Episode:55
「ルーフェイア、こっちからシルファ先輩たちがくるから、行って合流してくれるかしら? 私たちは殿下と一緒に、もと来た道順で外へ出るわ。
そうそう、これ、あなたの太刀よ」
つまり、あたしに単独で陽動をやれと言うんだろう。
もっとも屋内にいた敵うち、かなりが出払ってるみたいだから、別にムチャを言っているわけじゃない。
「了解しました。できるだけ派手にいくようにします」
使いなれた太刀をうけとりながら、先輩に答える。
「頼むわ。でもムリだけは……しないようにね?」
「はい。先輩たちもお気をつけて」
そう言って二手に分かれた。
今度は……足枷がないから思いっきりいけるだろう。
向こうの角から飛び出してきた相手に、あたしは太刀を構えた。
さほど訓練もしていないかのような不安定な刃をよけて、あっさりと切り伏せる。
「ルーフェイアっ!」
死角になっている方向から鋭く呼ばれた。シルファ先輩の声だ。
もうひとり残っていた敵を薙ぎ払ってから、そっちへ視線を移す。
「先輩!」
視界にシルファ先輩、ナティエス、ミルの姿が入る。さっきエレニア先輩とシーモアにも会ったから、これで全員だ。
「無事か?」
「はい。先輩たちのほうこそ、なにもありませんでしたか? たぶん――テロがあったと、思うんですけど」
目の前にいるのだ。大丈夫なのはわかってたけれど、やっぱり心配で尋ねてみる。
「ああ。かなりひどかったが、私たちは全員、無事だ」
「よかった……」
ほっとする。あの爆発はかなり大きかったから、巻き込まれたら命だって危なかった。
「ともかく行こう。陽動だから、派手にいくぞ?」
「あ、はい」
返事をしてふっと思いつき、呪文の詠唱を開始した。
「空の彼方に揺らめく力、絶望の底に燃える焔、よみがえりて形を成せ――フラーブルイ・クワッサリーっ!」
「なにっ!」
炎系でも最上級なのが悪かったのか、シルファ先輩が慌てる。
でも魔法のほうは思惑通りで、幾つか先の部屋が瞬時にして消えうせた。
「ルーフェイア、これじゃ火災に……」
その辺はぬかりはない。
「幾万の過去から連なる深遠より、嘆きの涙汲み上げて凍れる時となせ――フロスティ・エンブランスっ!」
上級の冷気呪文を放って、熱くたぎっていたそこを瞬時に凍りつかせる。これなら火災の心配は無用だ。
「はっで〜♪」
ミルが歓声をあげる。でも彼女に、言われたくないかもしれない。
「こんどはどっちだ!」
この騒ぎに、残っていた敵が駆けつけてくる。
そこへあたしは、無言で突っ込んだ。
太刀が閃く。
一閃、二閃。
あがる絶叫。
――呆れるほどに弱い。
「さっすが。じゃぁあたしもかな?」
声と同時に気配を感じて、あたしはすっとよけた。苦無がわきを通りすぎて、向こうの敵に突き刺さる。
即効性の毒が塗ってあったんだろう、その敵はたちまち倒れた。
その間に、もうひとり切り伏せる。