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はじめてのたたかい


「エネミー接近。1時の方向と10時の方向。こっちに真っすぐ向かってるから多分気付かれてる」


それは、森に突入してから30分くらいたった時の事だった。俺たちは達人でも何もないから敵の気配なんざ察知できない。なので、スキル<<サーチエネミー>>という周囲のエネミーを表示する索敵スキルで周囲の監視を逐次チェックしてくれていたメイから、声が上がる。


「数……1時が5,11時が4。1時は多分後30秒もしない内に接敵する!」


全員、特に恐らくは初戦闘になる岩鉄とリアルに緊張が走る。フラットはよくわからん。


「フラット!」


そのフラットに俺は声をかける。


「お任せを。コネクト:[始まりの祝福]」


フラットの宣言と共に、俺達全員の体がうっすらと光に包まれる。ゲーム内で見慣れたエフェクト、一定量までダメージを防いでくれる<<ディフェンスフィールド>>の効果だ。それとこのコンボスキルには確か自動回復と状態異常耐性も乗っていたか。とりあえずここくらいであれば、これで大分防御面に関しては安心できるレベルだろう。後は……ここで言葉を飾っても仕方ないな、ストレートに行こう。


「リアル、岩鉄! 無理だと思ったら即下がれよ!」


やや硬い表情で頷く二人。そこにもう一度メイの声が響く。


「10時、マッドボア、1時ゴブリンチーフ! ゴブリンはもう弓を構えている!撃ってくるよ!」


くそっ、しょっぱなから人型かよ!


メイの言葉に岩鉄が前に飛び出す。それと同時に、人より体躯が小さく醜い姿をしたファンタジーの王道エネミーである妖精たちが姿を現し、その手に持った弓から矢が放たれた。が、


「コネクト:<<アラウンドシールド>>」


その矢は全て岩鉄の前に現れた巨大な不可視(実際にはうっすらと見えるが)の盾に弾かれる。

そして、その結果を確信していたかのように避けるそぶりさえ見せずに弓を引いていたシードが、その矢を放つ。

ゴブリンチーフたちの遥か頭上に向けて。


「お返しするよ……コネクト:[アローレイン]!」


上空に向けて放たれた矢が突如軌道を変える。そしてその矢が十数本に()()して一機にゴブリンチーフに降り注ぐ。


「ギギッ!」


狙い違わず、5匹のゴブリンにその矢は命中した。分裂した矢は元の一本を残し、ゴブリンたちに傷と出血だけを残す。ただし深手には程遠い。ゴブリンたちは弓を投げ捨て、斧を手に持ちかえる。


ただその動きが明らかに遅くなっていた。シードの攻撃によって「スロウ」の状態異常が入ったのだ。それを確認し、前衛二人がゴブリンたちへと突っ込んでいく。


あちらは大丈夫そうだな……


フラットがバフを入れ、岩鉄が初撃を防ぎ、シードがデバフを与える。ウチのいつもの流れがきちんと行えているのを見て、こちらは任せていいと判断する。となれば俺は聞こえてきた地響きの方の対処をするべきだ。


「そっちは任せるぞ!」


言葉ともに送った目くばせにシードが頷いたのを確認すると、俺は地響きの方へ体を向ける。

勢いよくこちらに向かってくる巨大な猪──マッドボアは一直線のこちらへ血走った目と共に突撃してくる。

だが、ここまでならゲームと変わらぬ光景だ。恐れることは何もない。


「メイ、念のため漏れた時のフォローを頼む」

「おっけー」


あんなでかい猪、現実で出会ったら即死を覚悟だなと思いつつ距離を測る。まだ距離が通い。


70……60……入った!


「コネクト:<<バインドウェブ>>」


俺の言葉に呼応して、両手の指先から蜘蛛のように白い糸が吐き出される。それらは交わり絡まり、地面に落ちると白い粘性の網を構築して周囲へと広がっていき、こちらへ突進してくる猪どもに絡みつく。


「!?」


まるで蜘蛛の巣にとらわれた昆虫のように、猪たちの動きが止まる。自らの勢いでつんのめり、さらに深く網にとらわれていく。暴れることによって引きちぎられてはいくが……足止めできればそれで充分だ。


「コネクト:[アイススパイク・散]」


次の瞬間。

地面から生えだした大量の氷の棘に、猪たちは悲痛な叫びとともに刺し貫かれた。


生命力が強いモンスターなので、即死とまではいかない。とはいえ全身を貫かれ身動きできぬ状態だ。ビクンビクンと痙攣してはいるが、いずれその命の火も消えるだろう。


しかしやはり今のこの世界はゲームであってゲームではないと実感する。本来のアルテマトゥーレであればやはりこれだけのダメージを与えればエネミーは消失するが、今のこいつらに消える気配はない。全身から体液を流し命の最後の残り火を見せるその姿を眺めつつ、俺はあまり感情が動いていないことを感じていた。俺自身は初めての戦闘ではないとはいえこれだけ冷めていられるあたり、わりと俺は冷酷な性格だったということだろうか。


「お見事。さすがに強いね」


背後から、拍手と共に声がかかる。


「一応サービス開始時からのプレイヤーだからな、俺は。さすがにここのレベルじゃ苦戦しない……って、不味いな、割とえぐい見た目の倒し方しちまったが大丈夫か、メイ?」


振り向いた先にいたメイの顔は、特に青ざめた様子はない。


「私は大丈夫。それと向こうも終わったみたいだよ」


メイが後方を指さした先、すでにそちらにいたはずの醜い姿の妖精たちが動く姿はなかった。特に誰かが傷つくこともなく戦闘は恙なく終了したらしく、俺はほっと息を吐く。全員問題なく戦えたようだ。戦闘中に恐怖や嫌悪で動きが止まる可能性の懸念は、どうやら杞憂で済んだらしい。

シードは弓を収め、岩鉄は大きな吐息と共に全身の力を抜いていた。フラットはその岩鉄の方の上へと器用に飛び乗り、リアルは──


「リアル?」


彼女はただ無言で何かを見下ろしていた。その視線の先には──


「あ、不味い!」


リアルに向けられた意識が、突然のメイの言葉に断ち切られる。どうしたと問いかける前に、手元を見ているメイから言葉が発せられた。


「3時の方向よりエネミー高速接近! 目標は……リアルちゃん危ない!」


最悪の所に来やがった! 今のリアルはおそらく意識が別の所に行っている、反応が間に合わない!


そう思った瞬間。動きを止めていた少女が宙を舞った。


「コネクト:[サマーソルト]」


ゴガッ!


次の瞬間。

高速で飛来してきていた大型甲虫は、少女の美しい孤を描くサマーソルトキックによって叩き砕かれていた。


「すげぇ……」


思わず感嘆の声が漏れてしまうほどの見事な一撃。そしてリアルは地面に降り立ち──

そのままの勢いで仰向けに倒れた。


「リアル!?」


声をかけ慌てて彼女に駆けよる皆に対して、リアルは倒れたまま左手を上げて答える。

「大丈夫だよ」


倒れた姿を確認すれば、確かに怪我らしきものはない。自分を心配そうに見下ろす皆の姿にリアルは力のない笑顔を返し


「最後の最後で足から力が抜けちゃた。戦ってる最中は恐怖とかいやな気持とかなかったんだけど。終わったと思った瞬間なんかいろいろどっと来て」


でも、と彼女は仰向けになったまま、上げた左手を握りしめる。


「戦えたよ、リセ。あたしはみんなと戦える。怖いし、嫌な気持ちは当然あるけど……あたしはみんなと一緒に戦える」

「そうだな……やはりリアルは頼れる内のアタッカーだったよ」


俺はリアルの横に腰を下ろすと、横になったままのリアルの頭を抱え上げ、自分のふとももに乗せた。


「え、何々!?」

「現実の俺の体ならともかく、リセの体ならまぁそこそこ柔らかいだろ。少し枕にして休んどけ……この後もまだまだ戦ってもらわなきゃいけないんだからな」


そういって頭をなでてやると「はぁい」と頷いて嬉しそうに笑う。


「あー、いいないいな、あたしもリセねえに膝枕してほしーい」

「メイは敵を見落としたので減点1です」

「あ、ひどいー! 暴君だー!」

「冗談だよ。ほかのみんなも少し休もう……初めての戦闘だったからな。それで少し休んだら、あとは一気に進むぞ」


了解と全員が頷くと各々が腰を下ろす。なんだかんだで戦闘自体というより緊張で少し疲れを感じたんだろう。ともあれ、俺の中で懸念していた最大の山場はこれで超えられた。無論、内心的には全員葛藤はあろうがそれでも俺たちは道を踏み出した。ならばあとは突き進むしかないだけだ。


……あ、リアルさん流石に眠るのはちょっと勘弁してください。俺の足が死にます。




クソ数が多くなってしまった。

読み飛ばしていただいても大丈夫です。


・各コンボスキルについて

[始まりの祝福]

<<リジェネ―ション>>+<<セレクトⅠ>>+<<ディフェンスフィールド>>+<<アブノ―マリティレジスタンス>>


[アローレイン]

<<スプリット>>+<<スロウ>>+<<エンチャントエナジー>>+<<フォールアロー>>


[アイススパイク・散]

<<アイススパイク>>+<<ディフュージョン>>+<<ターゲッティング>>


[サマーソルト]

<<エアロホップ>>+<<レッグハンマー>>


・各スキルの効果について

<<サーチエネミー>>    

周囲にいる敵性生物を発見するスキル。使用者の手元にレーダーのような感じで表示される。


<<リジェネ―ション>>    

一定期間の間、受けたダメージを自動回復するスキル。


<<セレクトⅠ>>       

組み合わせたスキルの対象をパーティメンバーに拡大するスキル。


<<ディフェンスフィールド>> 

対象の周囲に一定量までダメージを軽減する力場を作成するスキル。


<<アブノ―マリティレジスタンス>> 

様々な状態異常への耐性を上げるスキル。耐性が上がるだけで無効化ではない。


<<アラウンドシールド>>  

自分を中心に、不可視の巨大なエネルギーによる盾を出現させるスキル。一定以上の攻撃力だと普通にぶち抜かれる。


<<スプリット>>      

投擲武器を一時的に分裂させるスキル。


<<スロウ>>        

対象の動きを鈍くするスキル。


<<エンチャントエナジー>> 

無属性の力を武器に付与することで攻撃力を上げるスキル。


<<フォールアロー>>    

打ち上げた矢を勢いよく落下させることで攻撃力を上げるスキル。


<<バインドウェブ>>   

粘性の強い白い糸を蜘蛛の巣のように張り巡らせ、相手の動きを阻害するスキル。


<<アイススパイク>>    

地面から無数の氷の棘が飛び出し、敵を攻撃するスキル。


<<ディフュージョン>>   

組み合わせたスキルの効果範囲を拡大するスキル。コンボ専用。


<<ターゲッティング>>   

範囲内に存在する敵性生物を自動で組み合わせたスキルのターゲットとするスキル。コンボ専用。

尚場所に対して設定されるため、動きが早い相手だと普通に外れる。


<<エアロホップ>>

空気を蹴ってジャンプするスキル。二段ジャンプ。


<<レッグハンマー>>

自分の足にハンマーの如き攻撃力を付与するスキル。

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