Episode:37
◇Sylpha
ルーフェイアが行ってしまうと、急に周囲が寂しくなった。華奢で繊細で泣き虫だが、あの少女には華がある。
そのあたりのテーブルからグラスを取って、さりげなく辺りを見回していると、声をかけられた。
「いっしょに踊ってもらえませんか?」
「――すまない、失礼する」
それだけ言って場所を変える。
育ちの良さそうな貴族の子弟たち。殿下もそうだが、自分の力で得たわけでもないのに「権力」というものを振りかざして、平然としている。
だが彼らから地位と権力を取ったら、恐らくなにも残らないだろう。
――つまらない、な。
実力の伴わない力など、所詮は付け焼き刃だ。頼ろうものなら必ずどこかで足を掬われる。
なんとなく胸元のペンダントをいじって、タシュアを思い出した。彼と比べればこの会場にいる貴族の子弟など、石ころにしかみえない。
桁外れの実力と、それをさらに上回る精神力。普段それを見せることはないが、タシュアは付け焼き刃などという言葉とは無縁だ。
今ごろ、何をしているのか。
と、気配がした。
「――エレニア、どうした?」
「それが先輩、ちょっと困ったことが……」
どうしたものか、そんな表情でこの才媛が起こったことを報告する。
「あの殿下にも困ったものです。とりあえず下級生たちが、あとをつけてはいますけれど」
さすがに憮然とした調子だ。
「殿下は……今どこに?」
「つい先程、屋外へ。ナティエスが知らせてきました」
「まずいな。行こう」
「はい」
2人で急いで向かう。
「他の子は?」
「全員外です」
脚にまとわりつく裾をさばきながら、横切っている会場が、どこかおかしい気がした。さっきまでと何かが違う。
なんだかやけに引っかかったが、私はともかく外へ急いだ。殿下のことのほうが先だ。
「あ、先輩!」
シーモアとナティエスが振り向く。
「殿下は?」
「あっちです」
2人の案内で、庭園の奥へ走り出す。
だがとつぜん前に、何人もの男たちが立ちはだかった。