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永遠の約束 永遠の旅 -とわのやくそく とわのたび-  作者: 風翔 響
第1部:エレメンタニア
19/109

2-5

 第9層。数々の平地の島がある場所。島と島を繋ぐ1本道の両脇に見える広がる白い雲の様な物。雲という事は空の上。だから浮遊島という事らしい。


 ただ、今の周一達の目の前にはその光景よりも目に入る惨状が広がっていた。


「どうしたの?みんな立ち止っ・・・っ!?」


 最後に転移したアイリスは周一達が立ち止まっている事に疑問を持つ。美遊とテルフィアは気分が悪そうに口に手を当てているのを見た後、周一達が見ている先を見ると言葉を詰まらせてしまう。


「ン?ソノレベルハ、英雄姫カ?トイウ事ハ、オ前達ガ当タリダナ」


 何かの塊の上に座る尻尾と翼のが生えているトカゲ顔の存在が喋りだした。翼の生えた赤い鱗のリザードマンと呼べるような存在がアイリスに気付いた。


「なぁ、アイリス。俺のレベルが解るみたいだから聞くけど・・・あいつのレベルっていくつ?」

『みんなの反応的に出来れば聞きたくないんだよますたー・・・どう見てもやばやばオーラが出まくってるんだよ』


 周一が目の前の存在の事を聞きたくなるのも無理は無い。何故なら後から来た美遊達4人があれを見てから、まるで何も出来無くなってしまうぐらいに恐怖に震えていたのだから。


「・・・138。最下層付近の門番をしている魔物のレベルだよ」


 アイリスは冷静に周一の質問に答えた。

 つまりダンジョン最下層付近のボスだと言う事らしい。何層あるか知らんけど。

 あれ?でもここ、第9層ですよね?なんで目の前にそんなのがいるの?しかも発音は微妙だが喋ってるし。


「ちなみに俺達のパーティーは?」

「剣ノオ前ハ23。銃ハ45。斧ト杖ハ70。勇者ハ80」


 リザードマンが周一の質問に答える様に、周一、テルフィア、カルドとリアン。そして勇者、美遊のレベルの数値を順に言う。どうやらあいつもアイリスと同じ様にレベルを見ただけで測定出来るみたいだ。


「ソシテ、英雄姫ハ140ダ。フン。アイツニ言ワレテココマデ来タガ、勇者ハタッタノ80。英雄姫以外雑魚デハナイカ」


 本当に微妙な発音だが言葉は解る。レベルが強さの象徴だとしたら、あいつとまともに戦えるのはアイリスだけとなる。英雄姫、アイリス以外は雑魚。つまり、アイリス以外は戦いにすらならないと言っているのと同じだ。


「・・・へぇ。人の言葉喋れんのね。それで、この雑魚に教えてくれるか?この現状の事をよ」


 当事者から聞くのが一番早いと思った周一は慎重に目の前のモンスターに訪ねた。リザードマンの椅子になっているバラバラの肉片。正確には人間の部位が山積みになっている物。人数で言えば大体5人ぐらいだろう。そしてリザードマンと周一達の間、正確には周一の大体2メートル程手前に息絶えている者。勇者の証であるインテリングを嵌めている右手と胸から上しか残っていない男の死体。まるで生きようと必死にもがいていたのか、死体の先にはリザードマンへと続く血の道と共にバラバラになっている男の部位や装備品が無残にも転がっていた。そう、この現状。惨状についてを。


「現状?オ前ハ、コレヲ理解出来ナイホド脳マデ雑魚ナノカ?」


 嘲笑うように答えるリザードマン。


「理解はしてるぜ。お前がこれをやったってのはな。どうやってそいつらを殺したかを聞きた・・・ん?どうした?」


 話の途中、コートを引っ張られる感覚を感じた周一は後ろを振り向くとそこには震えながらよわよわしくもコートを掴んでいる美遊の姿があった。


「きき、き、ききたくない・・・早くく・・・ここから・・・」


 震え声の美遊に賛同するかのようにカルド達も周一を見ていた。


「殺シカタ?ナラ、体験スレバイイ」

「は?」


 そう言うとリザードマンは周一を指さし、その長い爪の指を空気を切る音が聞こえる様な速度で振る。


 そして一瞬でギャッンッ!!という何かの音が響く。


「ホウ。サスガダ。コレニ対応出来ルトワ」


 周一の目の前には光るバリアの様な盾が出来ていた。振り向くとアイリスが手を前に出して光る魔法陣を展開させていた。そこからうっすら見えるリザードマンへの道、先程まであった血の道が何かに切られたかのように深く抉られていた。


「あ・・・あああっ・・・」

「絶対・・・逃げられない・・・」


 声すらまともに出せなくなっているテルフィア。そして恐怖のあまり生存を諦める美遊。カルドとリアンも同様の反応をしている。


「雑魚共。フセガレタガコレガ答エダ。元々の狙イハオ前達ダッタガ、先ニコイツラガ来タカラ暇ツブシヲシタダケダ」


 狙いが俺達?どういう事だ?


「暇つぶし?・・・それであなたはこんな酷い事をしたっていうの?」


 バリアを消したアイリスは今のリザードマンの言葉に冷静でいられなくなっているのか、声に怒りがこもり始める。


「マア、オシャベリハココマデダ。サアオ前達、セイゼイ私ヲ楽シマセテミセロ」


 リザードマンが立ち上がり、尻尾で座っていた肉の塊をなぎ払った。


「っ!?みんなっ、私の後ろにっっっ!!!」


 アイリスはリザードマンから強大な魔力を感じた瞬間、すぐさま全員の前に勢い良く跳び出した。


(ま、やるしかないよな)


 決心してイリスを見る周一。それに応えるかのように頷くイリス。


「【ディソリューション】」


 リザードマンの口から凄まじい火のブレスが放たれる。


「くぅううううううううううううううううっ!!!」


 全員の前に一歩出たアイリスは手を前に出して光るバリアでは無く、今度は赤いバリアを展開してそのブレスを防ぎ続ける。その間、辺りの気温がどんどん上昇して行くのが解り、アイリス達は体中に汗が急激に出始めているのを感じた。


「・・・面白イ。コレモフセグカ」


 ブレスを吐くの止めたリザードマンは防ぎきったアイリスに興味を抱く。

 先程の血の道、抉られた道に続いて溶岩で溶けた様な道が出来あがっていた。


「・・・ふぅ。みんなっ大じょっ!!?」


 アイリスは後ろを振り返り全員の無事を確認しようとするが・・・


「ナンダ、アノ雑魚ハ消シトンダカ」


 そう。リザードマンの言う通り。そこには周一の姿が跡形も無く消えていた。

 

「リアンさんっ!カルドさんっ!テルフィアッ!!ミユッ!!!」


 シュウイチは何処、と問うかのように1人1人名前を呼び、呼ぶにつれて声が大きくなって行く。だが、全員がその声に反応出来る程の余力は無かった。


「フン。私ニ背ヲ向ケルトワ、余裕ダナ」


 守り切れなかったと焦っているアイリスに殺気を込めた威圧をアイリスに向けて飛ばすリザードマン。


「っ!!?」

「安心シロ。全員ミナ殺シダ」


 だが、アイリスはリザードマンの威圧に振りむいたのではなかった。リザードマンの後ろ、その影の存在に気付いたからだ。


「じゃ。お前は死ぬまで命乞いすんなよ」


 いつの間にかリザードマンの背中にまで迫っていた周一がその言葉と共に右手に持った鉄の剣で切りかかった。


「ナニッ!!?」


 だが切りかかった鉄の剣はまるで固い物にぶつかった音を出して、リザードマンの体に弾かれた。


「・・・つぅううううううううううっ!!!?なんつー堅さしてんだよお前っ!!?」

『そこは切られなさいよっ!ますたーの奇襲が台無しじゃんかっ!!ってかますたーかっこわるい!』

「うっせい」


 頭の上で座っているゴスロリ少女、立体映像のイリスに周一は一言言ってから鉄の剣を左手に持ちかえ、手をブラブラさせて痺れと痛みを和らげようとする。


「キサマッ!ナゼイ」

「生きているとか、雑魚発言すんなよ?」


 ブラブラする右手を止めて、また右手に持ちかえた鉄の剣を腰の左側にある鞘に納めた周一はその鞘を腰から取り外す。


「っ!?」

「それに・・・」


 驚きを隠せないリザードマン。それもそのはずだ。あのブレスで消し飛んだはずの格下の雑魚が生きていて、しかも切られなかったとはいえ背中を取られてしまった事実。無意識に周一を見ながら離れるように後ろへ跳んで距離をとる。


「おいおい。お前よりレベルの高いアイリスに背中を見せるなんて、余裕だなぁ?」

「ッ!?クッ!!」


 更に挑発するかの如く自分のセリフを使われ、アイリスに背を向けている事を諭されて屈辱を全身で感じ、顔を歪ませながらも今度はどちらにも対応出来るように翼を使って空を飛んだリザードマン。


「今度は空ねぇ・・・」

「シュウイチさん!無事っ?」

「無事じゃねえっ!!」

「えええっ!!?」


 はっきりとアイリスに無事じゃない宣言をされたため虚を衝かれた様に驚くアイリス。その声に反応したのか美遊達も周一の姿を捉える。


「あいつかったい!!何なの?この剣の切れ味悪くない?おかげで手がビリビリしたんだけ、どっ!!」


 文句をアイリスにぶつける周一は取り外した鞘に入れた剣を地面に叩きつける。剣は変に跳ねて、周一から少し離れた位置で止まった。


「あ、あはははは・・・。怪我とかを聞きたかったんだけど・・・シュウイチさん!」

「ん?」

「それは武器に魔力を込めなかったからですよー!」

「魔力を込めるって・・・わかんねーよ」

「えーっと自分の魔力を」

「ソンナ茶番を待ッテイルト思ウノカ?」


 そんな茶番劇に空にいたリザードマンが割って入るかのように周一に向かって襲いかかるため急降下をする。

 まあ当然である。アニメのようにパワーアップタイムや解説のために誰もが動きを止める時間が現実に存在する訳が無い。ましてその結果、相手が強くなるかもしれないとなったら尚更だ。


「うおぉっ!?こっち来た」

『つまり魔法剣だよますたーっ!!」

「いやそれゲームっ!!」


 リザードマンが手を広げ、先程の爪による攻撃よりも威力を上げるためなのか右腕を背中より後ろに大きく振り被りながら周一に迫って来る。


「・・・【ファーストトリガー】」


 周一が何かを呟いた瞬間、リザードマンの爪のカマイタチが周一を襲った。先程のものよりも威力が格段に上がっているのか凄まじい風圧と砂埃がその周囲にも襲いかかる。


「シュウイチさん!!・・・くっ!!」


 砂煙で見えないため、周一に対して無事を確認するかのように名前を叫ぶアイリスはすぐに砂煙を払うため緑の魔法陣を出して風魔法を使う。


「・・・あーそういや」

「ナッ!!?」

「つい投げちまったけど、買い取ってくれる場所でもあれば少しは金になったんじゃね?」

『今更それ言っても遅いんじゃないのますたー?剣は今ので島から落ちちゃったし』

「ふぇえええっ!?」

「うそ・・・でしょっ!?」


 しょーもない事言っている周一とイリスの声がリザードマンに聞こえる。砂煙が晴れるとアイリスの視線の先には無傷で青い剣を持った周一がリザードマンの左爪を受け止める姿があった。そしてアイリスの驚く声にまた俯いていた美遊が顔を上げ、顔色が戻って行くように驚く。また、その美遊の声にカルド達も同じように状況を見て、理解し、絶句する。


「キサマッ!!ソノ剣ハ何ダッ!!私ガコウスルト解ッテイタノカッ!!?」


 リザードマンは無策で襲いかかった訳では無かった。最初に見せた爪の斬撃。そして次は手を大きく振り被っての斬撃。だがこれは目を眩ませるためのもので命中しなくてもいい。つまりはブラフ、はったりだったのだ。本当の狙いは左手の爪によるゼロ距離攻撃。予測出来て無ければ回避も防ぐ事も出来ない距離での攻撃だった。リザードマンはブレスを避けていた周一に対し、自身でも感知出来ない程の動きの速さを持っている事に少なからず脅威を感じていた。だから大きい攻撃は避けられるだろうと考え、あえて指の間を大きく開いて斬撃を避けれる場所をワザと儲け、そこに誘い込む事にした。避けられる場所が少なければ速さは関係なくなる。そこに逃げ込んだ周一に先程奇襲をやられた時と同じ形で仕返ししてやろうと策を練っていたのだ。

 だがその策は周一に見破られていたのだろうか。何処から出したのか解らない青い剣によって防がれ、まして力をかなり入れているというのに押し切る事が出来ないでいた。


「俺、そういう演技じみたのは今まで散々『アニメで』見てるし、『いつもモノマネして』やってん・・・イリス。今俺セリフ決めようとしてんの、解ってる?恥ずかしい設定付けないでくんない?」

『ますたーがカッコいいのはなんか納得いかないんだよ。それに嘘は良くない』

「うっ、う嘘じゃねぇ~しぃいいいっ!!?実際それ以外でもあっただろ!?」


 声が裏返る周一。現状そんな話をしている余裕は普通無いはずなのだが、この2人にとってはまるで平和な日常の様な会話をしているみたいだった。だがそんな話をしている最中でも剣と爪の交わりが動く事は無かった。


「ナメルガハッ!!!?」


 馬鹿にされたと思ったのか、リザードマンは開いている右手を使って周一切り刻もうとする。が、突如発生した風がリザードマンを別の浮遊島まで吹っ飛ばした。


「別になめてねーだろ」

『それに舐めてもおいしくなさそうだよ』


 そっちのなめるじゃねーよ。

 左手に白い魔法陣を出している周一は心の中でそう思った。リザードマンが吹っ飛ばされたのは周一の魔法:クイック・エアブラストによるものだった。


「というか、やっぱ魔法名を言わなくても出せるんだな」

『ますたー、アイリスの見よう見真似で良くできるよね。やっぱりますたーは天才的な才能の持ち主だと思うんだよ?』

「だったら今までの俺の人生何だったんだよ」


 アイリスの無詠唱での魔法。しかも魔法名をも唱えずにバリアを出していたのを見て、同じ様に出来るのではないかと咄嗟の思い付きで成功させる周一。


「どうして・・・何でレベル23の円道さんが・・・」

「そんな事あり得ないですって。100以上も差があるはずなのに・・・」


 美遊達が俯いている暇など無くなる程、周一の起こした出来事は衝撃的だった。


「ねぇアイリス・・・彼に何が起こったの?」

「何かある奴だとは思ったが、一体何者なんだぁ?」


 黙り込んでいたリアンとカルドも声を出し、一部始終見ていたはずのアイリスに聞く。


「みんな・・・うん。そうだね。簡潔に言うと、シュウイチさんはあのモンスターと戦っていられる程の強さになってるよ。今はレベル123だね」

「「「「なっ!!!?」」」」


 美遊達が少し平常に戻った事にホッとしたアイリスから口に出された123という言葉に全員が驚く。

 先程の周一のレベルは23。つまりあのリザードマンとの戦闘で100もレベルが上がっている事になる。


「どうしてっ!?」

「解らない・・・でも解った事もあるの」


 理由を聞く美遊にアイリスはそう答える。


「解った事・・・ですか?」


 テルフィアはアイリスの答えに聞き返す。それに対し、イリスと何か喋っている周一に視線を送りながら口を開く。


「・・・シュウイチさんが私の勇者だって事だよ!!」


 笑いながらそう言い、アイリスは周一に向かって走り出す。


「みんなも早く!その方がシュウイチさんも戦いやすいと思うから!」


 アイリスに言われた通りに疑問を持ったままの美遊達も追いかけるように走りだした。




「・・・っとまあ、ざっとこう言う事だ」

『へぇ~。あの[絶対兵器アブソリュートウエポン]って言ってた人がますたーの中にいるんだ・・・なんかやらしい!ずるい!!私もますたーと合体したいぃ~っ!!!』

「お前の方がやらしいっての」

『っ!それよりも、ますたー!』

「ああ、わーってるよ」


 先程リザードマンの飛んで行った浮遊島を見つめる。


「シュウイチさん!」


 アイリス達が周一の所まで駆けつける。


「んじゃ揃った所で。第2ラウンドで決着をつけますかね」

『チュートリアル戦は手短にっ、だよ!!』

「っ!?」


 この戦いをチュートリアル呼ばわりするイリスに憤りを感じた美遊だった。


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