Episode:25
「――学院じゃ、間に合わないな。日にちがなさすぎる。
仕方ない、殿下か、その父上にお願いするか」
「あの」
勇気を振り絞って、先輩の独り言をさえぎった。
「あたし、あの、そういうの……心当たりが」
「本当か?」
シルファ先輩の問いに、うなずく。
「モノ自体はすぐ出せますし、直すのも2日あればできます。
えっと、だからあの、迷惑じゃなければ……」
何だか凄く悪いことをしてる気がして、言葉が尻すぼみだ。
「大丈夫だ。むしろ助かる。
無駄になるかもしれないが、念のために当たっておいてもらえるか?」
「はい!」
やっと先輩の役に立てた気がして、あたしは弾む足取りで部屋を出た。
「えっと……」
こういう屋敷だと、外へ簡単に連絡が出来ない。ここに備え付けの通話石や、学院から預かった通話石なら問題ないけど、連絡先がなにしろシュマーだ。まさか正規のルートで、連絡するわけにいかない。
――このへんのこと、何か考えておかないと。
こんなことがあるたびに、連絡ひとつで手間取ってるようじゃ、イザというときに間に合わないだろう。
ともかくここの人に上手く言って外へ出ようと、屋敷の中を歩き出す。使用人部屋は、一階の北側にあったはずだ。
「おや、シエラから来たお嬢さまが、こんなところまで何のご用です?」
やっと見つけた女中さんが、声をかけてきた。あたしたちのことは、屋敷の全員にきちんと伝えられてるみたいだ。
「殿下のお相手に呼ばれたのでしたら、こちらは見当違いの場所ですよ。ご案内しましょうか?」
前言撤回、ちゃんと伝わってない。けど「護衛だ」と訂正すると、もっとややこしくなりそうな気がしたから、そのままにする。
「あの、そうじゃなくて……ちょっと外へ、出たいんです」
「外へ? それは私には、判断がつきませんねぇ」
本当にこういうところは、たかが外へ出るだけでも一苦労だ。警備が厳重なのはいいけれど、その分コトがなかなか運ばない。
「先輩から、用事を言い付かったんです。ダメでしょうか?」
「あら、そういうことですか。でしたらちょっとお待ちくださいね」
この人たちも、用事を言いつけられることには、慣れてるからだろう。すんなり納得してくれて、どこだかへ連絡して、専任の人のところへ連れて行ってくれた。
「ありがとうございます、助かりました」
「いえいえ。殿下からお嬢さまには、よくするようにと言いつけられてますしね」
「そう、なんですか……」
いったい殿下、何を考えてるんだろう?
不思議に思いながらも、シュマーのほうへ、ムダになるかもしれないことも含めて連絡する。
それから部屋へ戻ると、思ったとおり、みんなが集まっていた。