Episode:45
「その、殿下と離れるわけには……だから……」
「そういうことか」
殿下、どうしたんだろう? なんだかちょっと、憮然とした顔だ。
「あの、あんなことして……すみませんでした」
いきなりしがみついたりしたから、気を悪くしたのかもしれない。
「もう二度と、しませんから」
「いや、いい。それに、怒ってるわけでもないぞ」
口ではそう言ってるけど、なんだかやっぱり、少し怒ってる気がする。
それにしてもこの部屋、とても監禁するところとは思えない。いちおう窓には鉄格子がはまっているけどそれだけで、あとはホテルのスイートという感じだ。
部屋の中にいっしょにいる見張りも、どこかのんびりしてて緊張感がない。
あたしたちが子供だから、油断してるんだろうか?
ただ、抜け出せないのは事実だった。あたしひとりならどうにでもなるけど、殿下が一緒じゃそうはいかない。風向きが変わるまでは、否が応でもおとなしくしているよりなさそうだ。
だからと言ってあまり待っていると、こんどは状況が不利になりすぎる。
かなり微妙なところで、判断が難しかった。
――この場所を、先輩たちに知らせられるといいんだけど。
そうすれば一気に選択肢が広がって、がぜん脱出が楽になる。
でも通話石は、ダメそうだった。幸い取り上げられなかったけど、それは裏を返せば、ここじゃ使えないって意味だ。それに目の前に見張りがいる状態じゃ、試すことも出来ない。
先輩たちがここを突きとめてくれることを、祈るだけだ。
とはいえ、それだけを当てにするわけも、いかなかった。
そもそもあの爆弾テロだ。きっと大丈夫……そうは思っているけれど、果たして全員無事だろうか? もし巻き込まれてたなら、当然こちらの救出どころじゃない。
最悪の場合はあたし独りで突破口を開いてでも、殿下を無事逃がさなくちゃいけないだろう。
部屋をもう一度よく、見まわしてみる。
場所は3階の角。バルコニーはなし。窓にはしっかり鉄格子。壁は石組み。しかも見張りつき。
おそらく扉の外や廊下にも、見張りがいるだろう。
――ちょっと簡単には、いかないかな?
あたしだけなら見張りも鉄格子も無意味だ。最上級魔法でも使えば、ぜんぶいっぺんに片付く。
ただ……殿下がいるから、どうにも手が出せない。うかつなことをしようものなら、あたしはともかく、殿下に危害が及ぶ。
できれば今夜のうちに逃げ出したいけれど、見張りがいるから相談もできなかった。
これがシュマーの人間同士なら、古代ローム語の変形を日常語にしているおかげで、普通に会話しててもそのまま暗号なのだけど……。
そこまで考えて、はっと思いついた。
すぐ試してみる。
『殿下、この言葉おわかりになりますか?』
『ローム語か。大丈夫だ』
即座に答えが返ってきた。
ローム語はかつての大帝国、アムロイデの上流階級の言葉だ。それが帝国の絶頂期までに、他国の上流階級にまで広がった。
そしてこの言葉は、いつの間にか上流階級のステイタスにまでなったのもあって、国が滅びても使われ続けている。
だから殿下も、と思ったのだ。
『でしたら、こちらで。たぶん、しばらくはごまかせます』
『わかった』
これでどうにか、込み入った話ができる。
見れば見張りの人が不思議そうな顔をしていたけれど、これは無視することにした。