四章05
「ただいま戻りました」
本日の授業を終えてスズが寮へと帰ってきた。
ここへは委員長ともちろん護衛の龍雅と一緒に帰ってきたのであるが、直前になって「ちょっとやることがあるので」と二人してどこかに行ってしまったので、今はスズ一人である。
右手の鞄、左手に水の入ったバケツといつもの帰宅スタイルで玄関のドアを通り抜けたスズは、自分用の箱の前に辿り着いた時、自分の予測範囲外の光景に遭遇し、思わず停止してしまった。
「――」
「スズさんお待たせしました……って、あれ?」
下駄箱と上り框の間のスペースを見下ろしたまま固まっているスズを発見して何かあったのかと龍雅も隣に立つが
「どうしましたスズさ――」
龍雅もそこまで言って動きが止まってしまった。
「――」
「……」
「いやーお待たせお待たせ……って、ふたりともどしたの?」
下駄箱と上り框の間のスペースを見下ろしたまま二人して固まっている姿を見て、何があったのかと委員長も近づいてくる。
「……あ」
二人の間から顔を出すようにした委員長は、何故二人が固まったままなのかという理由を発見した。
「猫?」
スズが足を洗う時に腰掛けるように作った箱の上に、猫が一匹気持ち良さそうに丸くなっていた。
「あらま、スズの箱を取られちゃってたのね」
委員長はその事実に苦笑する。スズは眠っている猫を相手にどうしようかと考えていたらしい。追いついた龍雅も護衛の対象がそんなだから、一緒に待っている様子。
しかし穏やかな午後の日差しを浴びて温まっていたスズの箱は最高の寝床であるらしく、目を瞑っている猫が起きる気配は全く無い。
「まぁ猫を起こすのが申し訳ないってんなら、いつもみたいに上り框に直接座って足洗ったら?」
委員長はそう言いながら少し後ろに下がった。
「どうしました委員長さん? 猫は苦手ですか?」
そうやって猫から少し逃げる素振りを見せている委員長に、スズが尋ねた。
「苦手じゃなくて大好きよ。でも……」
「でも?」
「私……動物アレルギーなのよ……ふぁ、ふぁ」
言ってるそばから委員長は鼻をひくひくさせ
「……ぶぁゃあぁっくしょっぉん!」
花の女子高生が発したとはとても思えないような爆音が轟いた。眠っていた猫はその瞬間飛び上がるように目を覚まし、そのままの勢いで箱から飛び降りて三人の間をすり抜けて逃げてしまった。
「……ごめんなさい」
鼻をずびずびさせながら、委員長が申し訳なさそうに言う。龍雅はその後ろで小さく苦笑していた。
「――」
こうやって友達と呼べる存在と、何気ない日常を過ごしていく行為に、安心というものが含まれているのがスズには分かりかけていた。
これがしあわせというものなのだろうかと。
こんな日々がずっと続くのなら、平穏な時間の中にいつまでもいてみたいと感知する。それが人の心なのだろうか? スズにはまだ分からない。
自分は機械神から落ちてきたものだ。だから機械神の中へ戻り、その中での作業機器としての生活に復帰することが、自分にとっての安心ではないのだろうか?
でも、もし……落ちてきたことに何か目的があったのだとしたら?
自分がここに居ることに何か意味があるのだとしたら?
「――いえ、おかげで箱が使えるようになりましたので」
自分の中に生まれた不可解な感覚を払拭するようにスズがそう言いながらバケツを置いて箱に腰掛けようとした。――その時、
町中に設置されたスピーカーというスピーカーから緊急事態を知らせるサイレンが鳴り響いた。
「!?」




