第二話「異世界の大地に立ちて、物想う」②
「だが、この満天の星空というのは、悪くない……なんとも幻想的で、美しいものだな……」
我が銀河帝国は、銀河の外周部がその主たる勢力範囲だったので、何処の惑星に行こうが、通常宇宙空間だろうが、肉眼では夜空の半分はほとんど真っ暗……たまにポツポツと見えるボンヤリした小さな星は系外銀河……。
そして、残りの半分も遠くの明るい星々がまばらに見えるとか、そんな残念な星空だったからな。
まさに、銀河の辺境っ! 銀河の果ての国……なんだか、すごく田舎みたいな感じがしないでもない。
まぁ、それ故に、銀河中央諸国へ観光などで出向いた者達は決まって、他所の国は星空がキレイだったなどと感想を述べていたものだった。
逆に中央寄りの星系から来たものが帝国に足を踏み入れると、中継ステーションから見える星空がスッカスカな有り様を見て、銀河の果ての果てとはよく言ったものだと実感するらしい。
とりあえず、いつまでも星空を眺めていても仕方がないので、ジャストフィットに過ぎる木のウロからも立ち上がってみる。
……なお、この体の身体年齢は、推定10才児程度のようだった。
もとの私の身体は多分に機械化されていたのだが、設計寿命自体が二十年に満たなかった関係で、成長促進措置も余裕を持って十歳程度でストップさせていたので、大差はないと言えば大差ない。
一応、実年齢は18歳と称していたし、稼働年数もそれくらいだったが、年齢相応のお姉さんとはとても言えなかった。
目線の高さは120cmほど。
特に違和感は感じられない……。
わーいっ! むしろ、全然変わってなーいっ!
手洗いするにも、一生懸命背伸びしないとセンサーが働かないとか、エレベーターの上の方のパネルが押せないだの、普通の椅子に座ると目線がテーブルからかろうじて覗く程度だの……あんな悲しい苦労は、好き好んでしたくもないのだが……。
そこら辺は、前と一緒なのか……?
しかも、相変わらず胸も無い……。
と言うか、完全にフラットだ。
むしろ、前より悪化しておる! 前は少なくとも盛り上がり位はあったぞ!
まさか男の身体? とも思ったが……別に余計なモノが付いていたりもせず、そこら辺は一緒だった。
だが……これはどういう仕打ちなのだ?
タダでさえ、恵まれていなかったのに、ゼロフラットとはどういう事だ?
いや待てよ? もしかしたら、そう言う事なら、この身体は成長途上……そう言う事ではないか!
案外、何年かしたら女性らしく、胸やお尻がボンってなって、腰回りもキュッとくびれて……。
まさに、ハイグレードなお姉さんになれるかもしれない!
ああ、いいなぁ……!
私はもっとこう……お姉さんって感じになりたかったのだ!
誰も何も言わなかったが、他の皇帝達と比較すると圧倒的に背も小さく、むしろ皇帝達の末妹分……そんな風に扱われてもいたのだ。
参加資格は皇帝のみとする合同会議……七帝会議の席で茶菓子などが出ると、次々と茶菓子が回されてきて、私の前に山積みになるとかしょっちゅうだったし、普通の椅子しかなくて、所在なげに突っ立っていたら、チョイチョイと手招きされて、膝の上に乗せられて、次々とたらい回しにされたり……。
七皇帝という者達は、全員同格の運命共同体、要は身内同然と言え、会議の性質上、他の者達の目もなく、記録もされないからという事で、皆、国民の前では常に装着していた皇帝の仮面も外して、会議とは名ばかりで、終始割とグダグダで、何とも和気あいあいとしたものだった……。
実際、最年少皇帝ということで、皆から、可愛がってもらえていたのは事実で、自分より年下の者が死ぬのは見たくないからと言って、率先して戦い散っていった者もいれば、「別にあれを倒してしまっても構わぬのだろう?」と死亡フラグを盛大に立ち上げて逝ってしまった者もいた。
皆、いいヤツらだった。
せめて、仇くらい討ってやりたかったが。
それは、望めるものではなかった。
もっとも、銀河守護艦隊の奴らも最後の突撃は予想外だったようで、艦列もめちゃくちゃになっていたし、同士討ちが発生して何隻か沈んでいたりと、かなり無様な有様になっていたので、一矢くらいは報いることが出来たと思っている。
窮鼠猫を噛んで死んだのだから、上出来というものよ。
最後まで我が伴を務めた者達も全員二階級特進は確定であり、いずれ我が国の軍神として讃えられる事であろう。
我が帝国はその程度には、戦死者に対しては温情を持って報いる国であり、その名誉は国を挙げて守り抜く。
願わくば……我が輩と言える皇帝達と、あの老兵達にも、私のように幸せな次の人生が訪れたであろうことを……心から祈る。
ちなみに、目覚めた場所は、今突っ立っている木のウロの中だと思われる。
ええ、そりゃまだ立っただけで、一歩も動いてませんので。
なんだか、このウロ……やけに身体にジャストフィットしていた感じがしていたし、多分これまでは手足を丸めて、ここにすっぽり収まっていた……ような気がする。
なんだか、縁に薄皮みたいなのを中から破ったような跡もあったので、ひょっとしたら、これはコールドスリープカプセルのようなもので、さっきまで冬眠中だったのかもしれないが……こんな仕組みのものは見たことも聞いたこともなかった。
ただ、周囲を見渡すと、割とすぐ近くに地面があって、てっきり横倒しに倒れた樹のウロ……そう思っていたのだが……どうやら、幹ではなく、地面に飛び出してきた根の途中に出来たウロ……。
どうも、そんな感じのようだった。
なお、根っこと言っても、太さは軽く直径2mはある。
地面につながっていて、細い根がいくつも地面に向かって伸びたりしてなければ、もはや幹が転がっているようにしか見えない。
でも、これで根っこなら本体は……? と思うのだが。
なにやら、少し離れたところに、視界いっぱいを覆い尽くす巨大な壁のようなものがあった……。
その表面は苔むした樹のよう見えて……と言うか、本当に樹の幹のようだった。
「……な、なに……これ……?」
なんだか、とんでもなく大きい。
その事だけは解った。
とにかく、しげしげと周りを見て、それから自分の体をじっくりと観察してみる。
……この身体も、私の元の身体とは明らかに別物。
それは、胸がゼロフラットになってた時点で明白だった。
と言うか、そもそも人類種じゃないような気がする。
なにせ、緑色の髪の時点で地球系人類種ではないのは確かだった。
生前は、長く伸ばした銀髪だったのだが、今の髪の毛は緑色で肩の辺りまでしかなく、頭を揺らすとちょっと軽い。
と言うか、なんとも軽快な感じがして、なかなか悪くない。
色は、多分エメラルドグリーン……そんな髪色の人類種は遺伝子改造でもしないかぎり、生まれるはずがない。
と言うか、それ以前に身体が思うようにサクサク動く。
おおおっ! これはっ! そういえば、マスクなしでの呼吸や歩くのもままならかなったのに、ガッツリと二本の足で立ってるし!
改めて、深呼吸……ああ、空気が美味い!
なんかもう、この身体なら何でも出来そうな気すらしてくる。
ゼロフラット以外は、非の打ち所がないっ!
なお、星明かりで、うっすらと見えている肌の色も、若干緑がかっている。
もう、ここまで来たら、もうピンときた。
この身体は亜人種……それも先天的に光合成能力を獲得している植物系地球外ヒューマノイド種ではないかと思われる。
なるほど、これなら少なくとも簡単に餓死する心配はないし、全く知らない亜人種と言うわけでもないから、多少は勝手がわかりそうだ。
……公になっていないだけで、我が帝国は本来禁忌とされていた地球外亜人種の住む惑星文明のいくつかと秘密裏に接触を持ち、交易を行ったり、希望されて傘下入りをさせるなどで、交流があったのだ。
当然ながら、拒絶の末での不幸な結果となったケースもあったのだが、中には現在進行系で共存共栄が出来ている惑星文明だっていくつかあるのだ。
いずれにせよ、そう言うわけで……。
この緑の髪と肌を持つ光合成種族については、帝国の保護下に下った惑星文明の一種族であり、思いっきり心当たりがあった。
『ヴィルデフラウ』
植物と意思疎通が出来て、光合成能力を持っていて、光と水さえあれば何も食わずとも何年も生存できるとのことで、極めて長命な上に単性生殖で女性しか存在しない……そんな異種族に過ぎる異種族だった。