Episode:50
いまあたしが来てるの、可愛い感じのブラウスにエプロンドレス。だってこれならどう見ても、戦争しに来たようには見えないもの。
ついでにミルのバスケット――なんでこんなもの持ってたんだろう?――まで、借りてきちゃってるし。
そしてあたし、そこら辺の土をちょこっと手にとって、顔や服になすりつけてみて。
――これで「迷子の少女」の出来あがり♪
あとはあたしの演技力?
見張りがけっこう多いけど、ここからが腕のみせどころ。
明かりの届いているところへ踏み出したら、兵士(?)たちが一斉にこっちを向いて。
「止まれ! 何をしに来た!」
「きゃぁっ!!」
口元に両手をあてて、悲鳴上げてみたりして。
ちょうど上手い具合にライトが当たって、「びっくりしてる少女」が闇に浮かび上がった。
――いいかも♪
「なんだ、子供か……」
「ちょっと待て。子供だろうがなんだろうが、どうしてこんなところにいるんだ?」
その疑問、もっともよね。
だから早速あたし、泣きそうな顔をしながら答えてあげたの。
「み、道に迷って、帰れなくて。ずっと歩いてたら、こっちに明かりが見えたから……」
途中で泣いたフリして、その涙をぬぐってみせる。こうすれば頬に涙と泥のあとが残って、けっこう可哀想に見えるのよね。
「おねがい、助けて……もうあたし、歩けない……」
その場へ座りこんで、泣きじゃくってみた。
――これはルーフェイアの方が、上手なんだけど。
でもあたしだって、彼女見ながら勉強したんだから。
その甲斐があったのかな? 見張りが周りへ集まってきた。
「おい、どうする?」
「どうするって言われてもなぁ……けど、このままってのも可哀想だしよ」
わいわいがやがや。
けど警備してるはずなのに、こんな調子でいいのかな? そりゃこっちは助かるけど。
――さぁて、と♪
隠し持っていた苦無を、そっと取り出す。ちなみに毒つき。
「なぁお嬢ちゃん、悪いがここ、泊めらんねーんだ。どっか送ってやっからさ、それで勘弁してくんねぇかな?」
バカなやつ。
泣いてるあたしを慰めに、わざわざしゃがんで抱き寄せるなんて。
「え、あ、なんでもいいです……」
そう言いながら苦無を、男の腹部に突き立てた。
「ぐ、な、なにを……」
「きゃぁぁぁ〜〜っ!!」
男の呟きを悲鳴でかき消して。
あたしが離れると支えを失った男の体がくずおれて、傍目から見ると「突然どうかなってしまった大人から、驚いて離れる子供」という状況になったの。
「いやいや、いやぁぁっ!!」
ついでだから、パニック起こした風に叫んでみたり。
「なんだ、どうしたっ!」
同時に屋敷から少し離れたところで、どんっという爆発音。
――ミル、ナイスタイミング♪
これで完全に、見張りたちの注意が向こうへ行く。