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灼熱の犬飼さん ~おおかみむすめの高校生活~(龍焔の機械神)  作者: いちにちごう
変形少女(仮)~東京湾物語3・龍焔の機械神~
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四章04

 夕暮れを過ごしすぎて宵の口になった頃、三人は再び寮へと帰ってきた。


「本来の目的を忘れてしまっていたわ」


 私服姿の委員長が、今日二度目に寮の玄関を抜けて疲れたように言う。


 まずは駅前のストアに向かい箱制作のための材料を入手した一行は、そのまま洋服店へと直行する。まるでそちらの方が主目的のように。


 そうしてスズをマネキン代わりにしてあれこれ選んでいたら、日が暮れてしまっていたのだった。


「――」


 足を綺麗にして上り框に上がり室内歩行仕様となったスズは、今の自分の姿を見下ろしてみる。


 秋らしい落ち着いた色合いのワンピース。熱さや寒さからの保護があまり必要が無い自分にとっては、ただの埃カバーにしかならないのが申し訳ないくらいの一品。


 そうして両脚にはオーバーニーソックス。


 スズは右脚の義足は元より、左足から下も人間とは違って常に固定されているので普通の状態では履けないのだが、ダメ元で裾上げをしてもらえるかと頼むと「できますよ」と言われたので両脚分を加工してもらった。


 ロングパンツの裾上げの要領で短くしてもらった、太ももと膝しか覆わないオーバーニーソックスをスズは右脚に履いている。左の方は足首から下を切って短くしてもらった。なんだか両脚ともレッグウォーマーのようになってしまったが、スズの脚部に履かせるのだから仕方ない。


 そんな風に三人で服選びを満喫してしまっていたら、あっという間に夕方の時刻となってしまい、本日中の箱制作はできなくなってしまった。まぁ、楽しい時とは過ぎるのが早いものなので、仕方ない。


「明日は一日休みだし、いっか」


 廊下に上がり自室に戻ってきた委員長が、買ってきた材料を降ろしながら言う。


「三人がかりで作ればすぐにできますよ」


 とりあえず部屋までついてきた龍雅が長袋に収めた艦颶槌を床に置きながら言う。今の彼女はスズの護衛なのでこれを常に持ったままなのは仕方ない。何か言われても彼女は水上保安庁の正規隊員であり、疾風弾重工の新型試作機(表向きはそうである)の直衛と言う任務実行中なので問題は無いはずなのだが、女子高生が長重武器を持ち歩いているという物騒な絵図らはどうにもならない。


「そうよね。三人寄れば文殊の知恵ってね」

「三本の矢じゃありませんでしたっけ?」

「三匹の子豚?」

「まぁ三人寄ればなんとかなるってことよ!」




 明けて翌日。


 朝食を済ませた三人――スズは相変わらず水のみだが――は、午前中の早い時間帯から寮の庭に集合していた。三人とも丸首シャツにハーフパンツの体操着姿。スズの場合は実は素っ裸の方がこの手の作業では効率が良いのだが(元々その用途で作られているものであるし)こう言うのは何ごとも形から入るものである。


 ちなみに疾風高校は実はハーフパンツとブルマが選択式だったりするのだが(ハーフパンツだと日焼け跡が格好悪いと過去に女生徒から猛抗議があったため)三人とも普通にハーフパンツである。


「道具OK?」

「いつでも」


 龍雅が寮備え付けのもの(ちゃんと揃っていた)を借りてきた大工道具一式が準備万端であることを告げる。


「材料OK?」

「こちらもいつでも」


 昨日買ってきた板や太い角材や釘もちゃんと揃っていることをスズが告げる。


「じゃあ、作業開始!」




「作業終了! ……あれ?」


 まだまだお昼にも程遠い、本物の大工であれば午前中の休憩時間くらいなのではないかという時間に、30立方センチほどの正方形の箱ができてしまっていた。


「……というかなんでこんなに早くできちゃうの?」


 使いかけの紙やすりを掴んだまま、唖然とした顔で委員長が言う。


「元々私はこの手の工作作業を行うために作られた自動人形ものですし」


 余った材料を片付けながら、なんでそんなに不思議そうな顔をしているのですかといった風にスズが言う。彼女の場合、機械神の中ではその多くが鉄を加工する仕事なのだろうから、自動人形オートマータの作業能力であれば木工など一瞬で終わってしまうだろう。


「わたしも戦車の整備をいつもしてますので、この手の作業も慣れました」


 龍雅も龍雅で戦車乗りなのだから整備はお手の物であり、修理用の代替品をその場にある材料で作ったりと、簡単な工作も普通にこなせる。


「……あの、今日一日かけてキャッキャウフフって感じに仲良く手作りするんじゃないの?」


 仲の良い三人が寮の庭に集まった日曜日。そこで楽しくお喋りしながらの外での作業。


 穏やかな秋の休日を過ごすには絶好の予定であったと思ったのに、自分以外の他二名が女の子が普通苦手とする工作能力に長けた者たちだとは迂闊であった。三人寄ればなんとかなったが、なんとかなりすぎである。


「じゃあ今から戦車の木模型ソリッドモデルでも作りましょうか? わたしの乗ってるいつもの車両でよければ図面引きますよ、何分の一が良いですか?」

「いや、もういいです……」


 それを聞いて工作が続くのであれば任せろと言わんばかりに、鋸などの用意を再び始めたスズの姿を見て「こんなの女の子の過ごす休日じゃない」とガックリ来てしまった委員長は、もう今日は解散で良いやと思ってしまった。


「まぁとりあえずできたこれを設置してみるか、玄関に」

「そうですね」


 三人は道具と材料まとめて邪魔にならない場所に置くと、そのまま寮の玄関へと向かった。完成品はこれから毎日使うことになるスズが持っている。龍雅が途中でバケツに水を汲んで後に続く。


「どこに置きましょうか」

「下駄箱と上り框の間に少し隙間が開いてるよね」


 前はここに壺型の傘立てがあったらしいのだが、以前誰かが割ってしまったので空白のスペースとなっている。


「そこで良いんじゃない?」

「ではさっそく」


 スズは身をかがめると、上り框と下駄箱の間の小さいスペースにそれを置いた。三人共同制作による箱は若干の余裕をもってそこにはまった。


「ぴったりですね」


 自分で作った物でもあるのだけれど、それでも感心するように龍雅が言う。


「じゃあさっそく使ってみなよスズ」

「了解です」


 スズは上り框と下駄箱の間に置いた箱の上に静かに腰を降ろした。野太い木材を選んで支柱にしているので破損はないと思うが、それでもいきなり壊しては面目ないので慎重だ。


「良い感じです」

「どう? ぐらぐらしたりとかしない?」

「それも大丈夫です」


 使い込んだらどこかがズレてくるのは仕方ないが、完成直後のこれにそれが無いのであれば当分は大丈夫。


 手製の箱の強度を試したスズに「どうぞ」と水入りのバケツを龍雅が手渡す。スズは「ありがとうございます」と受け取り、いつものように足と義足を洗い始めた。


「どう、スズ?」

「凄い楽です。作業がかなり迅速になります」


 洗ったらそのまま上り框の方に綺麗になった足を乗せられるので非常に効率が良い。箱一つでこんなにも作業能率が変わるのだから不思議なものだなとスズも思考する。


 通常の倍以上の速さを持って左足と義足を綺麗にしたスズは、床を傷つけないようにゆっくりと板の間の廊下に上がった。


「スリッパとカバーは?」

「すみません、試用だけだと思っていたので庭の方です」

「……考えてみたらスズにも下駄箱は必要だよね」

「ですよね」


 委員長と龍雅が顔を見合わせる。二人とも同じ意見だ。


 スズは靴を履かない(履けない)ので、下駄箱の使用は必要ないとこの女子寮では今まで与えられていなかったのだが、考えてみたらスズの場合は皆のように外履き用では無く、スリッパと義足カバーを入れておく上履き用の物が必要である。


「じゃあ残った片付けが全部終わったら、その辺りのことも寮母さんのところへお願いに行こう」

「そうですね」

「何から何まですみません」

「いいっていいって。困った時はお互い様よ。私たちともだちでしょ」

「――」


 委員長は隣の龍雅に庭を全部片付けて来ようと促すと、二人で玄関を出ようとした。


「だったら私も」


 そんな二人にスズも着いていこうするが


「せっかく足を洗ったばっかりなんだからスズはいいってば。そのまま先に部屋に戻ってな。ゆっくり歩いてけばカバー無しでも床も傷つかないでしょ」


 委員長はそう言うと龍雅を連れて、最終的な片付けのために庭の方に戻った。


「――」


 しかし一人で戻る動作には移りたくないと思考したスズは、二人が戻ってくるまでこの玄関先で時を過ごすことにした。


 上り框と下駄箱の間に置いた箱。


 自分たち三人――ともだちと呼んでもらえた仲間と一緒に作った小さな作品を、スズはいつまでも見ていたい気分だった。


「これが嬉しい、という気持ちなんでしょうね……」




 その日の夜更けになり、雪火の空いている時間に合わせて迎えに来たパワードリフト機に乗り込んだスズは、第参東京海堡を訪れていた。


 この機体には移動中に護衛をする者が乗り込んでいるので、龍雅は寮の方で休んでいる。こういう機会にでもちゃんと休ませておかなければ、いざと言う時に疲弊していてはどうにもならないので、その辺りはちゃんと交代要員が配置されている。


「お帰り、我が娘よ」


 雪火は今回は機械使徒の格納庫で待っていたので長い通路と昇降機エレベーターを一人で進んで、ここまで辿り着いた。


「ただいま戻りました」


 雪火に迎え入れられたその場所では、スズの複製品たちの動作試験が行われていて、雪火はそれを視察していたらしい。


「私の妹達は動くようになったのですか?」


「簡単な歩行とかはできるようになったけど、あなたみたいに複雑な動きは全然駄目ね。敵をぶん殴るとか単純な動きだったら大丈夫みたいだけど、それじゃ意味が無いし」


 スズが蛸型怪生物との戦いで発揮した戦闘記録も、この複製品たちには既に反映されているのだろう。しかしあくまで彼女たちは機械使徒を動かすための作業機械なので、戦闘人形として配備可能となっても本来の必要用途からは逸れてしまう。


 作業員がコンソールに入力するごとに複製品たちが何がしかの動きを見せるのだが、やはりそれが工場に設置されている自動製造マシン以上の動きをしていないのはスズにも分かる。


「どう、学校生活は?」


 そんな、全く進展の見られない疾風弾重工製自動人形の製造風景の視察に飽きたのか、雪火がスズをここまで呼び寄せた本来の目的を振った。


 スズは水曜日にあった身体測定での失敗や、今日三人で作った箱など、今まで雪火が忙しくて会えなかった時間に起こったことを、包み隠さず全部報告していく。


「というかあなたがダイエットって……なんか良い感じに毒されてきてない、みんなに?」


 その水曜日の一件を聞いて、さしもの疾風弾財団総帥も呆れ顔を隠せない。


「それとあなたは貴重な稼動状態にある自動人形の一体なんだから、そんな無茶しちゃ駄目でしょ」

「すみません」

「まぁ私の言いつけを守って色んなことにチャレンジしてくれるのはありがたいけど、あなたが破損しない程度にほどほどにね」

「了解です」


 今スズは雪火から減量のことを厳しく注意されたのだが、以前にもっと危険な状態にあった怪生物との戦闘の時より厳重に注意されたような気がしていた。

 注意に要する危険度がまるで反比例しているとスズは思考するのだが、なぜ逆なのだろと更に沈思する。


「そういえば母さん、私始めてプレゼントというものをいただきました」


 しかし報告するべきことはまだあるので、スズは答えの分からない思考を途中で打ち切り、次の話題へ切り替えた。


「え? マジで!? なに男の子から? 告られた?」

「同じ部屋の委員長さんと、護衛をしてくれているリュウガさんからです」


 養母からの矢継ぎ早の質問を、養女はあまりにも鮮やかにかわす。


「なんだいつものメンツか……でも、その二人からプレゼントってのも良い話だわね。なにもらったの?」

「服を」

「マジで!?」


 そういえば自分からはスズには私服と言うものを用意してあげることが無かった事実に(寝巻きは寮母が用意してくれたらしい)、雪火は二人に先を越された悔しさを少し覚えたが、スズと一番仲良くしてくれる二人からのものであるから悪い気はしない。娘を嫁に盗られたような良い意味の悔しさだ。


「でも今日はその二人がくれたプレゼントを着てきてくれたわけじゃないんだ……」

「学生は制服が礼服だと記憶領域にありますので、それに従ったまでなのですが」

「あ、そっか。じゃあ何か私用で機会があればちゃんと着てきてよね、母さんも見たいから」

「はい、お約束します」

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