪している。俺達はグレンが襲ったような名の知れたアイテムは所持していないからそれを狙ってやってくる可能性はないが、もし奴がこのギルドハウスを見つけた場合に有用そうなアイテムは持っていく可能性がある。幸いこっちには拡張インベントリがあるので、持っていけるものは全て詰め込むことにした。クソ野郎にくれてやるものなど一つもないの精神だ(まぁ実際はわりとどうでもいいものや重要性が低くてかさばるものは残すことになるが)
こちらの整理は割と時間が掛かった……が、まぁ予定通りだ。アレスタさんとの合流予定は明日。そのため出発は明日の早朝とした。お互いの相対的な移動速度を考えるとそれで明日の夕方前には合流できるはずだ。グレンの動き次第なところで確実とはいえないが、アレスタさんはグレンの進行予測方向を先行する形で追跡をしているとのことで、大きく奴が行動を変えない限りは大丈夫だろう。……その進行方向が真っすぐ俺達のギルドハウスの方を向いているようなのが気になるけどな、そういう意味でもこのギルドハウスを空けて全員で向かうのは正解なのかもしれない。
そして時は過ぎて翌朝。夜もまだ明けていない黎明と呼ぶべき時間帯に、俺達はギルドハウスの前にいた。自分たちの所持品と依頼の品を目一杯拡張インベントリに詰め込み、だが本日強行軍をすることを考えて身軽な姿だ。他所の人間がみたらちょっと街に買い物に出るのかと思われるかもしれない。
暗い中、俺の生み出した魔法の光に照らされている皆の顔を見渡し俺は声を掛ける。
「よしみんな、忘れ物はないな?」
「先生みたいね、リセ」
口元に手を当て、シードがクスクスと笑う。
「はーい、大丈夫ですせんせー」
メイが手を上げる。いつものノリだ。普段なら突っ込みを入れるところだが、今はこの雰囲気が心地よいのでそのままにしておく。
「それじゃ、出発だ」




