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厄災の姫と魔銃使いⅡ  作者: 星華 彩二魔
第四部 一章「悪魔狩り」
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「魔銃使いと魔女と怪物」

 ようやくネアたちから解放された一行。宝物庫からはネアがそれぞれの場所に出口を繋ぎ、無事解散する事ができた。

 アイルカーヌから離れ、クロトとエリーは新たな術を探す旅へ。しかし、無意味に探すわけではない。2人は迷った際、向かうべき場所に心当たりがあった。

 それは、魔女の故郷だ。

 今は無人の街であるが、そこは部外者を寄せ付けず、ウィルオウィスプが結界で管理をしている。以前は単に【呪い】に関する情報を得ようとしたが、【聖杯】が関与しているだけというのみ。確かな情報ではあったが、結果はエリーの中に特別な【聖杯】が使用されているという事実。これ以上の【聖杯】の探索は無意味となった。

 だが、だからといって希望を捨てるのはまだ早い。魔女との付き合いも長くあった彼だが、それなりの時間を生きてきた悪魔である事は確か。なら、人の世では知り得ない情報を有しているやもしれない。一番の情報源である【無限書庫のダンタリオン】は使い物にならないらしく、あてにもならない。ならばと、次に知識を蓄えていそうな者を頼るだけだ。

 

「ウィルさん、何か知ってますかね?」


「さあな。以前は【呪い】の解除法だけで終わったからな。

 だが、それ以外を知っている可能性はある。

 例えば、魔女の魔力核を取り出す方法……とかな」


 現在、エリーの魔力は彼女の中にある【星杯(せいはい)】にあり、【厄星】という【呪い】の一部を生み出す役割をしていた。今もあり、膨大な魔力は解き放たれればエリーの自我すらを呑み込む危険な状態だ。これが魔女が【呪い】の解除を拒む理由でもある。更に魔力の核は【星杯】と完全に繋がっており、簡単には分断すらできない。

 一番の理想は、エリーと魔力核の繋がりを断ち切り、膨大な魔力を封じ込めた【星杯】を【呪い】ごと取り出す。

 あくまで理想。それが叶えば無事にエリーを【呪い】から解放する事ができる。

 近しい方法があるのなら、それを応用することも可能ではないか。クロトはそれをウィルオウィスプが知っていればと、可能性がないか再び会おうとしていた。


「魔女に関しては図書館とかよりも、魔に関する事に詳しい奴がいい。

 アイツなら、そういったものに心当たりがあるかもしれない。

 あくまで仮説だが、会って聞いてみないとわからねーからな」


 行動しなければわからない。わずかでも希望があるのならと、クロトたちは再び魔女の故郷を目指す。

 現在は結界の境界にへと向かう途中。

 ……が。途端にクロトの脚が止まる。


「……で? なんでお前までいるんだよ?」


 後ろを振り向く。傍にはエリー。更にその奥には黒い人影が。

 気にせずにいたのだが、それも我慢の限界だったのだろう。後方で後をついてきていた者をクロトは不快と睨みつける。

 そこにいたのは、――カルトだ。

 おかしい。あの後はそれぞれ別の場所に出たはずだった。

 クロトとエリーは常に一緒ではあるが、まさか紛れてカルトまで同じ場所に移動していたなど、予想すらできていなかった。

 てっきり、ヘイオスたちと一緒に行動していたと思ったが、しばらく前からずーっとついてきていたのだ。

 最初は気配を完全に遮断していたが、徐々にその気配を現してきたため、今になってエリーもカルトがいたことに驚く。

 気付いたならと、カルトは笑みを浮かべて答える。


「そんなに機嫌を悪くしないでくださいよクロトくん。

 背中流しっこした仲じゃないですか~」


「悪いな。俺にはそんな記憶はない!

 勝手な記憶を捏造すんな。クソ野郎っ」


『世界が反転してもクロトのそんな姿は想像できねーよなー……』


「まあ、妄想はその辺にして。私が何故此処にいるのか、ですよね?

 ずばり! 私も久しぶりに魔女様の実家に行きたいというだけなのですよ!

 丁度お別れの前に、それっぽいお話していたので、ついでに付いてきました~♪

 ヘイオスくんと一緒に行きますと、また山に放置されそうなので。

 こっちの方が、面白そうではありませんか~」


 どうやら、カルトも魔女の故郷に行くつもりらしい。

 だが、本当にそれだけなのかと疑いたくもなる。


「……本当にそれだけか?」


「心外ですねぇ……。

 では付け加えるなら、「君たちと一緒にいてみたかった」です!

 キミのことは魔女様からちょいちょい聞いてましたし、お嬢さんは魔女様の娘さん。

 そんな御2人が一緒に行動されてるのに、楽しくないわけないじゃないですか。

 人生というのは、面白いことを積み重ねていくものです!

 なので私は、しばらく御2人と一緒に行動しようと思いまーっす♪」


「――いらねー」


 快く同行しようと言うカルト。しかし、カルトという存在が危険なのは2人も重々承知している。このように明るく振舞っているが、殺戮衝動の塊でしかない。常に包帯で巻かれた右腕にはウロボロスの腕があり、鱗の一枚一枚が凶器である。そんな危ない者が近くにいるなど、不安でしかないのだ。

 だからこそ、クロトは即座に断る。


「とっとと眼鏡のとこにでも帰ってろ。

 こっちは忙しいんだよ。お前の相手なんかしてらんねーんだよ」


「そんな無下にしないでくださいよ~。

 私こう見えて寂しがり屋で~。誰かと一緒にいたいのですよ~」


「うるせー、近づくな。あっちいけ。

 ――できないなら、死ね!」


 最後は最大限の嫌悪を込めて言い放つ。 

 拒絶するも、カルトは恍惚と嬉しさしかない。


「クロトくんは私好みの殺意マシマシでいいですね~♪」


「…………殺すっ」


 ぼそっとつぶやき。クロトは魔銃の銃口をカルトにへと向ける。

 引き金に指をかけ、少しのはずみで撃ってしまいそうな様子。


「ク、クロトさん、やめてくださいぃ!」


 エリーはクロトの腕を引く。魔銃を下ろさせようとするも、ビクともしない。


「放せエリー。アレは歩く危険物だ」

 

「せ、せっかくネアさんのおかげで仲直りできたんですから。

 こういうのはダメですよ」


「俺は眼鏡とだって仲良くなったつもりは一切ない」


『同じくー。

 なんつーの? 生理的に無理な感じー?』


 クロトもニーズヘッグも、カルトの事を良くは思わずいる。完全な敵視だ。

 それもそのはずだ。カルトの言動というのは、常に対象の怒りを買おうとするもの。相手を挑発するのが得意なのか。それとも素でやっているのか。そんな言動にクロトがイラつかないはずもなく。

 要するに、彼の存在一つでクロトがずっと不機嫌になるということだ。

 一番はカルトが空気を読んで身を引いてくれることなのだが、カルトがそんな事をするはずもなく。


「ほらクロトくん。

 お嬢さんは私と仲良しというのをわかってらっしゃいます。

 偉いですよね~~♪」


「やかましい。目と耳でも腐ってんのか? アッ?」


「至って正常ですよ~♪

 にしても、お嬢さんは私にも優しくしてくださるのですねぇ。

 嬉しい限りです」


 そ……、と。エリーの頭をカルトは撫でる。

 途端に、エリーの頭の中でカルトとの出来事がフラッシュバックとなって蘇ってしまう。思わず背筋がゾワッとし、寒気が襲った。未だにエリーもカルトの事が苦手であり、恐怖を体が覚えている。無意識に全身が小刻みに震えてしまう。

 

「あ、あのぉ……っ。

 できればクロトさんを怒らせないでいただけないでしょうか……?」


「私はそんなつもりさらさらないのですがねぇ。

 私は皆さんとこんなにも仲良くしたいというのに。

 片想い気分で私は悲しいです。慰めてください~い」


 ――だから。そういうところだ。

 そういった言動が周囲から嫌われる原因を作っているのだと言ってやりたい。だが、反論したところでカルトが聞くとも思えない。

 

「それにしても魔女様も一言くださればよいのに。

 こんな可愛らしい御子さんがいらっしゃるなんて、私もビックリなんですよ。

 教えていただければちゃんと初めて会った時に御挨拶しましたのに。

 ……あ~、でも本当に可愛らしいですねぇ。

 魔女様の面影もあって、すごく好みです」


 落ち着け。落ち着け。

 エリーは自分にそう言い聞かせることで精一杯だ。

 カルトで怯えないように。恐怖をおさえているも、更に別の恐怖が目の前にある事に気付く。

 

「……おい、お前。

 何そいつに触ってんだよ、マジで撃つぞ?」


 忘れかけていたが、クロトは未だに銃口を下ろさずにいる。

 

「クロトさん……ダメですって」


「クロトくんはお嬢さん大好きなんですね~。

 私も大好きですよ~♪」


『おいおい、なんでこんなクロトの地雷踏みに行くんだよコイツ』


「お嬢さんは可愛らしいですし、魔女としての才能もありますよ。

 それに御心も広い。若いのに素晴らしいの一言ですよ。

 特に、身を犠牲にしてまで他人を助けようというその慈悲深さ。

 そういう方って、聖職者の中でも天使と崇められたりするのですよねぇ。

 お嬢さん魔女さんですけど~♪ あははははっ。

 でもお身体は大事にしてくださいよ~?

 この前の様に身を削る行為なんて………………。

 ……ふっ。思わず拷問した時期を思い出してしまいましたよ。

 苦しみ、それでも藻掻く仕草は芸術感もありますからねぇ~。

 

 そうですねぇ。できれば、もう一度そういうお声を聞いてみたいな~…………なんてっ♪」


 足元に時代が撒かれているなら、カルトはその全てを踏みにようだ。もはやクロトは言葉すら発していない。それは言葉がカルトには一切通用しないと思ったからと、それ以上の怒りを静かながら燃やしているからである。

 これほどまで人を明るい笑みで挑発する者がいただろうか。

 ――いや、いない。

 敵意があるわけでもなく、思った事をそのまま口にして、そうやって相手苛立たせて楽しんでいる。それがカルトだ。

 これはもう手に負えない。どうしようもなさに、エリーは諦めがでてしまった。

 そう思った瞬間、クロトがようやく銃口を下ろす。かと思えば、エリーを抱えカルトから遠ざける。



「――【爆ぜろ。ニーズヘッグ」っ」









 直後。爆炎が起き、爆音が鳴り響いた。

 ついにクロトは撃ってしまった。銃口はカルトよりもその足元である地面に目掛けて。爆炎が広がると同時にクロトはエリーを抱えたまま、猛スピードで森を駆け抜けてゆく。

 平坦だろうが坂道だろうが関係ない。カルトから離れたいという一心でクロトは止まる事なる駆け抜けてゆく。


『やっべー! あの怪物野郎、ホントにやべー!!

 歩く危険物じゃすまされねぇぞクロよ!!

 あれはもう、あれだ! 全ての生命の敵だこんちくしょーーー!!!』


「あんな奴といるだけで寿命削れるわ! 

 クソが、ヘラヘラしやがって。殺して―!!」


『でも死なねーのがアイツだろ!?

 ホントなんてもん用意してんだあの魔女は!!

 あんなんがあん時にいなくてよかったよ!』


 もはや不死身でありながら命の危機すら感じるほど、カルトはクロトにとって無理な存在である。

 いつ周囲の命を狙ってもおかしくない相手。そんな存在と一緒に行動し続けるなど、心身ともに悪影響でしかない。クロトに限らずエリーも同様だ。

 これは逃げではない。自分たちを守るための行動だ。

 そうクロトは言い聞かせた。


「あ、あの……っ、クロトさんっ。

 その……カルトさんが…………」


 遠ざかる元の場所。それはもう目で確認できず、死してはいなくともカルトの安否が不安になるエリー。

 ……が。


「『――あんなのと一緒にいられるかッ!!』」


 このように、クロトとニーズヘッグが息を合わせて言う。これにはエリーも納得してだ周り込んでしまった。

 もはやどれだけ進んだかもわからない。そんな事よりも遠ざかる事に意識が集中していたのだから。

 しかし、視界に森の終わりが見えた。岩山に囲まれた隠れ街。その一部が見え、若干の安堵に息が切れだす。


「さっさと要件すませてあの野郎から一気に距離をとる!

 二度と会うかあんな奴!!」


 そう宣言し、街の入り口に一歩踏み出す。

 それは到着と同時に安全地帯にゴールした瞬間でもあった。

 ……はずだった。



「――あ。遅かったですねクロトくん♪」



 ――ズザァアアアアアッ。

 一瞬。あり得ない声がしっかり脳に届き、クロトはその場でバランスを崩し、エリーと共に豪快に地を滑り転げる。

 撒いたと思っていたカルトは、なんと先に目的に到着し、こちらを待っていた。


「……な……なんでっ」


「いきなり撃つなんて酷いですよ~。

 何も言わずに置いていくなんて、いけずなことしないでくださいよぉ。

 まっ、その程度で私から逃げれるわけもないのですがね♪

 魔女様の実家周辺など、私にとっては庭も同然なので」


「…………ちくしょうがっ。いつか殺すっ」


『俺、もうコイツといるの嫌なんだが……』


 あの爆炎ですら足止めにならず、先回りすらされるなど。もはや距離を置く事ですら困難である。

 その現実を思い知らされてしまう。


「うぅ……、クロトさん。

 やっぱりカルトさんから逃げるのは無理のような……」


「言うな……っ。マジで腹立つ」


 倒れるクロトの頭をずっと突いていたカルト。その手を払いのけ、どうしようもないことで一々頭を悩ませても仕方がない。気にしない、無視して用件のみに意識を集中しようと、一つため息をつく。


「元気でよろしいですねぇ。

 ところでクロトくん。一つお伺いしたい事があるのですが、よろしいですか?」


「……」


「そう怒らず。ただですねぇ。

 ――()()はいつからこうなっていたのですか?」


 カルトは尋ねる。同時に、クロトは前方にへと顔を向け、そして目を見開く。エリーも同様だ。

 しばらく前に訪れた、魔女がいたとされる隠れ街。そこは結界もあり、外からの干渉を断っていた場所。時間が止まったような、人のいない街というのが、クロトたちが認識していたこの街の風景。

 しかし、それは二度目に目にしてみれば、その認識を覆す光景にへと一変してしまっていた。


 人がいないだけの綺麗な街並みは、その時酷く荒らされ崩壊した様にへと成り果てていた。

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