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蛇の少女

 謎多き地下の最下層で神父の娘、ルシェルと出会ったな名取と新橋はルシェルと共に地下からの脱出を目指し行動を共にする。

 地下に関する情報は何も無い中での脱出に一抹の不安を抱えながらも3人は最下層を抜け出し上階へと登っていく。

 上階へと伸びる階段を登り、上階へと辿り着くと、そこは通路のみであった先程の階層とは打って変わって天井が少し高く、足下はコンクリートの床とは違い湿った土が床を埋め尽くし、周りを見渡せば密林の様に植物が生い茂った広い空間となっている。

 そこでは目を凝らさなくても分かるほどに大量かつ多種多様な蛇が蠢いていた。


 植物の間から顔をのぞかせる蛇や部屋中に漂う土、ツル科の植物の青臭さが入り混じったニオイ、そしてフロア中を埋め尽くす湿気が薄っすらとした不快感を与え、少々先に進むのが気が引ける。


 しかし立ち止まってもいられず名取は歩を進めていく。その隣を特に何も感じていないのかルシェルが平然とした顔で歩いている。


「ルシェルは平気なのか?」


「うん、特に何も感じない」


「すごいな、俺はあまりこういう場所は得意じゃない」


 蛇を刺激しないようにゆっくりと進む名取達だが、もちろん何事も無く進めるなんてこともなく、一匹の蛇が名取に向かって襲い掛かる。

 その蛇を新橋が驚異的な速度で掴み、蛇を観察する。


「やはり毒か……注意しろ。当然だがここには毒蛇がいる。特に頭が三角で目が縦長の蛇には注意しろ」


 そう言って新橋はナイフを取り出し毒蛇の首を落とそうとする。しかしその瞬間、ルシェルが突然大声を出した。


「待って! 殺さないで!」


 ルシェルの叫ぶような声に新橋は手を止める。

 ルシェルは新橋のナイフを持つ腕を掴み新橋に訴えた。


「お願い、蛇を殺さないで」


「どうしてだ? 毒蛇は危険だ。見つけ次第排除すべきだろう?」


「うまく言えないけど……多分可哀想なんだと思う……とにかく殺さないで」


 新橋は少々困ったような表情を見せ、少し考えた後、ため息混じりに蛇を手放した。

 そうして毒蛇に襲われながらも殺さずに撃退を繰り返していく内に名取と新橋はあることに気づいた。


「ルシェル、君はどうして蛇から襲われないんだ?」


 それはここまで一度もルシェルが蛇に襲われていない事であった。

 道中、襲撃を受けたのは全て名取と新橋でありルシェルには一度も襲い掛かる事は無かった。2人はそれを不自然に思い、ルシェルに聞いてみることにした。


「知らない。別に特別な思い入れも無いし好きなわけでもないけど……この子達、なんだか自分の様にも思えるの」


「よく分からないな。しかしルシェルが『殺すな』と言うなら殺さないでおこう」


「うん、そうして」


 気がつけばルシェルは手懐けるように蛇を身体中に巻き付けたまま移動する。不思議とルシェルの体に纏わりつく蛇はルシェルの意思に従うように大人しくしており、ルシェルが先行して歩くようになってからは周辺の蛇が道を開けるように退散していき、襲われる事も無くなった。


「本当に不思議だな。蛇と何かしらの縁があるようにしか思えん」


 新橋の目にも新鮮に映っているのかルシェルの不思議な力? に思わずルシェルへの感嘆の声を漏らしていた。


 先を進んでいくと3人は扉を発見する。

 恐らくこのフロアの出口で次のフロアの階段がこの先にあるのだろう。

 ルシェルが振り返って体に纏わせていた蛇達を密林へと帰し名取と新橋も体中に引っ付いている葉や蔓を払って扉を開ける準備をする。

 するとルシェルの体から離れようとしない蛇が一匹いた。その蛇はルシェルの首元にぐるぐると巻き付き、首でも絞めようか不安にさせるも決してそんな事はせず、マフラーの様に首元でぶらぶらとしており、ルシェルが首から振り解こうとすると、ニュルニュルと体をくねらせ、掴ませないように抵抗する。


 ルシェルが困ったような表情をしていると名取は優しく微笑み蛇を掴もうとするルシェルの手を制止する。


「ルシェルがの事が気に入ったみたいだし一緒に連れてってやったらどうだ?」


 ルシェルが「いいの?」という顔をして2人を見つめる。名取は新橋の方に視線を移すと新橋は「好きにしろ」とでも言いたげな顔でルシェルを見ている。


 ルシェルは少し表情が明るくなり、蛇を首に巻いたまま扉を開け、3人は扉の先へと進んだ。


 扉の先では再び少し広い程度の空間また大きな扉があり、その扉の前に2人の少女が座っていた。


 1人は灰色の長い髪に蛇のような瞳、両手両足の指先から二の腕、太ももににかけて鱗に覆われた姿をしている。

 その少女はルシェルの様に体中に蛇を纏わせてシュルシュルと音を立て威嚇する蛇と共にこちらを睨んでいた。


 もう1人も同じく灰色のロングウルフに前髪で片目が隠れ、明らかに身の丈に合わないぶかぶかの黒いローブを纏っている。

 2m程の長槍を携え、前髪の隠れていない方の目で鋭い眼光を3人に向けていた。


 少女2人はルシェルより少し小さいくらいでルシェルと同じ髪色だが、2人は共通して人間の気配が薄く、人ならざる「何か」を感じさせる風貌であった。


「通して」


 ルシェルは少女2人に高圧的な声色で一言だけ放つと黒いローブの少女が触発されるようにルシェルに槍を向けて言い放った。


「それは無理なの。直ちに帰らなきゃこの槍で貫くなの」


「じゃあどうしたら通してくれる?」


「できないって言ってるなの。そこから一歩でも踏み出せばこの槍先がお前の心臓を貫くなの」


 名取は敵意むき出しの少女に戦闘は避けられそうにない事を悟る。

 ルシェルより幼く見えるとはいえ明らかに常人ではない。油断は出来ないと懐から拳銃を取り出し向ける。

 新橋は構えずに見ているままだ。恐らくここの判断も名取に任せるつもりなのだろう。


 互いに睨み合ったまま張り詰めた空気感が流れる。そんな一触即発の雰囲気を割ったのは蛇を纏うもう1人の少女であった。

 少女はルシェルを見て何かに気が付くとローブの少女を制止させ口を開いた。


「……お姉ちゃんだよね?」


「……は?」


 名取は聞き間違いかと思った。

 しかし今確かに蛇を纏う少女の放った一言、それは他でもないルシェルに向けられた言葉であった。


 ルシェルは黙ったまま何も返さない。

 蛇を纏う少女は立ち上がってゆっくりと歩み寄ってローブの少女の槍先を手で沈めた。


「ほら、私だよ? ギルだよ? お姉ちゃん、どうしてここにいるの? パパは自分のフロアでいい子にしててって言ってたよね? それなのにどうして?」


「ルシェル、パパのいい子にするのヤメたの。ルシェルは、ルシェルの為に外に出る。こんな狭い地下よりもっと広い世界が見たいの」


「ふ〜ん、そうなんだ」


「ギル」と名乗る少女はルシェルの言葉に少し考えるような仕草をした後、振り返ってローブの少女と目を合わせると2人で頷きもう一度ルシェルに向き直る。


「うん、いいよ。お姉ちゃんは先に行っても大丈夫だよ。本当はパパに『お姉ちゃんとおじさん2人を見つけたら2人を殺してお姉ちゃんを下に連れ戻せ』って言われてるんだけどね。私達、お姉ちゃんが大好きだからお姉ちゃんの言う事の方が大事!」


「パパの言う通りにしてもパパがくれたのはこの身体だけなの……デスこんな身体要らないなの。お姉ちゃんは沢山遊んでくれたなの……お姉ちゃん大好きなの。だからデス達お姉ちゃん優先するなの」


「そ、ありがと」


「デス」というローブの少女は槍を収め、ギルと共に扉を開け、ルシェルに道を開けた。

 更に一回り程大きな扉が奥に見える空間にルシェルは足を進め、ギルとデスはそんなルシェルを笑顔で見送った。


 イマイチ状況が飲み込めぬまま、名取と新橋をあとに続き先を進もうとした瞬間、デスの槍が名取の喉元を掠める。

 名取は直前で気付き咄嗟に後退した為、紙一重で喉を貫かれる事は無かった。

 デスの後ろではギルが扉を閉めている。


 名取は新橋と共に臨戦態勢に入る。

 互いに身構え向かい合う。互いに目で牽制し合い、誰が初めに動くか緊迫した空気が張り詰めていた。


「通してくれるんじゃなかったのかな?」


「それはお姉ちゃんだけだよ。おじさん達は通すわけにはいかない」


「おじさん達は地上の人、デス達の姿を見た以上生きて返すわけにはいかないなの」


 ギルとデスは扉の前に立ち塞がり退く気配は無い。むしろ溢れんばかりの殺気を放ち、ギルは纏っている数匹の蛇が床に下りてこちらを見ている。


「地上の人達は私達を捕まえようとするの。怖い人達が身体中に酷いことするってパパが言ってたの」


「パパは嫌いじゃなかったのか?」


「パパは欲しいものはくれないけど私達の事は大事にしてくれるの。地下に会いに来た時は必ず遊んでくれるしご飯だって美味しい。夜、外に人がいない時には偶にお散歩に連れてってくれたりなんかもするんだよ? だから別に私達はパパの事嫌いじゃないの。ただお姉ちゃんが特別なだけ」


「デス達はパパの言う事にはちゃんと従うなの。パパからはおじさん達を殺すように言われてるなの」


「そう言う事だから、ゴメンね? おじさん達、死んで」


 ギルが言い終わると同時に、二人の眼光が鋭くなり、ギルの足元の数匹の蛇が一斉に襲い掛かってきた。


 新橋がすかさず反応し、どこから出したのか瞬時にナイフを投げ、ナイフは正確に蛇の頭部を捉え床に釘付けにする。

 新橋の反撃によって床に釘付けとなった蛇を見てギルは大声を上げる。


「あぁー! どうしてそんな酷いことするの!? 蛇が可哀想だよ!」


「だったらその可愛がっている蛇に人を襲わせない事だな」


「おじさん達が大人しく殺されるのが一番でしょ!!」


 怒るギルに冷静に対処する新橋。

 新橋はナイフを刺した蛇に目を凝らしよく観察する。ギルの操る蛇は頭部の形状をよく見ずとも判る特徴的で有名な毒蛇、「コブラ」であった。コブラの毒牙による神経毒は人間20人、象1頭の致死量にも及ぶといわれている。当然、一度でも咬まれればゲームオーバーだ。


「ところでおじさん、そんなに足止めて大丈夫? もう逃げ場無くなっちゃうよ?」


 新橋は周りに目をやると、様々な種類の毒蛇が新橋の周囲を回るように包囲している。

 僅かな時間で作られた包囲網によって新橋はあっさりと逃げ場を失ってしまった。


「まず1人っと」


 ギルが人差し指を新橋に向けると、それが合図となってか周りを囲んでいた毒蛇達が一斉に新橋に襲い掛かった。


 その場から動かない新橋はため息を一つ吐き、祈るかのように両手を合わせ、そこから両人差し指を立て静かに呟いた。


「……流…法……」


 一方、名取はというとデスの雨のような槍撃を躱していた。


「動きこそ素早いが戦い慣れはしていなさそうだ。これなら十分に勝機はある」


 冷静にデスの動きを分析し、無駄の無い最小限の動きで躱していく。


「少しはやるみたいなの。ならこれは避けられるなの?」


 そう言うとデスは床に沈んでいく様に姿を消した。名取はすかさず千里眼を使いデスを探すがデスの実体はおろか魔力の痕跡すら見当たらない。


 戸惑う名取の足下から槍が飛び出し名取はそれを咄嗟に飛び退いた事で間一髪で躱す。


「チッ外したなの」


 床から浮かび上がるようにデスが舌打ちをしながら姿を現し槍を構える。


(千里眼でも視えなかったという事は魔術や妖術の類ではないのか? だとすればあれは異能力の中でも固有で持つとされる《《特異能力》》という奴か? 養成所では一生に一度見るか見ないかとも言われる程のレアケースと教わったがまさか初仕事でいきなり見る事になるとはな……)


 名取は今見た状況を改めて整理し対策を練る。


(奴の特異能力を千里眼で視認する事は出来ない。だとすればもし奴が同じような方法で攻めてきた場合、あの技が一撃限定ではなかったら恐らく躱し切る事は不可能だろう。仕方ない、アレを使うか)


「次は無いなの。これでおじさんは為す術も無くデスに殺られるなの」


 先ほどと同じようにデスは床に潜っていく。

 名取はその場に留まり静かに目を閉じ、すぐに再び見開いた。千里眼によって橙色の瞳だったものがリボルバーの様に時計回りにぐるんと回り、紫色の瞳に切り替わる。



 ――先見眼せんけんがん!!



 その瞬間名取の視界には背後に現れるデスに背中を貫かれる自分の姿が映る。

 名取は即座に振り返り背後に現れたデスの突きを躱す。再びデスは床に潜り姿を消す。

 名取の目には次は足下からの連撃の後、天井からの奇襲にやられる自身の姿が映った。

 名取は足下からくるデスの攻撃を全て回避した後、天井から来るデスの奇襲を予測し先に天井に向けて拳銃を発砲した。


「うえぇ!?」


 まるで全て読まれているかの様な名取の銃撃に動揺したデスは勢い余って天井から落ちてきた。


「あ、あり得ないなの……!? まるで全部バレてるかのようなの!?」


「さて、何故だろうな? 存分に考えるといいさ」


 デスは怒り狂って床に天井に上下から無数の槍による攻撃が繰り出されるが名取は全て繰り出される前から回避行動をとり、いとも容易く躱していく。

 次第にデスの動きは鈍くなり、デスの薙ぎ払いに合わせて後方へ飛び距離を取った。

 目の前でデスは肩で息をしており、見るからにバテている様子だった。


「なんだ? もうバテたのか?」


「ゼェ……ゼェ……別に……バテてないなの……今……息整えてるから……話しかけないで……なの……」


 目に見えてバテていた。

 名取は手こずることは無さそうだなと心の中で安堵し、余裕もできたので新橋の方を確認する。

 新橋の方はというと……もう既に決着がついていた。

 ギルは新橋によって蔓で作ったロープにぐるぐる巻きに縛られ芋虫のようにうねっていた。


「ねぇゴメンってば! これほどいてよ! もう襲ったりしないから!」


「ここに関する情報を言えば離してやらんことも無いがな。言わないならこのまま放っていくがどうする?」


「わかった! 言う! 言うから! 酷い目には合わせないで! そういうのはデスが受けるから!」


「うぇぇ!? ギル!? それはおかしいなの! どうしてデスなの!? あっ」


 デスが気が付くと目の前に名取と新橋がジリジリと距離を詰めてくる。

 デスは後退るもすぐに壁まで追い込まれ、涙目になりながら小動物のようにプルプルと震えている。


「なんか俺達、悪役みたいですね」


「まぁ、しょうがないな」


「や……やめ……」


 こうしてデスも文字通りのお縄……いやこの場合は《《お蔓》》と言うべきか、無事に拘束が完了した。


 蔓に巻かれた2人が横に並べられ、名取と新橋がそれを見下ろしている。

 ギルとデスは初めの方の威勢は既に無く、恐怖に震えていた。


 2人は目の前の少女2人に地下に関する情報を聞き出すことにした。

ミニコーナー企画!


次回予告をやってみよう!


File3 「失楽園の少女」からデスなの。


今の所デスのセリフが少なくて退屈だからここでいっぱい話すなの。


次回予告、やってみるなの。えい、えい、おー。


ギルとデスとの戦闘の末、拘束に成功した名取と新橋は上階の情報を聞き出し、上階へ上がるなの。そこで待ち受けていたのは果てしなく広い茫漠とした世界だったなの。名取達はその空間の支配者である4人の「深淵の住人」に会いに行くなの。でもその人達はすごーく怖い人なの。名取達はそんな人達から地上へと上がる出口を聞き出す事が出来るのか? なの。


次回、永遠の無秩序 次回もお楽しみなの。

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