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瀬戸の御朱印物語  作者: ざこぴぃ
第一章
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プロローグ

 ここは瀬戸内海の西側に位置する、人口五十人程の小さな島。島の名前は鶴島(つるしま)。島民のほとんどは船で本島まで渡り、学校へ通い、仕事をし、生活をしている。なにぶん不便な事も多いが、僕はこの島で生まれ、この海を望む生活環境がとても気に入っている。


 ――二〇二六年三月三十日、愛媛県松山市鶴島。

 僕達は東京からの引っ越しが終わり、実家で荷物の整理をしていた。

 今日は両親と祖母は市内の病院へ船で渡り、僕は一人で荷物の片付けをする予定だった……のだが。

「もう! 春臣(はるおみ)! なしてもっと早くしとかんの!」

「だってまだ時差が……」

「だってもへったくれもあるかい! だいたいね! 東京から戻ったくらいで時差なんかないけんね!」

 彼女は二歳年上の瀬戸千鶴(せとちづる)。生粋の島民で、島から市内の高校へ通う高校三年生だ。

 僕には幼い頃、この島で暮らしていた記憶がある。

 両親と五歳になるまで、母の実家でもある鶴島にいた。その後、父親の仕事の関係で東京へと移り住む。東京に移り住み、約十年暮らしていたのだが、ある時、母親が倒れ、そのまま病気が進行していった。

 ――病名は癌。東京を離れる際には余命三年と言われ、出来る事なら実家のある鶴島で養生したいという母親の希望のもと、父親は仕事を辞め、この島へと戻って来た。既に祖父は亡くなっていた事もあり、孫である僕が島に帰って来た事に、祖母は大変喜んでくれた。


 千鶴は近所に住む世話好きなお姉さん。十年ぶりに会う彼女は何だか大人びて見え、恥ずかしさからか、ついそっけない態度をとってしまう。

「千鶴ねぇ、もういいよ。自分で片付けるから――」

「春臣、この写真の子は?」

「写真?」

 転校をする際に、同級生の皆が写真と寄せ書きをくれたのだが、読む暇もなく段ボールに詰めていた。気付かなかったのだが、寄せ書きの裏には一枚の写真が貼ってあり、マジックで何か書いてあった。

「『春臣君、元気でね! たまには連絡下さい』やって! ふぅん……これが春臣の彼女かぁ。眼鏡が似合っとって、可愛らしいやん。ちょっと道子に似てるかぁ……」

「違うって! それは二年の時の学級委員長で、彼女とかそういうのじゃなくて!」

「ふぅん……そうかなぁ。怪しいなぁ、ふふ」

「ちょ! やめろや! 返せっ!」

「あはは! マジになってんの!」

「何だよ! 千鶴ねぇ! 邪魔するんなら帰れや!」

「はいはい! おじさん! 今日は春臣君が片付けしないから帰りますねっ!春臣君が!」

「もうっ! 親父達は病院からまだ戻ってないから! それにいちいち言わなくていいだ――!」

『――ゴトン』

「――ろ……?」

「……ねぇ、今、何か音した?」

「聞こえた。天井から……だと思う」

「今、家には他に誰もいないよな? 春臣、ちょっと見て来てや」

「何でだよ! 千鶴ねぇが見て来てや!」

「怖いんやろ?」

「こ、怖くなんかないって!」

 そんななすり付け合いをしながら、結局二人で大騒ぎをしながら二階へと向かう。

「春臣の部屋はこの下あたりか?」

「あぁ……そう、その辺」

「何もないわね……」

 そこは二階の廊下の突き当たりだった。

「千鶴ねぇ、やっぱり気のせいだ。降りよう」

「待って! ここに何かある!」

「え?」

「穴みたいな?」

 指が一本入る程の小さい穴が、廊下に開いている。

「春臣、覗いてみてや」

「やだよ、蛇とか虫とか出たら危ないし……」

「自分ちやん! それに都会っ子になって、虫が怖いとかありえん! ほんと、昔っからそう! 諦めんのはやってからにしいや!」

 そう言うと、彼女は指先を突っ込むと勢い良く板を持ち上げた。たくましいというか何というか、その背中は小さい頃に見た優しく強い背中を思い出させた。

「開いたわよ。春臣、板持っといて。どれどれ……」

「う、うん」

 そう言うと彼女は廊下の板を僕に渡すと身を乗り出し、床下の中に頭を入れる。

「うぅん……隠し部屋かと思ったら、頭しか入らん。ん? 何かある」

「千鶴ねぇ、もういいよ。閉めておこうや」

「これ……何?」

 彼女はそのまま両手を床下に突っ込み、ごそごそと何かを引き寄せている様だった。

「千鶴ねぇ、何かあった?」

「うん……っとちょっと待って……もう少し……指が届かん――!」

 廊下に寝そべり、手をめいっぱい伸ばす彼女は、そのまま何かを掴んで床上へと持ち上げる。

「取れた! ごほっ! うぇ、ホコリっぽい!」

 嬉しそうに言う彼女は、小さな葛籠(つづら)を持っていた。それは埃を被り、かなり古く、藁で編んだ葛籠の箱だった。

「お宝かな?」

「ごほっ! ごほっ! どうなんやろ? 開けてみる?」

「うん」

 廊下の上に葛籠を置き、ゆっくりと蓋を開ける。こんなにわくわくするのはいつぶりだろう? 内心、古い硬貨でも出ないかと期待する。

「ん? 何これ……?」

「本……?」

 中には二冊の本と陶器で出来た手の平に収まるくらいの小さい狐の置き物が入っていた。一冊は『家系図』と表紙に書かれ、もう一冊は表紙に『狐メニ嫁入リ』と書かれている。その本を千鶴が開く。

「千鶴ねぇ! これ! あるある鑑定団呼ぶやつやん!?」

「ま、待って! えぇ! 読めん! これ何て書いてあるんやろ?」

 漢字の様な文字が蛇の様に連なり、文章の様ではあるが、到底読めるものではない。

「最後に書いてある文字は何となくだけど……。願望……成就……? 明治十一年四月二日……て書いてある様にも見える」

「それって願いが叶うって事なんやろか!?」

「でもほとんど読めん……。詳しい人に見てもらわんとこれじゃぁ、わからんな……」

「千鶴ねぇ、これ誰かに見せたら横取りされない?」

「それもそうやな。でも春臣は叶えたい願いがあるん?」

「僕じゃないよ。千鶴ねぇにはまだ言ってなかったけど、母さんが癌で、今日も病院に行ってて……」

「え! おばちゃんが!? そうなんや……それは何とかしてあげたいねぇ。かと言って、これ以上は読めんし、どうしたら……」

「ちょ……千鶴ねぇ……? 何持ってるの……?」

「ん? 何って?」

 千鶴が右手を開くと、先程葛籠に入っていた狐の置き物を握っていた。

「え……」

「何……」

 ただ……頭の部分がぽっきり折れている。取り出した時は繋がっていたはずなのに。

「ぎゃぁぁぁ!頭! 頭! 頭!」

「千鶴ねぇ! 落ち着いて! くっつけて!」

「ふぅ……ふぅ……。〽頭~頭頭~♪ 頭が取れると~♪ 体~体体~♪ 体が~寂しい~……ふんぎゃぁぁぁ!!」

「うるせぇ! 替え歌なんか歌ってないで頭を戻せって!!」

「無理無理無理無理!!」

『ようやく会えた……』

「えっ? 春臣、何か言うた?」

「へ? 何も言うとらんけど――」

 と、盛り上がった所にタイミング悪く両親達が帰ってくる声が聞こえた。

「春臣! 帰ったぞ! あれ? 靴が二足ある。友達でも来とるんか?」

「父さん達が帰って来た!」

 慌てて葛籠に『家系図』と書かれた本と、首の折れた狐の置物をしまい、元の場所に戻すと廊下の板をはめ込む。

「は、春臣、これは二人だけの秘密やけんね!」

「う、うん、分かった。本は千鶴ねぇが持ってて! 何か分かったら教えて! 置き物の頭は後で接着剤でくっつけとく!」

 そう言うと急いで連絡先を交換し、一階へと下りた。

「お、おかえり!」

「春臣、二階におったんか。片付けは済んだんか? あれ? 千鶴さんが来とったんか、いらっしゃい」

「おじさん、おばさんこんにちは!」

「千鶴さん。体の方は大丈夫なん? 無理せられんよ」

「はい! おばさん! この通り!」

「え? 千鶴ねぇ、どっか悪いん?」

「大丈夫やって! それより春臣は片付けをしなさい! か・た・づ・け!」

「分かっとるよ。千鶴ねぇまで、母さんみたいな言い方せんとって」

「あははっ! それじゃ帰ってこぉわいっ!」

「はいはい、千鶴さんくれぐれも気を付けてね」

「はい! おばさんもお体を大切にっ!」

 ――この後、千鶴は体調を崩し、しばらく入院していたと父さんから後で聞いた。


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