Episode:41
「よくやった。そうしたら、それを手がかりに……なんと言っていた?」
「えっとね〜、『予定どおり白い森へ』って。でね、珍しい北地区の言い回し使ってたから、過激派の『神々の怒り』の連中だと思う〜♪」
「そこまで、分かるのか?」
これはルーフェイアの人選が、正しかったと言わざるをえない。私たちがアヴァン語を聞いても、区別などつかないのだ。
「それで……その森はどこに?」
「アヴァンシティの北西。別荘地なんだ〜。ただねぇ、ちょっと広いから、細かいとこまでは……」
「十分だ」
これだけの情報が揃っていれば、どうにか割り出せるはずだ。学院の方に頼んでもいいし、タシュアならもっと早く魔視鏡網上の情報から、絞り込んでくれるかもしれない。
「まさかここの通話石で、学院に連絡するわけに行かないな……」
言いながらここの警備用に渡されたものはなく、来る前に学院が、支給してくれたものを出す。
こっちでも万全とは言えないが、アヴァン側から渡されたものよりはマシなはずだ。
「シーモア、ナティエス、すまないが報告だけ、してきてくれないか? 学院のデリム教官が、傭兵隊の指揮を採ってる」
「あ、はい」
二人の声が揃った。
「あとからちゃんと、私が詳細を伝えに行く。だから、簡単にでいいから」
「分かりました」
駆け出していく後輩の背を見ながら、学院に連絡を入れる。
「任務中の、シルファ=カリクトゥスです。学院長に、繋いで頂きたいのですが……」
繋がった先にそう言うと相手が代わり、あののんびりした声が聞こえてきた。
「おや、シルファ=カリクトゥスですね。任務はどうですか?」
「トラブルが発生しました。詳細は後で報告しますが……タシュア=リュウローンを呼んでいただけないでしょうか? 」
「タシュアですか……困りましたね」
向こうで、学園長が口篭もる。
「彼になにか、あったのですか?」
「いえ、ちょっと名指しで任務に就いているのですよ。先ほど発ちましたから、まぁあと2、3日はかかるでしょうね」
「そうですか……」
こうなると、学院の諜報部に頼むしかないが……正直、あまり信用は出来なかった。
もちろん、そのあたりの素人などは足元にも及ばない。だが学院の諜報部は、タシュアのような学院生に、翻弄されている有り様だ。
とはいえ、やむをえないだろう。
「でしたら、学院の……」
「先輩すみません、ちょっと代わっていただけませんか?」
言いかけたところで、エレニアが珍しく割り込んでくる。
あまりこういうことをするタイプではないから、何かあるのだろう。そう思って私は、急いで彼女に代わった。
「学園長、申し訳ありません。エレニアです。先ほどの話ですが、タシュアの代わりにロアに、伝えていただけないでしょうか?」
聞かない名前だ。ただ言い方から見るに、彼女がよく知る相手らしい。
「――ええ、そうです。詳細は彼女に直接送ります。ではまた後ほど」
そう言ってエレニアは、通話を終えた。
「タシュアの代わりにロアとは……どういう意味だ?」
さすがに彼女の考えていることが分からず、問いかける。
「タシュアのかわりに、ロアに魔視鏡を使って、調べてもらおうと思います」
ずばりとエレニアが言った。
タシュアと並んでこの年齢で、上級隊に入っただけのことはある。私の、たったあれだけの学園長とのやりとりで、なにをしようとしているのか見抜いたらしい。
――だが、ロアにタシュアの代わりができるのだろうか。
そう思う私の表情から、読み取ったらしい。エレニアが言った。
「先輩、心配にはおよびません。ロアは、タシュアと互角ですから。たまに学院の魔視鏡網上で、やりあってますよ」
「それは……知らなかったな」
もっとも自分から、そんなことが得意だとと言う者は、いないだろうが。
どちらにしてもこれだと、当分は情報待ちだろう。
「そうしたら私は、報告してくる。エレニア、情報の方は頼む」
あまり楽しいことではないが、仕方がない。
私はその場を後にした。