旅路
「そろそろ休日が欲しいよね」
そんなことをシードが言い出したのは、ひたすら街道を走る揺れる馬車の上でのことだった。
ストレイア大森林最寄りの街を出発してはや5日。俺達は次の目的地である黒の森目指して、ひたすらレンタルした馬車での移動を続けていた。
「なんだかんだでギルドハウスでてからひたすら移動で、丸一日休日ってのはとっていませんからねぇ」
馬車の揺れに合わせてその若草色の体をプルプルと震わせているフラットも、シードの意見に同意する。
二人の言葉は確かにその通りで、ギルドハウスを出てから今日で通算13日目、その間ほぼ我々は移動を続けている。竜翔さんの所へ向かった時以外はちゃんと街には寄ってはいるが、基本的に夕方前位に到着し翌日朝には出発なのでのんびりしているとは言い難い。
基本的には馬車に乗っての移動が大部分なので筋肉痛やらそういうのにはならないが、じゃあ例えばの話何日も連続で車に乗って移動していたら疲れがたまらないのか、という話である。しかも乗っているのは自動車よりも乗り心地の悪い馬車だ。
「いやー、こちらの世界に来てから文明の素晴らしさというのをいろいろと実感するな」
例えばこの移動が最たる例だ。今回の距離、他の場所の広がり方から推測すると大体東京から名古屋まで程度の距離になるんだが、現実でいえば車でも電車でも飛行機でもどのルートを選んだって一日で到着可能な距離だ。ところがそんな便利な移動手段のないこの世界では7~8日の行程となる。
……これ<<テレポート>>で輸送事業とかやったら儲かりそうだよなぁ。最低限二つの町の間をつなぐだけでも2人は使い手が必要だけど。でも戦闘したくない高レベルプレイヤーもいるだろうから、この状態が長く続くようだったらいずれ誰か始めそうな気がする。
「こう連日乗り物での移動だと腰に来るよね」
メイの言葉に頷く。あと自動車と違って車輪や道路の整備状況の違いからそれなりに振動が来るから、毎日降りた後も少し世界が揺れているのを感じたりするんだよな。
「乗り物以外でもさぁ、ゲームじゃないファンタジーのめんどくささも際立つわよね」
「だよねぇ……」
シードの言葉に、リアルが実感の籠った声を出す。
これも本当にそうだ。例えば着替えの問題や持ち物、それに散々実感している風呂の件がこれにあたる。
ゲームの中ではどんなに動き回ったって汚れもしないし汗もかかない。だから何日だって同じ服を着ていても問題ないし、風呂だって存在していたが入らなければいけないものではなく単なるフレーバーだ。ところがこちらに転移してからは普通に汚れるので服の洗濯も必須だし、風呂に入らなければ匂いもいろいろヤバくなっていく。なので今は皆正規の装備品を外して洗うのが楽な服などに着替えている。
当然この世界にコインランドリーなんてものはないが、それなりの規模の街ならそれに近い商売をやってくれている店があるので、随時そこで依頼して着替えをなんとか確保している感じだ。
そして旅に出るのにあたり、ゲームの設定と違うことで特に困ったのがインベントリの問題だ、アルテマトゥーレでは装備品に関しては重量の概念があるんだが、インベントリに突っ込んだアイテムには重量の概念がない(管理が面倒くさすぎるし……)。だがこちら側ではまぁ当然と言えば当然で荷物に重量があるので持てるだけ持って、というわけにもいかないわけだ。
「移動の時邪魔になるからと最低限の着替えにしたのはミスでしたかね。いや僕は関係ないんですが」
そりゃお前常に全裸だしな……
「もうちょっと持ってきて良かったわよね。街の移動は概ね馬車だし、こないだみたいに探索に出る時は街の預り所で預けていけばいいわけで」
シードさん、ごもっともな意見です。
「次の街で2、3日休んで、着替えとかアイテムの補充とかいろいろ下準備しない?」
そう提案したのはリアルだった。
正直これにはちょっと意表をつかれた。一番早く帰りたがっているのはリアルだと思っているからだ。まぁこの先まだしばらく時間はかかりそうだし、帰りたい気持ちより休みたい気持ちが強くなったのかな。
「俺としても次の街は数日滞在したい。こないだの戦闘でそれなりのダメージを受けているので、ダンジョン突入する前にメンテナンスを行っておきたい」
岩鉄からもそういう意見が出たことと、次の街がこの先通る街の中で一番大きい街ということもあり、俺達は次の街で数日滞在することに決めた。これから向かうダンジョンはある意味本番だ、その前に英気を養うという意味でも悪くはないだろう。滞在期限はそれぞれの装備メンテナンスが終わるまでということになった。
「やったーお休みだ~! リセ、一緒にお洋服買いにいこーね!」
「いやなんで俺?」
「だってリセ戦闘用の服以外、可愛くないのばっかりなんだもん」
「着やすさ優先してるからな……」
「ダメだよ折角可愛いんだから可愛い服着ないと!」
中身は可愛くないからいいんだよ。いやまぁリセに可愛い服着せるの自体は悪くないんだがな。単純にアバターと考えれば、ゲームではやってることだしなぁ。
「あー、じゃああたし達で見繕って上げよっかリアルちゃん」
うわ面倒くさいやつが乗ってきやがった。メイお前顔が笑ってるんだよ!
「それにさぁ」
そのままメイが顔を寄せてくる。そして男性陣には聞こえない程度の小声で囁いてきた。
「リセねぇ、下着とかも最小限しか持ってきてないでしょ? ダンジョン探索長引くと足りなくならない? 不慮の事故とかあると猶更足りなくなるし」
う、ぐ。
確かにその通りだ。こないだの探索でも正直最後足りなくなった、まぁそれは不慮の事故のせいなんだが……移動や戦闘で汗をかくし、服とかは我慢するにしても下着は連日同じものを身に着け続けるのは正直御免こうむりたいという気持ちがある。
あとコイツ不慮の事故って完全にこないだの感づいてたかやっぱり……いやでも忘れたい過去のようなことはなくても、ダンジョンだと濡れたり汚れたりしたら着替える必要も出てくるか。
……仕方ない。装備品としてならともかく普段着としてなら俺が選ぶより選んでもらった方がセンスがあるものを選んでくれるだろうし、ギルドメンバーのストレス解消の一端になるかー。
俺はわざとらしく大きくため息を吐いて答える。
「わかったよ、付き合う。ただし動きやすさを優先したものにしてくれよ? 可愛さ優先とかしたら拒否るからな?」
俺の答えを受けて、リアルがパァっと表情を輝かせる。メイは……おいもうちょっとリアルみたいに純粋に喜ぶような笑顔をしろ。計画通りみたいな笑い方してるんじゃねぇ。
「やったやった! シードも一緒にいこ?」
「あー、ごめん。付き合いたいんだけど、私はちょっと協会に行ってスキルの整理を行いたいのよ」
ああ、デバフ確認のスキルとか獲得にいくのかね? 前言ってたし。俺は……確か新規取得できるスキルはないか。そもそも旅に出てからそれほどスキル使ってないしな。
「お前らはどうする?」
俺は残りの二人にも声をかける。
「俺は装備品をメンテナンスに出した後はアイテムや着替えの補充だな」
「僕は一人でいるとエネミーと勘違いされるので、岩鉄さんと一緒に行きますよ。さすがに女性陣の中に混じって服の買い物は照れくさいですので」
ネームプレートないから見た目上ただのエネミーだしな……あと最後こっちを見るんじゃねぇ。
「んじゃま、とりあえず明日は一日完全休息として全員の予定も決定だな。装備品のメンテナンスが長引きそうな場合はまた明日の夜にでも相談しよう」
『はーい!』
たまに思うんだが、こういったときの返事幼稚園児みたいだなうちの連中。




