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●●からの手紙


 タシスはアンバーの背中を見送って、手元に残された封筒を見た。

 表書きには几帳面な筆跡で「カタラ」とある。

 天使と呼ばれ、魔女と呼ばれた彼女の、本当の名前だ。

 いや、本当の名前などというものが、彼女にあったのかどうかも、今となってはわからない。

 ──封筒の内側。

 タシスは鑞で封じられていた折り返しの小さな空白に、表書きとおなじ筆跡でこう書いてあるのを見つけた。





※※※

 

『お前を愛していた。友として。それから、』


※※※





 そうして文は途切れていた。

 タシスはただ、子どものように顔中をくしゃくしゃにして泣いた。

 手紙とも呼べない手紙。

 遺言などと認めたくない遺言。

 そして、恋文というには、あまりに不完全な──。


「馬鹿野郎、この……」


 タシスは声を殺して慟哭した。

 若造のような嗚咽を、連邦各地からの手紙を一昼夜かけて配達した部下たちに聞かれたくなかった。

 部下たちはカタラの亡骸とともに帰還したタシスの判断を仰ぐことなく、寝る間も惜しんで手紙の仕分けと配達とを完遂したのだ。

 届けられずに忘れられる手紙などあってはならない、と。連邦郵便省に属する者として、手紙の魔女を唸らせるほどの矜持を見せたのだ。

 こんな思いは、決して彼らに聞かれてはならない。

 それがタシスの矜持だった。

 ──かつて、あらゆるの書簡をすべての人に届ける郵便をと、無二の親友と語ったおのれの若き日々への責任だった。


「こんな手紙(もの)、寄越さなくてもよかった……ただ、ただ私はお前に……」


 生きていてほしかった。

 そう思っていたのは、お互いに同じことだった。

 ただ、それだけの、ことだった。

 


第3話『親友からの手紙』完


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