Episode:44
◇Rufeir
車が止まった。
外が見えないようになっていたから正確には分からないけど、どうも会場から、かなり離れたところまで来ているらしい。
「降りろ」
鋭く言われて車を降りると、森の中だった。どうりで周囲が静かなわけだと、納得する。
目の前には、かなりの年数を経た石造りの館があった。けっこう手の込んだ造りをしているから、もともとは貴族かお金持ちの所有だったんだろう。
追い立てられるようにして、屋敷の玄関をくぐる。外からの見た目通り、中も重厚な造りだった。
入ったところのホールに、数人の男たちがいる。
真ん中の男性が口を開いた。
「殿下、ようこそ」
「――お前か」
吐き捨てるような一言で、この男性が殿下にとってどんな人物なのかが、だいたいわかる。
「これはなんの冗談だ?」
「それは殿下が、いちばんよく知っているんじゃないのか?」
2人が睨み合う。
どうもこの2人、考え方かなにかが対極にあるらしい。ただ事情を知らないあたしにしてみると、完全に理解の範疇を超えた状況だ。
――誰か説明してくれないかな。
思わずそんなことを思ったけれど、残念ながらそいういう親切な人は、いないみたいだった。
そのまま2人ともしばらく睨みあっていたけれど、ふっと男性の方が先に視線を外す。
「まぁいい。いずれカタがつくことだしな。連れて行け」
男が命令すると、周囲の男たちが無言で従った。この中ではそうとうの権力があるんだろう。
彼の横を抜けるようにして、連れて行かれる。
階段を昇り廊下を行き……通された?のは、棟のいちばん外れの部屋だった。
「さぁ、おまえはここだ」
男の一人が乱暴に殿下の腕を取って、部屋へ押し込もうとする。
――いけない、分断される。
思った瞬間、考えるより先に身体が動いた。
「殿下、いやですっ!」
言いながら、殿下の腕にすがりつく。
「なんだおまえ、ほら、離れろ!」
「いやっ!」
強引に引き剥がそうとする男に抵抗して、力いっぱいしがみつく。
「困ったお嬢さんだ。
――まぁいい、別にいっしょでも構わないだろう。見張りもそのほうが、数が少なくて済む」
上位らしい別の男が言って、あたしと殿下は見張り役といっしょに、同じ部屋に放り込まれた。
「ここで大人しくしてるんだ」
大きな音を立てて、扉が閉められる。
「大丈夫か? 落ち着くまで休んだらどうだ?」
「え? あ、いえ、大丈夫です」
心配そうな殿下に、慌てて言葉を選びながら答えた。