夢佳の水泳への想いと、身体の変化
夢佳は幼い頃から負けず嫌いで、近所に住む健ちゃんと一緒に幼稚園に通い、よく遊んでいた。
しかし「夢ちゃん、すぐ叩くから嫌い!」と、健ちゃんを泣かせることもしばしばだった。
小学生になると、女の子と遊ぶよりも男の子たちと戦隊ごっこをして過ごすことが増えた。だが、いつも「○○ピンク」のような女性キャラのポジションに置かれ、敵役に襲われて他のレンジャーに助けられる役に不満を感じていた。夢佳は強い女性キャラとして、敵役の男の子たちを蹴散らした。
時には複数の男の子と喧嘩になり、金蹴りなどの少し卑怯な手を使ってでも泣かせて勝つ。その「勝利する感覚」がたまらなく気持ちよかった。
よく母と一緒に男の子の親へ謝りに行き、母からは「もう少し女の子らしくしなさい」と叱られた。しかし夢佳にとって、「女らしい」という言葉の意味が分からなかった。同級生の女の子たちのように人形でごっこ遊びをしたり、絵を描いたり、おしゃれに興味を持ったりすることも全くないまま、毎日男の子たちと駆けずり回っていた。
そんな夢佳にも、変化が訪れた。
男の子たちが塾に通い始め、遊びの中心がゲームへと変わっていったのだ。さらに、夢佳の身体もいつまでも男の子のように過ごすことを許してはくれなかった。男子との体力の差が出始め、女の子としての身体の変化(初潮)もやってきた。
夢佳の中に何か悶々とした思いが募っていた時、出会ったのが「水泳」だった。
テレビで見たオリンピック女子選手の活躍に心を打たれ、「私もあの舞台に立ちたい!」という強い思いから、母親に無理を言って近所のスイミングスクールに通わせてもらった。最初は上手く泳げなかったものの、持ち前の負けん気でメキメキと頭角を現し、中学3年間は全国中学生水泳大会で優勝するほどの実績を叩き出した。
1秒を縮める自分との戦い。そこには、小学生の時に感じた男の子との体力差や性別など関係なかった。泳いでいる時こそが、夢佳にとって自分自身を誇れる時間だった。
だが、そんな夢佳にも挫折が訪れる。
毎日のハードな練習を乗り越え、高校3年生になった夢佳は順調に大会を勝ち進み、全国高等学校総合体育大会への出場権を獲得した。
しかし、激しい練習は身体に大きな負担をかけており、この3ヶ月間、月経が止まっていた。
それなのに、決勝の朝——私は、普通の女の子の身体だよと言わんばかりに急に主張し始めた。
インターハイ当日の朝、下腹部のズンとした重だるい感覚で目が覚めた。
「えっ! なんでこんな大事な日の朝にくるの!?」
夢佳は自分の身体を深く恨んだ。生理が止まるほど頑張って練習を重ねてきたのに、なぜこんな日に邪魔をするのかと、女性であること自体に苛立ちを覚えた。それでも女性の顧問の先生に相談し、タンポンを使用して試合に挑んだ。
結果は準優勝。いつものパフォーマンスを出すことはできなかった。
インターハイ準優勝は素晴らしい実績だが、トップだけを目指してきた夢佳にとっては到底受け入れられない結果だった。ショックのあまり、しばらくは何も考えられなかった。
大会が終わり、普通の生活に戻ると、周りでは進路の話題が増えていた。
同級生の半分は特別推薦枠で進路が決まり暇そうにしていたが、水泳一筋だった夢佳はその流れに乗り損ねていた。改めて将来について考えようとしても全く興味が湧かず、親からも進路についてとやかく言われ、悩み続ける日々が続いた。
ある放課後、気持ちをスッキリさせたい夢佳は、いつものようにプールに向かい軽く泳ぐことにした。
そして、先生と夢佳のアレ入れ替わり事件が起こったのだった。
◇
「起立、礼。ありがとうございました、さようなら」
今日の授業が終わり、部活へと向かう夢佳。部室へ行く前にトイレにより、アソコの状況を確認しに行った。
スカートを捲り、先生に買ってもらったタップパンツを脱ぎ、さらに先生から買ってもらったサポーターを脱いで確認する。養生テープで押さえられた先生の「アレ」は、少し赤くなっていた。
これから泳ぐため、しっかりと押さえ直さなければならない。夢佳は貼っていた養生テープをベリベリと剥がした。
その瞬間、強烈な痛みが走る。今まで経験したことのない場所からくる、何とも言えない初めての痛みだった。痛みに耐えながら何重にもテープを貼り直し、膨らみが分からないように処理をした上でサポーターを穿き、何事もないような顔をして部室へ向かった。
そこには、しばらく部活を休んでいた、同じ3年生で部活仲間の麻央がいた。
「夢ぇ! 大会準優勝おめでとう! すごいよ、あのキツい練習を頑張った甲斐があったじゃん!」
屈託のない言葉をかけてくる麻央。夢佳にとっては不本意な結果だったが、周囲から見れば快挙だった。しかし今の夢佳はそれどころではなく、先生の「アレ」が目立たずに水着を着られるかどうかで頭がいっぱいだった。
「ありがとう」と当たり障りのない返事をしながら、着替えを始める。
麻央に見えないよう腰にタオルを巻き、スカートとタップパンツを脱いで、その上から競泳水着を着た。競泳水着はハイレグ気味で股間の布地が少ない上、伸縮性があるため膨らみがあればすぐに分かってしまう。昨晩、自分の部屋でさまざまな方法を試し、目立たない固定方法を考え抜いていたのだ。
すると、隣で着替えていた麻央が不思議そうに声をかけてきた。
「いつもすっぽんぽんで着替える夢ちゃんが、タオルを巻いて着替えるなんて珍しいね!」
元々人前で裸になることが苦にならない夢佳は、高校生になった今でも風呂上がりに父親の前を平気で歩くほどだった(むしろ父親の方が「夢! 早く何か着ろよ、こっちが恥ずかしくなるだろ!」と怒るくらいだ)。だから女子更衣室でも、いつもなら隠さずに着替えていた。
麻央に変に思われないよう、夢佳は水着の上から巻いていたタオルをパッと外した。
「変なところ、ないでしょ? 見て!」
麻央に違和感がないかを確認してもらう意味も込めて尋ねた。
「全然普通だよ! でも夢ちゃん、少し筋肉ついた? お腹のところが少し大きくなったよね」
その言葉に焦った夢佳は、必死で取り繕った。
「だ、だって筋肉もつくよ! あれだけハードな練習をこなしたんだもん!」
毎日一緒にいる麻央に気づかれないなら大丈夫だろうと安心し、プールへと入った。次は実際に泳いでみて問題がないか試す番だ。
クロールで軽く2往復、本気で2往復。一度プールサイドへ上がって確認する。
(うん! 大丈夫だ!)
次は平泳ぎで軽く2往復、本気で2往復。同じようにプールサイドへ上がり、バタフライも同様に確認した。さすがに背泳ぎは危険だと判断し、やめておいた。
いける、これならいける!
そう思った矢先、下半身に嫌な違和感が走った。水でテープがふやけ、外れかけていたのだ。夢佳は慌てて腰にタオルを巻き、更衣室のトイレへ駆け込んでテープを貼り直した。
「アレ」を押さえるテストをしながら泳いでいると、夢佳はなぜかいつもより身体が軽く動くことに気がついた。気になった夢佳は、プールサイドにいた麻央に声をかけた。
「麻央! タイム測ってくれない!?」
「よーい、スタート!」
軽い。驚くほど身体が軽い。
(私、こんなに身体が軽かったっけ……?)
思いながら、グングンと水の中を進んでいく。麻央が計測したタイムは、インターハイの直前合宿で出していた記録よりも遥かに良かった。
気持ちいい——。
その後、何度もタイムを測ってもらったが、どれも素晴らしい記録だった。途中で何度かテープを貼り直しに向かう手間はかかったものの、夢佳は楽しくて何度も何度も泳ぎ続けた。あまり疲れない。タイムも良い。まるで身体の奥底からエネルギーが湧き出してくるようだった。
「泳ぐのがこんなに楽しいなんて……」
久しぶりの感覚と胸の高鳴りを味わいながら、夢佳は帰路についたのだった。




