Episode:46
『それで、どうにかなりそうなのか?』
『ムリです。あたしひとりなら、とうの昔に出ていってますけど』
というか、あたしだけなら誘拐されないだろう。
『つまり、僕が足枷ということか。はっきり言うな』
『え? あ! ――す、すみません!』
『いや、構わない。本当のことだろうしな』
殿下、いやに素直だ。
なんて言おうか迷う。でも、殿下が言葉を発する方が早かった。
『それで、本当に方法はないのか?』
『この状況だと、強行突破くらいです。もっとも殿下が……』
「お前ら、何を話している! こっちにも分かるように言え!」
さすがに頭にきたらしくて、見張りの男が怒鳴った。
「さもないと……」
「さもないと、何をするつもりだ? だいいちこの程度の言葉も理解出来ないなど、まさに下級としか言いようがないな。
お前は小学校も出ていないのか?」
えっと……。
どうしてこう、みんな切り返しが上手なんだろう? あたしなんていつもなにも言えなくて、黙っちゃうだけなのに。
ちなみにこのとんでもない言葉に、怒鳴った見張りの方は切れかかっていた。
――確かに普通は怒るだろうな。
それなのに殿下、平然としている。
しかも更に一言。
「それに僕に傷でもつけようものなら、仕置きを受けるのはお前じゃないのか?」
こう言われてはさすがの見張りも、手を出すことは出来ないようだった。
「さて、邪魔ものは黙ったようだから、改めて続きを話すか」
殿下ときたら、見張りに分かるように、わざとアヴァン語で言うし……。
『魔法はムリだが、僕も一応杖術と格闘技は使える。自分の身くらいなら守れるぞ』
ローム語にスイッチして言った殿下の言葉は、けっこう意外だった。
『本当ですか? でしたら、頃合を見計らって脱出しましょう。
――そうですね、明け方少し前くらいに行動を起せば、それなりに楽でしょうし』
殿下が自分で自分を守れるなら、どうにかなるだろう。
『分かった、お前の言うとおりにしよう』
ほんとにどうしちゃったんだろう? 2、3日前から殿下、話をするとあの顔合わせの頃の調子がない。
でもこのほうが、今はありがたかった。
『でしたら、今のうちに休んでおいてください。時間になったら、起こします。
それからイザとなったら、あたしが囮になります。殿下は先に逃げてください。』
『なんだと? お前を見殺しにして逃げろと言うのか?』
殿下の声が厳しくなる。
けど不思議とあたしは、平静だった。
『そのとおりです。
――そのためにあたしたちは、雇われたのですから』
覚悟は、出来ていた。