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厄災の姫と魔銃使いⅡ  作者: 星華 彩二魔
第三部 三章「異端の0」
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「綻び」

 ルゥテシアがクロトたちの事を教えはしなかった。だが、そのまま場を治められるわけもなく、渋々リキを呼び戻そうとする。

 王都から離れた場所まで移動はヘイオスに任せれば簡単だ。合流した後は行動しやすいよう、ルゥテシアも準備は整えている。ギターケースを置き、広々とした平原で彼女は軽く声を調節するように喉を整えだした。

 その光景を見守るヘイオスとオリガ。しかし、先ほどの口論の後だ。少し気まずい様子でもある。


「さすがに言いすぎじゃないヘイオス? いくらなんでも、色々隠しちゃってるこっちがあんな事言うのは」


「わかってはいる。だが、ああでも言わねば動かないだろうからな」


「あと、最初っから疑うのもよくないよ……」


「それだけ向こうも疑わしいということだ。リキは正直すぎるが、ルゥテシアは平然と嘘を付いてくる素振りがあった。表裏が極端な相手だからな」


 ルゥテシアには二つの顔がある。

 アイルカーヌの歌姫として、民衆から称えられる顔。

 魔女と繋がり悪魔と契約した、遺産所有者としての顔。

 彼女の名はアイルカーヌでは知らぬ者がいないほど名高い。にも関わらず、彼女は人の世で嫌悪される悪魔契約者でもある。その二つを両立させ、真実を周囲に知られない様にしている。少しでも悪魔との繋がりがもれれば、それは彼女にとってこれ以上ない痛手ともなり得る。

 悪魔で力でその座にいるのか。そういった懸念が向けられ、立ち位置が崩壊してしまう恐れもある。国もそこまでルゥテシアを庇い切れるかもわからない。

 だからこそ、彼女は嘘を被る事で周囲を騙し続けてきた。それは今ヘイオスたちにも向けられている。

 

「とにかく、こちらも一度集まっておく必要がある。リキもいれば、ルゥテシアもある程度はマシになるだろうしな」


「なーんか腑に落ちないけど、しょうがなしかな……」


 その時だ。

 喉の調子を整えた後、ルゥテシアは空を見上げる。口を開き、甲高いか、それとも人の耳では聞き取りづらいものなのか、声とは言えない音を空に向けて放った。

 

「……それでリキに届くのか?」


「なんかよくわかんないけど、変わった音だったよね。リキぽん来るかな?」


 リキは常人よりも優れた身体能力を有している。嗅覚、聴覚など、目が見えずともそれらを活かして活動している。ヘイオスたちが理解できなくとも、リキならできるのだろうと考えた。

 ルゥテシアは笑顔で後ろにへと振り返る。


「うん。これで大丈夫だよ~」


 機嫌は少し前と違い良いと判断できる。だが、それすらヘイオスにとっては安心できない。

 この表情が嘘か誠か。そのどちらかを、今一度バフォメットに問おうとすらした。

 しかし、それは少しばかり遅かった。問うよりも先に、バフォメットの慌ただしい声が届いたからだ。


『ヘイオス殿! そこにいるのはルゥテシア殿ではないですぞ!! ――リリン殿です!!』


「なにっ!?」


 狼狽したヘイオス。それはルゥテシアに、否、リリンには筒抜けで見えていた。

 風が桃色の髪を仰ぐ。笑顔の奥に隠れていた桜色の瞳で、彼女は笑い出す。


「あは~、早くバレちゃったけど、もう遅いよ~ん♪」


 リリンが翼を広げ、その本性を露にする。淫魔の周りには、どこから呼び寄せたのかわからない魔物の群れが集まってきた。多種の魔物たちはその場にいた者たちを囲み牙を向けている。

 

「な、なにこれ!?」


「くっ。まさか、さっきの音は……っ」


 呼び寄せたのがリリンなら、あの音すらもリリンの仕業となる。当の本人など空を飛翔する魔物に紛れていた。


「ごめんね~、ヘイヘイ、オリオリ。リリンは~、ルゥルゥの味方だから~」


「いつから企てていたっ。最初っから裏切るつもりだったのか!?」


「うーん。裏切るっていうか~、あんま束縛されるのリリンも好きじゃないんだよね~。

 だから、ホントーにごめん。悪く思わないでね~」


 リリンは更に空にへと上昇。直後、その姿を追うヘイオスたちに魔物の群れが一斉に襲い掛かった。

 困惑するオリガを置き去りに、ヘイオスは魔剣を構え周囲の空間を抉る。無数に空いた異空間の穴。振り払われた蛇腹の刃は空間に潜り込めば、瞬時に幾多の穴を潜り抜け、間合いに入った魔物を断続的に斬りつけて行く。

 次から次にへと囲む群れ。隙を見てはヘイオスの視線はリリンを探す。しかし、その姿はもう何処にもない。完全にこの場から遠ざかってしまっていた。

 遅れてオリガも対処するも、数のせいで全てを対処するのに時間をかけてしまう。

 完全にリリンたちにしてやられた。後になって、もっと警戒しておくべきだったと悔やむ思いでヘイオスからはため息がもれる。


「……これ、ひょっとしてやばかったりする? ヘイオス」


 オリガの苦笑に不安が混じる。当然だろう。そう思うのはオリガだけではないからだ。

 これまでは7人の契約者の問題だった。その内4人は協力関係に引き込めたものの、残る3人は真逆という状態。それが一気に覆る事態となっている。

 ルゥテシアがヘイオスたちと縁を切ったとすれば、一緒にいたリキをどう見るべきか。利口で魔女に対する恩義も抱いてはいたが、この状況でもそれが通用してるかは定かではない。ルゥテシアが最も信頼しているのはヘイオスたちではなくリキだ。それをふまえ、リキもまたルゥテシアと同じであると考えるのが妥当だった。

 何がそうさせたのか。そう考えるよりも事態の深刻さに頭が痛む思いだ。


「……最悪だな。この様子なら、リキも協力関係を切ったと見るべきか」


「え~、……マジで? なんでこうなっちゃったかなぁ……」


「どうあれ、悩んでいても仕方がない。……厄介な事には変わりないがな」


「どうする? あんま考えるのとか苦手なんだけどー」


「……」


 不安などで頭がいっぱいなのか。ヘイオスは苦悩するオリガの頭を撫でて落ち着かせた。

 

「お前は深く考えなくてもいい。……」

 

 ヘイオスは言葉を詰まらせる。

 前にも言った事を、またオリガに言おうとしてしまった。

 無理せず一緒に行動する必要はない。その言葉を口ずさんでしまいそうになるも、どうにか呑み込んで言わない様にはした。

 オリガにそれを言ったとて、彼女はまた同じように反発してしまうだろう。それが逆に断る選択肢を失くしてしまっている様にも見えた。


 ――わかっている。お前にこれ以上、余計なことを考えさせたりしない。


「不本意だが、別の手段をとるまでだ」


「……なんかあんの? いいアイデア?」


「良案とは、とても言いずらいな。だが、最悪戦力が大きく傾いていると考えるなら、こちらもそれを補う必要がある」


「あたしだけじゃ不満?」


「不満ではない。お前はちゃんと頑張ってくれているからな。だが、それでも限界があるという話だ」


 誰かと連絡をとるつもりなのか。ヘイオスは魔剣をしまうと、代わりに通信機を取り出す。

 オリガにしてみれば、自分以外に連絡を取れる相手がいる事に意外という顔をしてしまうもの。連絡を取り合うような知人の顔を指折りで数えて行くも、全ての指の数よりも少ない。むしろ、いても1人くらいだ。だが、話し方はそれに該当しないもの。

 つまり、オリガの知らない相手という事だ。



「――ああ。すぐに頼む。許可は出すが、今は私の言うことが絶対だ。

 寄り道などせず、その山から下りて来い」



 少々不機嫌そうに通話を切る。

 その後、ヘイオスは「面倒な怪物が……」と、小言を呟いた。

 

 


 

 

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