転生と反抗
不和を司る闇の住人、ディスコードの先導によって闇の世界、永遠の無秩序の出口を目指す名取達一行。
道中、暇を持て余しディスコードが話を持ちかけるがそこでディスコードの口からジョン神父の恐ろしく非道な計画が語られる事となる。
「永遠の無秩序」と呼ばれる空間に住まう闇の住人、ディスコードに気に入られた事により、この空間の主の元へと案内される途中、暇を持て余しディスコードが歩きながら問いかける。
「時に貴様等よ、そこの男2人は何故此処に来たのかは分かった。どうせ胡散臭い神父の仕業だろう? それはいい、我が気になるのはそこの灰の少女だ」
「え? 私?」
「違う」
「私なの?」
「違う!!」
「「ひぃん」」
ディスコードが振り返って指差す先はルシェルであった。ルシェルは半分分かっていたかのように一切動じない。
ディスコードもそれが分かっていたようににやりと笑った後、振り返ってまた歩き出す。
「貴様はあの胡散臭い神父の一番の愛娘だったな。彼奴も大層大事にしておった……貴様も知っている筈だ。彼奴が貴様の事を『器』と呼んでいるのを」
ルシェルはそう言われると自身の右肩をぎゅっと掴み俯く。
ギルとデスもそんなルシェルを尻目に心配そうな顔をしていた。
「貴様は神父から『絶対に外に出すな』とまで言われているが随分と階層を上がってきたものだな。まさか門番役の小娘2人までも一緒だとは思わなかったが……確か彼奴は下層から上がってきた者は『器』以外は例外なく殺せと言っておったな」
ギルとデスはギクッと動揺を見せた後、最後の言葉が引っ掛かったのか怪訝な様子を見せる。
「ちょっと待ってよ、『器』以外は例外なく殺せってそれって私達も入ってるの? パパは私達も殺せってそういったの?」
「そうだ」
「え……なんで……」
「それは使えん道具など置いておく必要など無いからであろう。小娘共、貴様等は『器』の脱走を阻止する為の門番役に過ぎん。その与えられた役割すら果たせんとなると彼奴にとって小娘共は不要なのだ」
ディスコードから語られる無情な真実にギルとデスは絶望したように青ざめた表情で黙ってしまう。その目には涙が溢れ出しており、静かに両肩を震わせている。
「待ってください、そんなのあまりにも酷過ぎる……とても血縁関係のある娘にやる事じゃないでしょう?」
「人の感性はよく分からんが自身の娘を道具の様に扱うのは我も気に食わんな。現に我は彼奴の言う事など聞くつもりは毛頭無い。我は彼奴の下僕になったつもりは無いからな」
そう言うとディスコードはギルとデスに「近うよれ」と手招きし2人の頭を優しく撫でる。2人もディスコードの裾をギュッと握りその身を預けていた。
名取はジョン神父がそこまでしてルシェルを外に出さない理由が気になってディスコードに聞くことにした。
「その……神父の目的とは一体何なのでしょうか?」
「そうだな、彼奴は何と言っていたか……我はあまり興味がなかった故ほとんど聞き流していたのだが確か……『神への転生』だったか?」
「神への転生?」
「そう、彼奴は人間の肉体と魂を神へと捧げ、その捧げた人間の肉体に神を憑依させる儀式を計画していてな。生贄となった魂は二度と還ることは無いが、その身体には神が宿るのだ。解釈の仕方によっては『神と同一の存在』となると捉える事も可能だろう。彼奴は神への転生とかけて《《転生術》》と呼んでいたな」
「それってつまり……」
「そこの『器』である灰の少女が転生術の贄という訳だ。此奴が贄となりその身に神を宿す事で神へと転生させようという目論見なのだろう」
ディスコードの口から告げられるジョン神父の計画の非道さに思わず言葉を失う。
父親が自身を生贄としてする為に大切に扱っていた事や妹達を計画の為の道具としか見ていなかった事、少女の心で全て受け止められる筈も無くルシェルは自身の肩を掴む手に力が入り、微かに唇を震わせる。
名取も上手く言葉をかけてあげる事も出来ず、しばらくの沈黙が流れる。
そんな中、沈黙を破ったのは新橋だった。
新橋は俯くルシェルの頭に手を置き口を開く。
「丁度いいじゃねぇか、反抗期の理由が出来たな」
その言葉にルシェルは理解が出来ないと言わんばかりの呆気にとられたような表情の顔を上げる。
新橋の顔を見上げると新橋は不器用な笑みを浮かべていた。
「もしそのまま良い子にしてたならルシェルの親父の目論見通りに生贄にされてたがお前は今こうやって親父に反抗して外を目指している。今まではただ『外に出たい』で地上を目指していた訳だがこれだけ理由が出揃えば十分だろ? ガキの頃なんざ誰だって一度は親に反抗するもんさ。ルシェル、お前だって自分の意思を主張して良いんだよ」
新橋は歩きながら遠くを眺め、昔を懐かしむように自身の過去を語り始めた。
「俺はな、昔田舎の里の間で誰が一番偉い奴になるかって争いに巻き込まれてな。血筋や才能を見込まれて俺が一番の候補に挙げられてたんだが俺はそれを嫌ったんだ。でも里の奴らは俺の意見に聞く耳を持たなかった」
「それで、どうしたの?」
「今のお前と同じだ。俺は自分の意思で里を抜けた。誰の目にもつかないのを見計らって手紙も残さずに出ていってやったよ」
ルシェルの頭を撫でながら話す新橋の顔は、ルシェルの目には今までに見せたことのなかった自然な笑顔に見えた。
「多分里で俺はロクでもねぇ奴って言われてるだろうが関係ねぇ。俺は俺のやりたいようにやる、それでいいだろ? 良い子じゃなくたっていい、『やりたい事をやりたい』って言えるのはガキの間だけだ。大人になったらそんな事言えなくなるんだからよ。一度くらいは自分のワガママを通してみるってのも貴重な経験だぜ」
新橋の励ましに元気付けられ、ルシェルの表情が明るくなる。新橋はルシェルだけでなくギルとデスの頭もポンポンと叩き「お前達もだぞ」と優しく声をかける。
その言葉に心の蟠りがとれたのか一気に感情がなだれ込んだ様に新橋に泣きついた。
新橋2人を抱き寄せ号泣する2人の頭を泣き止むまで優しく撫でる。
ディスコードも足を止め、その姿をじっと眺めているのであった。
暫くして泣き疲れたギルとデスを名取と新橋が背負って歩いていると遠くにまたディスコードに劣らぬ気配が待ち受けているのを感じた。
ディスコードは「おっ彼奴は!」とどこか嬉しそうな様子で遠くを見る。
その気配は近くなるにつれて段々と大きくなり、次第に辺り周辺を覆い尽くし、向かいの頭上を染める赤黒い色は向かい側の方では暗い緑に染まっている。
やがてディスコードとその者が相対する頃には頭上の色が境界線のように二分割され、名取達に緊張感が走った。
その者は漆黒の鎧に身を包み、手には巨大なハルバードを携え、堂々とした佇まいで立っていた。
薄橙色の長髪に薔薇の茎のような刺々しい草冠を身に付け、赤い瞳をした女性がそこに立っていた。
もはや敵意剥き出しの鋭い目付きでこちらを睨むその女性に圧倒されながら不安感が名取達を支配した。
「久しぶりだな! コンフュージョンよ!」
「……何をしに来た」
「此奴等をカオスの元へ連れてってやってくれ!」
「断る」
凄まじいテンポで頼みを断られた挙句こちらに向けてハルバードの刃先を向けてくるコンフュージョンという女性はディスコードの言う「少々気難しい奴」なんてレベルのものでは無い程、協力する気を微塵も感じられなかった。
ディスコードは振り返るとガハハと笑い名取の肩を叩いた。
「だそうだ! 良かったな! 我が連れてってやれるのはココまでだ! 後は此奴に任せておけ!」
「あの〜今思いっ切り断られてませんでしたか? ホラ、すっごい敵意剥き出しですけど」
「混乱するのは分かる。まぁそういう奴なんだ、此奴は《《混乱》》を司る闇の住人なのだからな。思考するだけ無駄だぞ」
「は、はぁ……」
そう言うとディスコードは歩いてきた道を引き返していく。
残された名取達の前にコンフュージョンは背を向け一言「ついてこい」とだけ言い歩き始めた。
つい先程まで即答で拒否していた言動とは裏腹にコンフュージョンは先導する。名取達は置いていかれないようにその後をついていく。
スタスタと前を歩くコンフュージョンは一度も背後を確認することなく常人離れした歩行速度で先々前に行ってしまう。
「速い……気を抜いたら置いていかれそうだな」
名取と新橋はギルとデスを背負いながら後を追い、まだ2人には余力は残っていたがルシェルの方が心配になり名取は少し振り返ってルシェルを確認する。
ルシェルは少し苦しそうな表情を見せるも名取と目が合うと「大丈夫」 と強がってみせる。
名取は内心心配しながらルシェルの言葉を信じて前を向いた。
暫く歩いているとコンフュージョンは口を開く。
「蛇を背負う男よ、お前は何故そのような眼を持っている」
「ええ〜と……なんの話で?」
「とぼけるな、お前はその裏に2つ程異なる《《眼》》を隠している筈だ。正直に話せ」
コンフュージョンの問いかけに一瞬理解が追いつかなかったがどうやら名取の「千里眼」と「先見眼」の事を言っている様だった。
もちろんコンフュージョンの前でどちらも発動させた憶えは無いのだがコンフュージョンには既に見抜かれていたようだ。
「別に隠すつもりは無かったのですが貴方の言う通り自分には2つ、《《魔眼》》や《《邪眼》》と呼ばれるものが宿っています。1つは透視や視覚距離の拡大、魔力の流れを視覚する「千里眼」、もう1つは数秒先からやろうと思えば数分先まで、時間によって確実性にブレが生じますがそれを視覚する事が出来る「先見眼」の2つを身に宿しています。どちらも後天的に与えられた『呪い』のような物なのでまだ完全に扱える訳では無いんです」
「そうか、気に食わん眼だ……どこで手に入れた?」
コンフュージョンは名取の目を見る事なく振り返らないまま先を歩きながら名取へ質問する。
名取も隠し事は通じないと思い正直に話す事にした。
「自分の出身は辺境の村ですが『五体様』という古来より言い伝えられている『邪神』と言ったほうが良いでしょうか? 『祟り神』とも呼ばれる神様が100年周期で村の子供の身体の一部に呪いを振り撒くという伝承があって周期ごとに村では山奥の神社で代々受け継がれている神主による加護を受ける儀式を行なっていて……それが7年前でしょうか……当時、季節は冬で感染症が流行っていたんです。村に大きな病院は無く、隣町まで出なければなりませんでした。自分は流行病に感染してしまい儀式が行われる日、儀式には出なかったんです」
名取は魔眼を宿した経緯を話しながら、少しずつ表情と声色が曇っていった。
魔眼を持つようになったきっかけこそ名取にとってトラウマであり、可能なら永久に忘れ去りたい記憶であった。
「何故その儀式とやらに出なかった? お前の故郷では伝承されていたのだろう? 己の命が惜しくば病など些細な問題であろうに貴様の病とはそれほど大きな病であったのか?」
コンフュージョンには到底理解が出来ず、疑問を投げかけた。名取はその問いにも丁寧に答える。
「時代も時代なんです。人間は時代の流れと共に科学力が進歩してきました。よって科学で説明が出来ないものは否定される世の中になったんです。神は勿論、魔術や幽霊、神話生物などは全て否定の対象となります。『神は存在しない』これが我々の世界での常識です。例にも習って自分は『儀式は後日にでも受けられればいい』と考えていたんです」
コンフュージョンの知る世界と名取達の現代社会は決定的に違う。非科学的現象・能力が普通の認識でいる闇の世界の住人である彼女の認識と非科学的現象は《《非現実的》》と揶揄される現代社会を生きる名取達とは世界の認識が全く違う。だからこそ当時の名取や村の住人達とって儀式とは《《伝統》》という認識でしか無かったのだ。
――そう、それは7年前、当時中学生だった俺は神など信じずに儀式に出なかった。それが悲劇の始まりだと知らずに――
ミニコーナー企画!
「密着! 1日ルーティン! 平日編」
これは登場人物の1人の1日の流れに密着してどの様な1日を送っているのか丸裸にしてしまう。
気になるあの人の意外な一面も知れるかも……?
さて、今回1日密着するのは……
荒谷杏奈 登場シナリオ File2 「Cradle of infection」
今回は杏奈のシナリオ後の現在、大学生モデルとしての1日に密着する。
AM9:00〜 起床・朝食
朝に弱い杏奈は、基本的に大学での講義は朝イチからは出ず、基本的にアラームが鳴ってから5分は絶対に動かない。ゆっくりと体を起こし、洗顔やスキンケアの後、スケジュールを確認しながら朝食を済ませる。モデルというだけあって栄養バランスを徹底した食事を摂っており、今回の取材日では撮影の仕事は入っていなかった模様。
AM10:40〜 講義出席
大学に進学してからは、モデルの兼業によって生活リズムが不規則になりがちになることを加味して、大学に徒歩5分のマンションで1人暮らしをしている。案外、講義は真面目に受けるタイプで私語や居眠りはほとんどしない。モデル業に忙しくサークル等には所属しない為、講義が終わると即座に帰宅する。プライベートの少なさやクールな見た目から近寄り難いオーラを放っており、学内での交友関係はそこまで広い訳では無い。
PM16:00〜 帰宅&課題提出
帰宅後は干している洗濯物を取り込んだり講義課題に取り組んだりしている。一度スイッチが切れると何もやる気が起きなくなるタイプだそうで、やるべき事は先に全て済ませておかないと後が大変なのだそうだ。
PM17:30〜 ジムトレーニング
撮影や仕事後は本来、この時間にインフルエンサーとしてのショート動画制作や写真撮影などを行なっているのだが、取材日のような撮影の仕事の無い日や撮影が早く終わる日は、モデルとしての体型維持を目的にパーソナルジムにてトレーニングを行っている。
本人曰く「程良く汗をかく程度で良かったのに」と思っているそうだが仕事柄そうもいかないようで何かとしっかりトレーニングに励んでいる。
トレーニング後はシャワールームで汗を流しているのだが、「家でもっかい入るの面倒だから」とトレーナーに特別に許可を得て自宅とは別で自分の風呂用品を一式ジムに置いており、ドライヤーなども持ち込んでいたりなどもはや第二の家と化している。トレーナー曰く「まぁ、彼女も忙しそうだしね……」と目を逸らしていた。
PM19:00〜 帰宅&夕食
ジムトレーニングから帰宅後は栄養士監修の元、朝食同様栄養バランスを徹底した食事を心掛けた夕食を摂っている。本人曰く「お肉が食べたい」そうで食事中は時折渋い顔を見せる時がある。
PM20:40〜 洗濯&スケジュール確認
スキンケアと同時進行で洗濯を回し、その間にマネージャーと連絡を取り合い翌日以降のスケジュールを確認する。余った時間で課題提出の続きなどを行ったりする場合もある。
PM21:10〜 自由時間
基本的に事務所支給の端末を使って動画やドラマを視聴している。SNSを開いたりするがエゴサーチはあまりしない模様。本人曰く「暇な奴等の批判なんか見る価値無いでしょ?」だという。最近では猫の動画を見るのがマイブームだそう。
22:00〜 就寝
取材日は疲れていたのか「眠い」と一言漏らし颯爽とベットに横になって寝てしまった。
学生とモデルの兼業は多忙なのであろう取材日のような比較的余裕のある時間は貴重なのだろう。彼女にとって睡眠時間は何よりも大事で「今一番欲しいもの」という問いには「睡眠時間」と回答していた。
荒谷杏奈は多忙な毎日を過ごしながら、悲惨な過去を乗り越え新しい日常を過ごしている。
しかし、彼女にもまだ解決していない問題が1つある。それは未だに兄と仲直りが出来ていないことであった。それは本人も気にしているようでいつかその日が来ることを信じてその時には立派に成長した自分を見せられるよう努力する杏奈なのであった。
次は一体誰の1日に密着するのか? 次回をお楽しみに。




