四章06
「な、なに?」
それと同時に電話のベルが鳴る。寮の中で電話があるのは寮母室だけだ。ベルの音がすぐに消えたのでちょうど在室中だった寮母が受け答えをしているらしい。
そしてしばらく経った直後、血相を変えた寮母が部屋を飛び出してきた。
「寮母さん! 一体何が!?」
「委員長さん!? あ、スズさんにリュウガさんも、ちょうど良かったわ!」
委員長の呼びかけに寮母が振り向くと、そこにスズと龍雅の姿も発見して駆け寄ってくる。
「一番に知らせなきゃいけない子たちがすぐ近くにいてくれて助かったわ」
「いったい何が? サイレンもすっごい鳴ってるし」
「町の中に水の魔物に似て非なる負の魔法生物かもしれない何かが現れたって連絡が」
「!?」
委員長と龍雅の顔色が変わる。スズの表情が変わることは無いが、不穏な空気は感じている。
そして更に寮母が付け加えた言葉に、三人は戦慄する。
「しかもその発見された数が、6体」
「6体!?」
委員長が思わず叫ぶ。龍雅も動揺しているのは隠せない。スズも、それがあまりにも危険な知らせであるのは理解できる。
寮母は伝えるべきことを三人に伝えると「私は寮の他の子たちに知らせないといけないから!」と、廊下を駆けていった。
「6体って……もしかして一日1体ずつ作り貯めをしていたってことなんですかね」
とんでもないことが起こり始めているこの状況に、龍雅が務めて冷静に状況を判断しようとする。
「でもそうなのだとしたら、あれから一週間でしょ。1体足らなくない?」
龍雅に指摘されて冷静さを取り戻した委員長が、自分の考えを付け加える。
「じゃあその最後の1体が」
「スズを狙ってくる……ってのは、今一番に考えないといけないことよね」
委員長が重い表情で語る。
「それに、町中で暴れてる6体が全部だとしても、それの他に負の魔法生物は必ず一体はいるってことになる」
フード付きマントに身を包む相手は、写真鑑定で先代魔法少女により正体が発見された後にその存在が水保や陸保にも知らされたが、やはりその隠伏能力により所在が掴めないらしい。だが、この町にこんな混乱を巻き起こしたのはこの負の魔法生物に違いなく、どこかに隠れて機会を窺っているのは容易に想像できる。
「私やスズも含めた魔法少女を中心とした戦闘ユニットの殲滅が目的であるなら、それだけいっぱい作った怪生物を全部私たちに差し向けるのが一番効率が良いはず」
「でも、現状ではそれをしていない、ということですよね」
「そうよ」
「――」
全ての持ち駒で一気に強襲しないでわざわざ分散して放ったのは、別の目的があるからだ。
別の目的。
町中に放たれた怪生物は、水保と陸保の全駆逐部隊をこの町に集結させても、その全ての駆逐には一晩かかるだろう。つまりその間、他の場所で誰かが同種の危険に犯されても、誰も助けに来ない。
つまりこれは陽動。
負の魔法生物と水の魔物系への防衛手段を飽和させ、本隊は目的のものへと向かう。
そしてその目的のものとは、自動人形に他ならない。
「――」
スズもなんでこうまでして自分自身を狙ってくるのか分析できないが、そこまでして超越技術の塊を奪取しようと画策する者がいるのは事実。ここに来て遂に、一連の怪生物関係の騒動は、スズの奪取が目的であるのが判明した。
「多分増援を完全に断つ作戦なんでしょうね、これだけの数の怪生物を解き放ったということは」
「決戦をしかけてきたってことか……向こうから」
「多分水保にも陸保にも応援を頼んでも来てくれないでしょう」
龍雅が自分たちが今置かれているの状況を判断する。
多量の刺客を町中にばら撒いて、その手の怪しいものの駆逐組織である水上保安庁や陸上保安庁の手を全て使い切りさせ、本来の目標を狙う。敵の意図はそれに違いない。だから頼れるのは自分たちの力のみ。
「なぁに、魔法少女に水保の女戦士に戦闘もいける自動人形っていう結構なメンツが揃ってるのよ? 大概の敵は倒せるわよ」
「風使いもおりますぞ」
そう言いながら玄関口から一体のカカシが中に飛び込んできた。
「ゼファー……」
そう、すっかり忘れていたが、魔法少女である委員長のお供には、大魔導師級の魔力を秘めた風使いがいるのだ。
「普段のアンタは薪にするしか利用価値がないけど、今日ばかりはアンタが居てくれて良かったと思うことはないわ」
「お褒めにあずかり恐悦至極」
中身はド変態であるが頼りになるのは間違いない。これだけのメンバーが揃えば、結構な強敵であっても退けられるだろう。
「娘殿が今度ブルマ姿で一日我輩の前をうろうろしてくれましたらそれで十分ですぞ」
「……全員何事もなく無事にここに帰ってこれたらそれぐらいしてあげるわよ」
「ぶかぶかではなくてちゃんとおヒップにピッタリのサイズでお願いしますぞ」
「わかってるわよ! ハミケツするぐらいの穿いてやるわよ! でもその時は……」
委員長がそこで龍雅の方に顔を向ける。
「水保って火炎放射戦車あるでしょ。あれ今度貸して、コイツ丸焼きにするから」
「了解です」
龍雅は委員長の頼みを一も二もなく請け負った。おっとり気味の彼女も、さすがにゼファーは最後は薪にしなければならないと認識しているらしい。
「さて、ここでじっとしていたら、寮が巻き込まれるわね」
敵の目標がスズと分かった以上、こちらも迎え撃つ準備ができるのは良いのだが、それでもこの場所に留まり続けるわけにはいかない。
「どこか広い場所とかが良いですね、遮蔽物の無い」
「海岸線とかかな」
「でもそれですと、周りの砂は東京湾の砂でもありますからな。相手に有効なフィールドとなってしまうやも知れません」
「そうなると内陸……結局あそこか」
「やっぱりそうなりますよね」
「決戦場はやはりあそこになりますかな」
「――」
そうやって作戦を立てていく三人の姿を、スズはどうしても理解できないまま見ていた。
何故みなさんはこんなにも、私を必死に守ろうとしてくれるのでしょう。
ともだちという理由だけでこんなにも必死に、それも命懸けで守ろうとしてくれようとしている。
作り物でしかない私を。
それがスズの分かりかけていた人の気持ちというものを、振り出しに戻すかのように更に不可解にさせる。
「――」




