Episode:34
なにがあってもシュマーだなどとは口に出来ないし、かといって家が所有している財閥――ようはシュマーの表の顔――の関係者なんて言ったら、やっぱりややこしいことになるだろう。
万が一どこかから、そんな財閥の子弟が孤児ばかりのMeS・シエラの本校にいるなんて漏れたら、いろんなところが大騒ぎだ。
「その……お答え、できません……」
それ以外に答えようがなかった。
「なるほど、やっぱりワケありか。まぁいい、そのうち分かるだろうしな」
そのうちでも分かると、あたし困るんだけど……。
だけどそう、口にするわけにもいかない。
「あの、ともかく屋内へ戻りませんか?」
「そうだな」
結局、なんのために出てきたんだろう? ただどちらにしても、戻ってくれると言うのはありがたかった。
急いで歩き出す。
――けど。
かすかに聞こえる、刃と刃のぶつかり合う音。そしてそれを上回る、イヤな「何か」。
「殿下!」
このまま行くのは自殺行為に思えて、急いで殿下を木立の中へ引き戻す。
「どうし――」
言いかけた殿下の言葉は、轟音にかき消された。
「な、なんだ?」
「おそらく……爆弾です」
「なんだと!」
慌てて駆け出そうとした殿下を、制す。
「お待ち下さい、危険です。気になるのは分かりますが……ご自宅へ、戻られたほうが」
言いながら、遅かったと思う。警護の人たちが、あたしたちを取り囲んだ。
「なんだ、お前たち。ちょうどいい、家まで……」
「殿下、ダメですっ!」
ふつうの警護役とは、気配が違う。
「……なんのつもりだ」
いっせいに銃口を向けた男たちに、意外にも冷静に、殿下が問いかけた。
「貴様ら、僕が誰だか分かっているんだろうな?」
――分かっていなかったら、こんなことはしないんじゃないだろうか?
ついそんなことを思う。
警護役――どう考えても実際には違うだろう――も、同じことを答えた。
「分かっていなければ、こんなことはしませんね。さて、我々と一緒に来ていただけますか?」
「あいにく、忙しいんだが」
「殿下、いけませんっ!」
とっさに制止する。こんな相手に毒舌を振るったら、下手をすれば殺されかねない。