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「イリスの、と言うか[MCST]の正式名称はメンタルヘルス(Mental health)コミニュケーション(Communication)サポート(Support)ツール(Tool)。それらの頭文字を取って名付けられた。この世界に英語があるかはしらねーが、美遊なら意味は理解できるだろ」
「少しはわかるけど・・・」
「えいご?と言うのは解りませんがその言葉なら私達にも解りますよ。めんたるへるす?というのは・・・メンタルは精神的な物って事でいいんですよね?」
広場までの長い一本道を先頭で歩く周一がイリスについて説明し始める。テルフィアが発言によってこの世界にも英語はあるが、ワードに有無があると考えていいと解った。やはりそこは異世界と感じてしまうと言ったところなのか。それとも俺達の世界の文化が違うのか。どう捉えるべきなのか。周一には判断しかねた。
「・・・ああ。まあその辺が解るなら言葉の意味でなんとなくで解るだろうよ。もっと簡単に言えば生命管理装置って考えてくれればいい」
「生命管理装置、ですか?でもさっきはPCだって」
イリスの言っていた発言とはまた違った表現で説明されたため美遊の表情にに疑問が浮かぶ。
「メインがそれなんだよ。PCはそのオマケみたいなもんで・・・その辺は本人に聞いてくれ」
『あっ!もう面倒になったんだねますたーっ!まったくしょうがないなー、もぉ~』
「それ、嬉しそうに言う事か?」
『でもそうでしょ?』
「まぁな」
『ほらね。それじゃっ、ますたーの代わりに説明するよ~。それに話だけじゃなくて絵もあった方が解りやすいでしょ?そもそもこうゆーのは元々私達の売りだし』
そう言い、周一にに代わって説明を引き継いだイリスは大きめな別ウィンドウを1つ出す。
『・・・それでね、さっき美遊に言ったPC。パーソナルコンピューターはこのMCSTのシステム製作・管理のために使用してるから、世代の話には関係ない事を一応伝えておくよ。私が言った世代ってのは美遊が言ってた携帯機器の話。そもそも道具なんて何事にも元が無ければ出来ないからね』
「・・・そうなんだ」
何にそう答えたのかは解らないが美遊の表情が少し和らいだような気がした。あまりに技術がかけ離れているとでも思っていたのだろうか。真意は解らないが。
「これがぴーしー?なんか今イリスが出してくれているのに似てる気がするけど?」
イリスがウィンドウに表示させた絵や関係性を示すための矢印やバツ印。その中にあるPC用モニターの絵にに注目したアイリス。
『うん。似てるで合ってるよアイリス。それが私達の産みの親だし、その能力が使えるのも不思議ではないでしょ?』
「そうな・・・私達?」
『正確な産みの親はそれを使った人なんだけどね。あ、そう言えばそれも言って無かったね。私達。MCSTはますたーの世界では全ての人、生後3~4年の間に所持を義務付けられてる物なんだよ。MCSTの形は様々だけどね。だから私の様な存在は3歳以上の人には同様に存在するんだよ』
ウィンドウの絵が変わり、今度は様々な小物が映し出される。ネックレス、イヤリング、指輪、リストバンド、ブレスレット、腕時計など全てが外出時に人が常に身に着け続けていられる物ばかりだった。リストバンドには金属板の様な装飾が取り外し出来る様になっている。
「・・・えっと、それってつまり。イリスちゃんがたくさんいるって事でいいの?」
『様なって言ったよテルフィア。私は1人しかいないもん。ちゃんとみんな別々だよ。元は私だけどね』
「もと?」
『システムソフトウェア:MCS。メンタルキャラクターシステムと私達は製作者に名付けられた。そしてそのきっかけになったのがオリジナル。唯一無二の存在が私なんだよ。だから私は1人しかいない。でも他の子達ならテルフィアの言ってた同じのがたくさんいるって事で合ってると思うよ』
「それってイリスのコピーがたくさんいるって事?結果からすればイリスも同じじゃないの?」
『・・・うん。そうだね。私以外の子達はみんな私のコピーだよ』
「イリス?」
美遊の質問に少し間をおいてから答えたイリス。その顔は少し悲しそうだった。
「イリスのコピー体は不完全だったんだよ」
「不完全?」
イリスの表情に察した周一が代わりに話しをする。
「美遊。イリスに会って、見て、話して。どう思った?」
「どうって・・・何が?」
「MMDはどんなのかは知ってるんだろ?俺はそう言うのは齧った程度しか知らないが、それと比べるとどうだ?」
「・・・それはソフトウェアでしょ?それとイリスを比べて何が・・・っ!?」
「ミユ?」
「ミユさん?」
周一の意図に気付いた美遊が立ち止まる。それにつられ全員が足を止めて美遊を見る。その美遊はイリスを見ながら。そしてまるで、あり得ない物を見てしまったと言った風に驚きながら口を開いた。
「まるで・・・人そのもの」
「えっ?だってそれはシューイチさんの世界の話ですよね?人が出来る能力を持っている者は全て人だって。その定義からするとイリスちゃんも人ですよね?」
美遊の反応にテルフィアが確認するために周一に聞く。
「ああ。・・・それでだ、テルフィア。この世界じゃ人を100%。完全に同じ存在を作り出せる事が出来るか?」
「そんなの出来る訳無いじゃないですかっ!そんな事魔法でだって出来ませんよっ!!ねえアイリス様!」
「うん。そうだね。私達の世界にはその技術も魔法も無いよ。闇魔法に分身する魔法は存在するけどあくまでそれは分身。自分の力がその分身した数によって均等に分かれてしまうものだから。完全に元と同じってのは無理だよ」
「その魔法な、俺達の世界じゃ魔法は奇跡見たいな空想の物なんだ。だがその奇跡でも出来ない事が、俺達の世界ではある特定の物だけなら可能なんだ」
「特定の物って?」
「データ・・・情報のこと」
美遊が小さく呟く。その顔には未だ動揺があった。
「情報って書物とか噂話とかの事ですよね?それは当り前じゃないですか。共有できる物なんですから。それが嘘でも無ければですけど」
「うん。でもそれがミユの世界でも、シュウイチさんの世界でも共通の何かがあるんですよね?」
テルフィアやアイリスが理解出来ないのは当然の事だ。イリスを、そしてそのウィンドウを見て、未知の物を見たといった反応をしていたのだから。
『何かって程じゃないんだよ。テルフィア、アイリス。例えば本を1冊複製するにどのくらいの時間がかかる?』
「量にもよるけど本の複製なら写しを使うから大して時間はかからないと思うけど、手書きだったらかなりかかるかな」
「私の世界ならそれを、様々な道具に数回触れるだけで何十、何百と作れちゃうの。それもこの世界で複製を1冊作ってる時間ぐらいあれば簡単にね」
「ええっ!!?」
驚きを隠せないテルフィア。この世界にコピーという技術が無ければ当然と言ってもいいだろう。
『うん。そしてこの世界で言うなら私はその本、その物なんだよ』
「イリスが・・・本?」
『そう。本。しいて言えばその中身の情報だね」
「うぅ~?よくわからなくなってきました・・・」
テルフィアがもうパンク寸前だ。まあ無理も無いか。
『あはは。無理も無いよ。ん~・・・ならこう考えて。私は人の姿をした本。そして人と同じ様に考える事が出来て、人と同じ様に話す事が出来て、人と同じ様に感情を出せる。そんな人と全く同じ能力を持った本。これなら少しは理解しやすくなると思うよ』
「人同じ様に・・・同じ事が出来る本?」
「もし、イリスが本だっていうなら。さっきの美遊の話も含めたらイリスが短時間で何十、何百と複製出来る事になっちゃうけど?・・・それも私達の世界で言う人がだよ?」
「あっ!?」
『うん、アイリス。それが正解なんだよ。もっと言っちゃえばね、私達の世界じゃ本の中身だけをやろうと思えば一瞬とも呼べる時間で世界中の人に届ける事すら可能なんだよ。言ってしまえば私と言う存在は、ますたーの世界の人達にとってはその程度の物なんだよ』
「そんな・・・」
「でもそれって奇跡の様な凄い事ですよね?なのになんでミユさんはあんなに驚いていたんですか?」
当然の疑問だろう。だがこれは簡単だ。この世界でも証明できる。
「当たり前でしょっ!?物にっ!?情報に感情があると思うっ!!?」
「それはこーしてイリスちゃんと話せてますし。シューイチさんの世界では当たり前にあるんじゃないんですか?」
ああ。そういう考え方しちゃったか。
「ちなみに聞いとくが、お前が持ってる武器。人と同じ能力持ってるか?」
「何言ってんですか。武器は武器ですよ。そんな事あったら気持ち悪いですよ」
「じゃあ、こいつは?」
「イリスちゃんでしょ?それが・・・あれ?」
「・・・武器でも道具でもを動かすためには動かすための元が必要でしょ。でも道具に人としての意思も感情も絶対に無いの。イリスが言ってたでしょ。何事も元が無ければ出来ないって。人として行動するのに必要な元は何だと思う?」
「それって。命、ですか?」
「じゃあ、イリスは人としての全てが自分の意思で出来る道具って事なのかな。さっきの話で言えば意思を持った命がある情報だって事かな?」
『アイリスは理解が早くて助かるよ。そう。私は意思を持った情報生命体。誰かに何かを教える事を私の意思で決める事が出来る。私達の世界では自立AIなんて呼び方もあったけどね。まあそれが私なんだよ』
イリスは寂しそうな顔をしながら説明様の別ウィンドウを消した。
未来を舞台にしたゲームや漫画になら良くある存在だ。自分の意思で考え、行動する。未来の狸ロボットなら食事をし、味覚すら存在してしまう。そこまでの能力は持っていないがそれに近い存在。それがイリス。そんな存在を知ったら強欲な人と言う生物はどんな事をしても手に入れたがる。手に入れる事が力になるとか名誉だとか権利だとか・・・それはクズ共の考え方だ。
「でも確かこぴい体。話からして複製の事だと思いますけど、それが不完全とか言ってませんでした?」
『私から作られた子達には人としての考える事と感情を出せるって部分が欠けてたんだよ。出来たのはさっきただ指示された事するだけの人形の様な私だけ。だから・・・不完全なんだよ』
イリスにとってコピー体は言ってしまえば子供や妹、弟の様な存在だろう。だが人の好奇心や利益のために作られ、そして消され。まるで同様の存在である自分の命すらも弄ばれている様な感覚。常人なら耐えられる筈が無い。
「まあ、イリスの事についてはそんなとこだな。【ウィンドサイス】っ!!」
そういい。広場に背を向けていた周一が振り返って、急にこちらに目がけて飛んできた槍の形をした水の塊をかざした右手の白い魔法陣から出した風魔法、【ウィンドサイス】で出した風の斬撃で切り裂き、【ウィンドサイス】は空へと消えて行き、水の槍は形を崩し、周一達の両脇の地面を濡らした。
「・・・ってかあそこに群がってる奴らはもう我慢の限界らしい」
「「「あっ」」」
実は美遊が足を止めてから全員一歩も動いていない。そしてここは距離は長いが広場まで繋がっている傾斜の一本道。目的地にいる奴らからもこちらの姿は丸見えだ。それなのに堂々と立ち止まって立ち話をしていたら何か作戦を企てていると思われても仕方が無いだろう。
と言うか、俺も大概だがこいつらも忘れっぽいのか?
「はぁ・・・あとこれ以上はイリスが泣くから話は終わりな」
『わ、私泣いて無いんだけどっ!ますたーっ!!』
「はいはいわーってるわーってる」
『ぷぅうううううう~~~っ!!!』
頬を膨らませるな。可愛いからお止めなさい。もっとからかいたくなる。
「じゃあ待たせるのも悪いし行きますか。ってかとっとと済ませて飯にしたいぜ。寝起きから喰って無いせいかさすがに腹減ったし喉も乾いた。あとトイレもな」
「待って下さいっ!」
テルフィアが周一の歩める足に待ったをかける。
「策は思いついたんですか?」
『「・・・・・・」』
息の合った様に体が固まった2人。そしてそのまま足を動かし始める。
「ええー・・・」
「「やっぱり・・・」」
策も無しに大丈夫かなと思いつつも後をついて行く少女たちだった。




