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悪役令嬢は物語に支配された世界を、文明で解放する  作者: 南蛇井


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第62話 違和感

グレイウッド。


中央区画。


リリアは歩く。


ゆっくりと。


だが。


視線は忙しい。


止まらない。


すべてを見ようとする。


すべてを理解しようとする。


だが。


追いつかない。


情報が多すぎる。


いや。


問題はそこではない。


“違和感”。


それが消えない。


案内人の後ろを歩きながら。


リリアは周囲を見る。


市場。


人々。


会話。


笑顔。


自然。


作られたものには見えない。


演技でもない。


本物。


それが分かる。


だからこそ。


困る。


「……」


言葉が出ない。


隣を歩く騎士が小さく言う。


「静かですね」


リリアは視線を動かさないまま答える。


「ええ」


短い返事。


それ以上は続かない。


騎士もそれ以上聞かない。


空気を読む。


今は。


軽い会話をする場ではない。


リリアは足を止める。


視線の先。


子供たち。


走っている。


笑っている。


追いかけ合う。


転ぶ。


起きる。


また笑う。


普通の光景。


だが。


普通ではない。


痩せていない。


怯えていない。


誰も飢えていない。


誰も恐れていない。


それが。


異常。


リリアの胸が締まる。


記憶がよぎる。


王都の外。


貧しい村。


助けを求める人々。


祈る声。


神にすがる姿。


それが。


この都市にはない。


必要がないかのように。


リリアは小さく息を吐く。


理解しようとする。


だが。


答えが出ない。


歩き出す。


再び。


通りを進む。


店。


商品。


人の流れ。


すべてが。


滑らか。


滞りがない。


争いがない。


奪い合いもない。


自然に分配されている。


「……どうして」


また。


同じ言葉。


だが。


今度は。


少し違う。


疑問ではなく。


困惑。


さらに進む。


一角。


診療所。


中が見える。


患者。


だが。


表情は穏やか。


苦しみが少ない。


処置が早い。


的確。


無駄がない。


リリアは立ち止まる。


見つめる。


長く。


そして。


理解する。


「……防いでいる」


病を。


起きる前に。


その発想。


神殿とは違う。


祈りではなく。


技術。


その違い。


重い。


リリアの中で。


何かが揺れる。


信じてきたもの。


それが。


静かに。


問いかけられている。


歩く。


さらに奥へ。


建物。


整然。


人々。


落ち着いている。


誰も焦っていない。


余裕がある。


その空気。


リリアは感じ取る。


そして。


ようやく。


言葉にする。


「……悪じゃない」


小さく。


だが。


はっきりと。


騎士が一瞬だけ視線を向ける。


驚き。


当然。


聖女の口から出る言葉ではない。


本来なら。


異端。


排除すべき存在。


それが。


目の前にある。


だが。


否定できない。


リリア自身が。


そう感じている。


「……」


沈黙。


リリアは自分の言葉を反芻する。


悪ではない。


では。


何なのか。


答えは出ない。


だが。


一つだけ確かなこと。


“敵ではない”。


少なくとも。


今見える範囲では。


その認識。


大きな転換。


聖女としての役割。


世界の均衡を守る者。


その立場から見て。


この都市は。


排除対象ではない。


むしろ。


“理想に近い”。


その事実が。


逆に恐ろしい。


なぜなら。


理想は。


常に歪むから。


どこかに。


代償があるはず。


そうでなければ。


成立しない。


リリアは目を閉じる。


一瞬。


思考を止める。


そして。


開く。


決める。


「……会うわ」


静かな声。


だが。


揺れていない。


案内人が振り返る。


すでに理解している。


頷く。


「はい」


短い返答。


道を示す。


都市のさらに奥。


中心へ。


リリアは歩き出す。


迷いはある。


だが。


止まらない。


この違和感の正体。


この都市の本質。


それを知るために。


そして。


自分の役割を。


確かめるために。


一歩。


また一歩。


進む。


その先で待つのは。


答えか。


あるいは。


さらに深い疑問か。


まだ。


分からない。


だが。


確実に近づいている。


この物語の核心へ。

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