はじめてのりあるだんじょん⑦
「ふぅ。これで終わり、と」
殺戮人形たちの最後の1グループが崩れ落ちるのを見届け、シードが大きく息を吐きながら掲げていた弓を下ろす。
「ふぇ~!」
「終わった……」
同時に俺とリアルは崩れるように腰を下ろした。
フラットの機転のおかげで無駄な消耗はしないで済んだものの、それでもシードの一撃の道筋を作るため俺とリアルは数発の広域攻撃を撃ちこむ必要があった。そのため、体に結構な疲労感がある。この先もう進む力が残っていないというほどではないが……ちなみにコストの重いスキルを数発使っているフラットもそれなりに消耗しているだろうが、彼はそんな様子を見せずリアルと、ディフェンスに回って数度攻撃を受けていたメイと岩鉄の回復に回っていた。最もスライムが疲労しているかなんて外見から判断しようもないが。
「いやぁ、なんとかなったね?」
フラットの<<ヒーリング>>を貰い、受けた打撃のダメージを回復したメイが俺の前に立ってそう言ってくる。
「フラットが思いついてくれなかったら一時撤退も考えたところだったからな」
「いろいろ上手く組み合わさった感じよね。シード姉さんが<<アナライズ>>を取得していなければダメだったわけだし」
「早速役にたって良かったわ」
弓を背負いなおしたシードもこちらにやってきた。
「リセ、リアル、お疲れ。リセ、大丈夫? おんぶする?」
「いらんて」
消耗はしたが立てないほどじゃない。大体何で俺だけに……と思ったらリアルはすでに立ち上がっていた。これが若さ……いや、今は肉体年齢同じくらいだったな。
とりあえず差し出されたシードの手を借りて立ち上がる。うん、さすがに足に来てるほどじゃない。
消耗的にはこれまでの分と含めても半分くらい、というところか。
「とはいえ、それなりに消耗したからな。この先ボス戦までは少し抑え気味で行きたいところだ」
「俺とメイがここではそんなに消耗していない。相手次第なところはあるが、この先はできるだけ俺が主体、サブでメイという形で動こう」
岩鉄の言葉にメイがりょーかいと頷く。
「私もサブかな。リアルとリセほどじゃないけど<<ホーミング>>のコストがそれなりに重いからね」
「フラットには、悪いが干からびるまで働いてもらうしかないがな」
「ブラックなギルドですねぇ……」
フラットの支援・回復能力は他のメンバーで変わりが効かないので仕方ない。
「とりあえずこの先も俺が運んでやるからなんとか頑張ってくれ」
「おや役得。まぁ仕方ないですね……もう、貴方たちったら私がいないとダメなんだからっ」
「何のキャラだよ」
「個人的にはリセさんに言って欲しいセリフです」
言わねえよ。
「それにしてもさぁ、ここってきつくない? うちのシードとフラットみたいなスキルがなかったら大変だったよね?」
「ああいや、やりようはいくらでもあると思うぞ?」
なんでか柔軟しながらそうこぼしたリアルにそう答えると、彼女は首を傾げ
「そうなの?」
「ああ、こいつらの存在を知ってさえいれば事前準備でなんとでもなる。例えばさっき思いついたんだが、コンビニにあるカラーボールあるだろ?」
「強盗とかに投げる奴?」
「そうそう、それみたいなアイテムを探すか作ってもらうかすればいい」
「ああ成程。それをぶつけることでそれぞれの個体を判別できるようにしちゃえばいいんだ」
「そういうこと。思いついたのはそれくらいだが考えれば他にもいろいろ手法はあると思うぜ」
ゲームとしても恐らくいろいろな攻略法は想定されているだろうし、システムの制約から外れていることになる現在は猶更さまざまな手段を講じることが出来る。今回みたいに初見でのクリアはなかなかに難しいかもしれないが、一度出直せば攻略できないということはないだろう。
「それに多分これ人数増やせばごり押しでいけるよね?」
「私たちレベルくらいだったら今の倍いれば力推しだけで問題ないでしょうね」
メイの言葉にシードが同意する。そう、それも手段の一つだ。竜翔さんとの約束があるので俺達はその手段はとれないが、自力で発見してやってきたのであればそれが一番簡単なここの突破方法だろう。
アルテマトゥーレでは単純な強さで押してくるタイプではないボスが配置されていた場合、大抵は複数の攻略法が用意されている。ここの殺戮人形たちもそれに準じていたというわけだ。
と、そこで俺は一つの事が気になった。
この今俺達が潜っている地下迷宮、竜翔さんによれば設定上存在していただけでまだベースとなるデータが何もなかったといえる場所だ。なのにこの中はこれまでのアルテマトゥーレに準じたギミックやエネミー、そしてそれだけではなく恐らくはデータすら存在していなかったエネミーやギミックまで存在している。
この世界がゲームとしてのアルテマトゥーレをベースとして存在しているのは、様々な地域やスキルの存在、アイテム等から考えても間違いない。そして現実的な世界として存在するために地竜の揺り籠の生態系のようにいろいろ補填が行われているのもわかっている。
だが、ここはなんだ? 地竜の揺り籠の補填とはわけが違う。ゲーム上は何もなかった場所だぞ? だとしたら一体何をベースにこの場所は構築されているんだ……?
「リセ?」
名を呼ばれ、はっとする。見ればシードが心配そうな顔で俺をのぞき込んでいた。
「大丈夫? 疲れてるならおんぶする?」
多分考え込んでいたせいで暗い表情にでもなっていたのが、疲労によるものと思われたんだろう、そう聞かれる。ところでなんでお前そんなに俺の事おんぶしたがるの? もしかして年の離れた妹か何かと思い込んでない? 実際はお前より(多分)ずっと年上やぞ?
「大丈夫だ、問題ない」
とりあえずシードに対して首を振って否定をし、思考をリセットすることにする。
先程考えていた疑問は少なくともこの先の攻略に役立つようなことではないし、そもそも今考えたところで答えがでることでもないので脳内リソースの無駄遣いだ。それこそこの先ユグドラシルに辿りつけたなら聞いてみるなりすればいい。答えがもらえるかはわからないが、逆にそこでわからなければどこまでいったって答えの出ない問題な気もするしな。
俺は改めて周囲を見回す。そこには頭部を打ち砕かれた殺戮人形の親機と、綺麗な姿のままの子機、そして俺とリアルの攻撃で大きく砕かれた子機(再生は親機を撃破した時点で停止した)が転がっている。それを改めて確認し、俺は他のメンバーに対して告げた。
「とりあえず、そろそろ先に進もう。こんな短時間ではさすがにないだろうが、また再生してくるといやだしな」
「あ、やっぱりリセねぇもそう思う?」
恐らく俺と同じことを考えたであろうメイの言葉に頷いて、言葉を続ける。
「このダンジョン、竜翔さんに話を聞く限り攻略者は俺達が最初ではないはずなのに、エネミーは存在しているし、何より倒されたエネミーの残骸がない。ということは一定期間で再生するだろ、こいつら」
ゲームと違い、この世界では倒したエネミーは消滅しないのはすでに何度も目にしている。にも拘わらず、俺達の進んできたルートにそういったエネミーの残骸は存在しなかった。俺達が倒した敵はこの殺戮人形達のように残骸になっているのに、だ。
勿論竜翔さんに話を聞いたプレイヤー達がまだここに達していない可能性もないわけじゃないが、それよりは、仕組みはわからないが一定間隔でエネミーが再生している可能性の方が高い気がする、このダンジョンの構成エネミーの大部分がゴーレムや殺戮人形などの非生物エネミーで構成されているのもその為なのでは、などと思えてしまうのだ。
「今は大丈夫だとしても、帰路の事を考えれば先を急いだほうが良さそうね」
「だな」
全員が、地面に放り投げていた荷物を拾いなおす。
恐らくゲーム要素が強いなら俺達がここを抜けるまでは大丈夫な気もするが何も確証もない。いざ最後まで攻略して戻ってきたらまたこいつらと戦闘とか冗談ではないのはみんな同じ気持ちだろう。
俺達は疲労で少々重くなった体に喝を入れて、更にダンジョンへの先へと歩を進めることを再開した。




